星のクオリア75
虹色の軌跡を描きながらオニキスが接近を試みると、自然とパールがそれをオニキスを迎え撃つ形になった。
パールはオニキスを迎撃しようと光剣を飛ばしてみるが、オニキスは他のクオリア達の能力を複数同時使用して光剣を上手く躱している。
ターコイズとエメラルドのスピード、オニキス自身の重力操作、アメジストのデコイ等々……どうやら回避に専念しているらしく、攻撃は手に持った虹剣に絞るつもりなのだろう。
もう少し距離があればもっとやりようがあっただろうが、この距離で回避に専念されると流石に命中させるのは難しくなる。
「小賢しい真似を……」
パールは意識を集中すると手元に光の槍を作り出した。
一見地味に見えるそれは今まで雑に飛ばしていた光剣よりも遥かに出力の高い一撃必殺の武器だった。
遂に光槍と虹剣がぶつかり合うと二つの武器は拮抗し、衝撃波を巻き起こした。
「はあああ!!」
押し合いでは体格の大きいパールが勝ち、オニキスが一旦後ろに下がる。
その隙を見てパールの槍の鋭い突きがオニキスを追いかけるが、アンバーの岩の盾がそれを阻もうと現れる。
しかし岩の盾ではパールの攻撃を防ぎきれず貫通されてしまう。
防御が無理だと即座に判断したオニキスは岩の盾を爆発させてパールに礫を浴びせる事でそれ以上の追撃を防いだ。
(正直、戦闘技術ではパールが上……それに私達の力はどうしても不安定さがある)
出来れば短期決戦で勝負を決めたいが、それをするとなるとどうしても一か八かの賭けになる。
オニキスの中のアメジストが大笑いした。
(ヒャハハハハハハ!随分と無謀な事を考えているなあ!?いいぜ、そういうのは嫌いじゃねぇ!やっちまえ!)
危険な賭けだが、上手く行けば自分の能力でパールに一泡吹かせられそうだという事で、アメジストが大張り切りした。
これまでのデコイとは比べ物にならない程精巧な、まさに鏡移しと呼べるオニキス分身を瞬時に十数体造り出した。
オニキスは分身達に紛れて同時にパールへと攻撃する。
パールは慌てる事無くオニキスの分身達を観察した。
(いくら隙を伺おうと無駄だ……所詮は付け焼刃、私には通用しない!)
ここにパールの油断があった。
『分身に紛れて攻撃するのなら最初の数体は様子見になるはずだ』と無意識に考えてしまったのだ。
「はあああああああああああ!」
しかしオニキスは全ての分身を置き去りにして一番最初に攻撃を仕掛けてきた。
分身を撃退する為の雑な横薙ぎを受け流されたパールは、オニキスの接近を許してしまう。
「これで終わりです!!」
「バカなっ!?メタトロンの力を取り込んだ私がこんなことでえええええええ!!!」
虹剣がパールの身体を通り抜けると、胴体から真っ二つになったパールの身体の中からメタトロンが解放され、宇宙へ飛び去って行った。
パールが力を失って落下を始めるのを見て、ようやく勝利したのだという実感がオニキスの心に染み渡っていった。
「やった、やりましたよ皆……!!」
勝利を確信した瞬間、オニキスは思わず気を緩めてしまった。
「あっ!バカっ!今気を抜いたら……!」
するとオニキスの体に無数の小さなヒビが一斉に入り、隙間から虹色の光が漏れ出した。
合体したクオリア達に酷使されたオニキスの体は既に限界を迎えていた。
「オイオイオイオイ!まさか、まさかだよな?」
「う~ん、爆発するんじゃないかな?」
「爆発四散……ナムアミダブツ、サヨナラ……」
「爆発オチなんてサイッテー!!!」
「やれやれ……どうにもスマートにはいかないか……」
「オニキス!なんとか我慢してぇー!!」
「気合だ!気合で耐えやがれ!」
「あああああああああ!む、むりぃ……!」
「「「「「「「「うわああああああああああ!!!!」」」」」」」」
クオリア達の断末魔と同時にオニキスの体も爆発四散した。
パールも含めたクオリア達は皆、核だけの状態となり重力に引かれ地上へと墜ちて行く。
その時、成す術の無く落下するだけのクオリア達に働きかける力があった。
その力の正体は、子供であるクオリア達にはすぐに分かった……これはメタトロンの力だと確信だ。
力を失っていたクオリア達に活力が漲り、通常では考えられない速度で皆の身体が再生した。
物言わぬメタトロンの、それが別れの挨拶なのだとオニキスは思った。
「ありがとう……そして、さようならメタトロン」