幻想湖水伝2
「先輩先輩!出来ましたよ!」
いつもテンション高めのラファエルが、今日はさらなる超ハイテンションで社長室のドアをバーンと開いて声を張り上げた。
「なんだ騒々しい……それと私の事は、先輩ではなく社長と呼べと何度も……」
「まあまあ、細かい事はいいじゃないっスか……それより見てください、我らが新商品のサンプルが届きましたよ!」
先輩から社長へと肩書きの変わったリキッドのお小言を適当に宥めながら副社長ラファエルは話を続ける。
ラファエルが指輪型のキャスターを起動させると中からなにやら色々なものが出てきた。
一見するとそれらは何の変哲も無い日用品にしか見えないが、この二人が関わるモノが普通であるはずもない。
机に散らばる日用品を見てリキッドは目を細めた。
「ほう……これら全てに『シャード』が使われているという訳だな?」
「そうっス」
リキッドは日用品の中からライターを手に取ると動作を確認する為に点火してみる。
すると小さい炎が踊るのと連動する様にライターに取り付けられた長方形の赤い石が淡く光った。
この赤い石こそが『シャード』一言で言えば量産したクオリアのレプリカだ。
オリジナルと違って意思は無く、出力もオリジナルに比べ物にならない程劣っているがクオリアと同じ能力がある。
つまり燃料無しで火が起こせるという訳だ。
人類の生存圏が大幅に縮小した今のセカイでは常にエネルギーが不足している為、小さい火を起こせる程度のライターでもそれなりに価値がある。
「ふむ、これはルビーから複製したシャードか……」
「そっス、まだ大掛かりなものは無理ですけど……これ位なら量産も簡単っス」
「この程度のものでも燃料要らずというのではあれば話は変わってくる……今のセカイでは十分過ぎる価値だ。それより肝心要のあっちの方はどうなってる?」
こんなものは所詮副産物に過ぎない。
シャード研究開発の目的は開発がスタートした時からもっと別にある。
「流石に『アレ』は造りが複雑ですから、すぐにという訳にはいかないっスねぇ……メタトロンの本体があればまた話は違ったんスけど」
「もう無くなった物をとやかく言っても仕方あるまい……まぁウチは上場すらまだなんだ、本格的な利益の追求はそれからでも遅くないだろう」
リキッドは試作品のライターを机に置いてから椅子に腰掛けて息を吐いた。
それを見たラファエルが妙にワザとらしく言った。
「……あ、そうだ。先輩喉渇いてないッスか?」
「ん?いや別に……」
「ですよねぇ!……おーい!コーヒー二つ持ってきてー!」
ラファエルがドアに向かって声を掛けると、人型の白いロボットがコーヒー2杯を銀色のお盆に乗せて二人の元へやって来た。
リキッドはそれを見て大層驚いた様子で、最早ロボットが持ってきたコーヒーなんか目に入っていない。
「まさか……これが?」
「そう!クオリアの技術の応用……その雛形!シャードソルジャーちゃんでぇぇっす!!」
ラファエルがコーヒーを持ってきたロボットの傍に駆け寄る。
白いロボットはほぼフレームのみの状態で人型をしているが、ロボットというよりも白いマネキンといった表現の方がしっくり来る見た目だ。
頭はあるが顔がなく、ただ頭部がくっ付いているだけの状態だ。
「もう出来たのか!?」
「……まぁ流石にまだ試作機の試作機みたいな段階ですけどね、実行できる命令も単純なものだけですけど……早く先輩に見せたくて無理言って持ってきちゃいました」
「いいぞ、素晴らしい!」
リキッドは珍しく上機嫌になり声を弾ませた。
「面白くなりそうッスね!」
「あぁ、これからセカイが変わるぞ」
「やっぱ先輩に付いてきて正解でしたよ!仕事っつーのはこうでなくっちゃなぁ~!」
こうしてまた一つ、セカイに新しい変化が齎されようとしている。
しかしセカイはまだ彼等を知らない。