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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
幻想湖水伝
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幻想湖水伝4

 リキッド・クリスタルの本社ビルはジュラルバームの中心地から結構離れた開発予定区にある。

何故ジュラルバーム家肝煎りである筈のリキッド・クリスタル社がこんな場所にあるかというと、それはジュラルバーム家を始めとした街の貴族達が街の景観を気にしたからで、意外な事に富裕層には高層建築を嫌うヒトが多い。

そもそも人類が高層建築を出来るようになったのは20世紀後半になってからで、現代的で歴史の浅いビルは伝統が乏しく格が低いと見られる。

よくよく考えてみると、真に高貴な人物というのは案外背の低い建物を住居としている場合が多い事に気付くだろう。

タワーマンションの高層階を買って不動産を転がしてる様な輩は所詮成金に過ぎないとジュラルバームでは見られる。

しかしそういった事情はまた別として、リキッド・クリスタル本社ビルはジュラルバームでは類を見ない程巨大な社屋だった。

今は区画整備されただけで周囲に何も無いが交通を始めとした各種インフラもしっかり整っており、これからジュラルバームでビジネスを始めようとする者達はこぞってここに建物を建ててゆくのだろう。


・・・


 クオリア・オニキスが部屋に入ると既に他のクオリア達が勢揃いしていた。

部屋は約五十畳程の広さで内装はシンプルかつ高級感を演出するように纏められており、如何にも勢いのあるベンチャー企業の応接室といった感じだ。

普段ならば集まると騒がしいクオリア達が、何故か今日は皆静かで空気が重く、とても再会を喜び合う様な雰囲気ではなかった。

オニキスが勝手が分からずに部屋の入り口に立ったままでいると、部屋の一番奥に座っていたスーツ姿の男性がオニキスに歩み寄って来た。


「ようこそ、リキッド・クリスタルへ……私はリキッド・マスク。この会社の社長を務めています。本日は私達の招集に応えて頂きありがとうございます、オニキスさん」

「……えぇ、よろしくお願いします」 


 そう言ってリキッドが手を差し出して握手を求めてきた。

オニキスは警戒心から戸惑ったもののぎこちなく握手に応えると、案内された席に座った。

リキッドは自分がクオリア達からよく思われてない事を知っていて、変に刺激しない意味でも余計な事はせず本題へ移る事にした。


「既にお伝えしている通り……今日皆さんをお呼びたてしたのは他でもない、クオリア・パールの行方について手がかりを掴んだからです」


 パールの名前が出た事でクオリア達の緊張が高まる。

話に出たクオリア・パールとは以前メタトロン奪還任務を放棄し、鉱物生命体メタトロンを体内に取り込んで暴走したクオリアの事だ。

モスクワ上空での戦いの後、行方不明になっている。


「我々の調査の結果、クオリア・パールの大体の場所が特定する事に成功しました。皆さんにはその捜索の手伝いをお願いしたいのです」


オニキスが小さく挙手をしてから発言した。


「何故貴方達だけで回収に向かおうとしないのですか?」


確かに調査だけを勝手にして回収をクオリアに頼むというのは不自然な話だ。


「既に何回か調査チームを向かわせましたが……パールの反応に近づいたチームは突然何の連絡もなく行方不明になりました。普通のチームでは歯が立たないのです」


リキッドの話にエメラルドがせっついた。


「もういい、端から用件はわかってんだ……まどろっこしいのは無しにしようぜ?場所は何処だ?」

「わかりました、その方が我々としても話が早くて助かります。今回パールの反応が見つかった場所は『不実の湖』と呼ばれる場所です」

「……不実の湖?」


初めて聞く地名にクオリア達がざわついた。


「クオリア・パールの反応はそこで見つかりました」

「初めて聞く地名だけど……それはどこにあるんだい?」


アンバーの質問にリキッドが答える。


「場所はここからそれほど遠くはありません。リキッドクリスタル本社がある此処、学園都市ジュラルバームの東に広がる広大な森林地帯、その北東部にある9つの湖の一つです」

「また厄介な所ね、ジュラルバーム東の森林地帯といえば確か『鎮守指定地域』の近くじゃない?」


詳しい場所を聞いたルビーが難しい顔をしているとサファイアが小さく耳打ちした。


(ルビー『ちんじゅしていちいき』ってなに?)

(ゲヘナの目撃例があるっていう場所の事よ、今話に上がってる森林地帯で目撃されるのは主に坤帝コンテイって呼ばれてるヤツね)

(……もしかしてゲヘナ、見れるのかな?)

(バカ言ってんじゃないわよ!ゲヘナなんて自分勝手にセカイを滅ぼして造り替えた連中なのよ?出くわしても絶対ロクな事にならないわ!)

(そうかなあ……?)


 目を閉じて腕を組み、ふんぞり返りながら椅子に腰掛けていたアメジストが口を開いた。


「場所はわかった、じゃあお前等は俺達に何をしてくれるんだ?」


いつも傍若無人なアメジストだが、今日はいつにも増して刺々しい。


「我々は所詮まだ強い影響力を持たない新興企業ですが……資金の提供と現地まで送迎、それと短剣調査のエキスパートに協力を取り付けました」


リキッドは続けた。


「他にも必要な物があれば出来うる限り、こちらで用意しましょう。皆さんが我々をマーカス博士の技術を盗んだ泥棒だと感じているのは重々承知の上ですが……そこを押して、どうかよろしくお願いします」


そういってリキッドは深々と頭を下げた。

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