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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
幻想湖水伝
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幻想湖水伝6

 集まったクオリア達は最初に集合場所に来てすらいなかったクオリア・アメジストを渋々迎えに行き、昼間から酒を飲んでいたアメジストを適当にどつき回してからバスに放り込んでから出発した。

目的地である不実の湖までは道中が舗装されていない悪路という事もあり、到着までは丸一日かかるらしい。

クオリア達は長めの移動時間をそれぞれが思い思いに過ごしていた。


「ヴォエエエエ!!」


 アメジストは最初の道の駅に到着するなり全速力でトイレへと駆け込んだ。

まぁ、バス搭乗する前から飲酒をしていたので悪酔いするのも当然と言えよう。


「みっともない……遊びに行くんじゃないんだぞ?」


 ターコイズが洗面所の鏡の前で身だしなみをチェックしながらアメジストを窘めるが、アメジストはそれで大人しくなるタマじゃない。

ターコイズも本気でアメジストが言う事を素直に聞くとは微塵も思っていなかったが、実際に皆迷惑を被ってる訳だしターコイズの性格的に言わずにはいられなかった。


「うるせーぞキザ夫!酒は好きに呑むのが俺のポリシーだ……ウゥッ!」

「じゃあ今便器に戻してるのも、お前のポリシーか、大層な事だ。どうか僕に近寄らなくでくれよ?」


 小さな売店ではオニキスとサファイアとアクアマリンの三人組が商品を見て回っていた。


「見て、ペナント買った」


 根が真面目なオニキスはサファイアの独特な感性にいつも驚かされる。

一般的に言えば『不思議ちゃん』というやつだ。

オニキスがサファイアの感性に関して一つ学んだ事と言えば、理解するのを諦める事だけだ。

そして今サファイアがドヤ顔で見せつけて来たペナントについても、オニキスには何が良いのかさっぱりわからなかった。


「えぇ……どうするんですか、それ?」

「お部屋に飾る」

「サファイアの部屋っていっつも変な物が一杯あって楽しいよね~」


 アクアマリンがサファイアの買ったテナントを見てコロコロ笑った。

物事を深く考えないアクアマリンの方がサファイアとは話が合う。

オニキスはこの場にアクアマリンが居てくれて本当に良かったと思った。

その頃、バスの車内では丁度エメラルドが目を覚まし、背伸びをして固まった身体を解していた。


「ん~~~!!!……ふぅ、多少はマシになったか」


 それを見たルビーが、チョコを一粒口の中に放り込みながら言った。


「……アンタ、どーせまたゲームで徹夜でもしてたんでしょ?」

「用事がある日に限ってつい徹夜しちまうとか、あるあるじゃねーか?」

「ねーわよ」


 その時、貸し切り状態だった道の駅の駐車場に新しくジープが入って来るのが見えた。

ジープから降りてきたう二人組がクオリア達のバスへと向かって歩いて来る。

道の駅での休憩が終わり、バスに全員が揃った所でアンバーが声を上げた。


「皆、ちょっといいかい?」


 他のクオリア達の目がアンバーに集まる。

アンバーに促されて、先程の二人組が立ち上がった。

一人は好奇心の強そうなクリッとした目が印象深い高校生位の少年だった。

髪の毛が茶色の部分と白い部分が分かれていて、これはおそらくキメラ化した際に動物的な特徴が体毛に現れた結果だろう。

サファリジャケットの上下に丈夫そうなブーツを履いており、完全に探検モードの恰好だ。

もう一人は同じく高校生位の年頃の、少年より少し背が高い金髪碧眼の美少女だった。

少年の活発さとは対照的に落ち着きがあり、少し人見知りなのか、多少緊張して表情が固くなっている。

頭部に生えてる角は山羊のものと似ていた。

こういった時、二人の間では役割が決まっているのか、目配せも無く少年の方から話始めた。


「はじめましてクオリアの皆さん、探検家のスティーブ・ジョーンズと申します、本日はどうぞよろしくお願いします」

「……助手のライラ・ウェステンラです、よろしくお願いします」


 二人の自己紹介を受けてクオリア達はざわざわ騒がしくなった。

というのもこの二人、現在のセカイでは知らないヒトの居ない程の有名人なのだ。

アプリ『新世界博物誌』の若き創設者としてその名を世界中に轟かせている。

新世界博物誌とはSNSに似た性質を持つwikiで、不特定多数のユーザーが新種の生物や珍しい自然現象に関係した写真や動画を投稿しあって交流する他に、多数の学者等のプロも情報収集の場として利用している。

日々様々な項目が追加・修正されているという現在のアプリダウンロード数のトップ争いが出来る巨大コンテンツだ。

今では専門知識に興味が無い一般人も、新しい土地へ出かける際には新世界博物誌で危険生物や自然現象について予習するのが常識となっている。

というか予習を怠ると簡単に命を落とす程、戦後のセカイでの野生の力はヒトビトの脅威になっているのだ。


「僕はクオリア・アンバー……よろしくね二人共」


 アンバーの強烈なウィンクと共に専門家二人を加えた一行は本格的に森林地帯へと入って行く。

道なき道を進み、大森林の奥地にある不実の湖を目指して。

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