星のクオリア72
地上から遥か1000km上空……地球と宇宙の境目、熱圏で行なわれている戦いがある。
無限の光を操る白と鮮やかな虹を纏って宙を駆ける黒。
地上から宙を見上げる全ての存在にとって、それは何千年も昔から久しく更新の無かった『神話』の新しい原形だった。
・・・
パールへと接近を試みるオニキスを、まるで嵐の様な激しさで光剣達が遮ろうと襲い掛かってくる。
触れれば何もかも貫き消し飛ばす破壊力をもった豪雨の中を機動力で避け、あるいは氷炎で撃墜し、あるいは岩の盾で防いで、あるいは水で屈折させ、あるいは紫の軍勢で受けながら、虹を纏った黒点が光の中心へ至ろうと駆け抜ける。
クオリア達の連携と奮闘で無限と思われた光の包囲網にも遂に終わりが見えた。
「これなら……!」
たった数百メートルの距離を詰めるだけなのに随分を遠回りをさせられたが、ようやくオニキスはパールの目前まで肉迫する事に成功した。
しかしパールは相変わらず腕を組んだまま、余裕の笑みを崩さない。
繊細一隅のチャンスにオニキスが渾身の力で能力を発動させた。
「グラビティ・オニキス!!!」
合体によりパワーアップしたオニキスの全身全霊を込めた、先程ターコイズを救出した時とは比べ物にならない程の出力と視界を覆い隠す程の広範囲の暗黒。
周囲に何も存在しない熱圏だからこそ全力で放たれる超重力球。
オニキスを中心とした周囲300kmの空気を一瞬にして圧縮し尽くし、あらゆる物質を圧縮消滅させる回避不可能な絶対破壊範囲攻撃。
しかし慢心からかパールはそれを避けようともしない。
「今度こそ!!」
オニキスの中のクオリア達も勝利の予感に沸き立った。
「フフフ……」
しかしパールを覆い隠すように現れた、巨大な光の盾が重力球を受けた。
巨大すぎる重力球が弾け、周囲の空間を諸共消滅させようと暴れまわる。
重力球の巨大すぎる引力に巻き込まれない様、オニキス自身も防壁を展開する。
破壊の嵐が過ぎ去った後、巨大な光盾が光の粒になって霧散すると、そこには無傷のパールが平然と立っていた。
「どうした、これで終わりか?……そもそもクオリアの力は所詮メタトロンの力の欠片に過ぎないのだ、子であるクオリアが親であるメタトロンに敵う道理は無い」
「そ、そんな……!?」
やっとの事でパールの猛攻を掻い潜り、渾身の一撃を放ったオニキスだったが全力で放った攻撃すら呆気なく防がれてしまい、一転して窮地に陥ってしまった。
辛うじて負けてはいないが、パールの強力なバリアを破る術は見つからない以上、このままでは敗北は時間の問題だろう。
「このままでは……何か方法を考えないと……!」
慌てるオニキスとは対照的に冷静なターコイズが口を開いた。
「僕達の中で攻撃力が一番高いのはオニキスだからね、その君の全力を真正面から受けて傷一つ付かないとは……」
考えるのが苦手なアクアマリンも、うんうん唸って一生懸命に考えている様子だった。
「うーん、うーん」
「いちいち唸るんじゃねえよ、気が散ってしょうがねえ!」
打つ手がない状況に焦りを感じたエメラルドがそれに反応してキレたが、何かを思いついたアクアマリンが勢い良く発言した。
「あっそうだ!もしかして皆の力を一つに合わせればいいんじゃないかな!?」
突拍子も無い提案にルビーが呆れた様子でツッこんだ。
「……アクアマリン、あんたアニメの見すぎよ」
「ひどいよルビー!まじめにかんがえたのにー!」
「……いやまてよ、案外悪くねぇかもしれん」
意外な事に、アメジストがアクアマリンの提案に賛同した。
普段のアメジストとは違う雰囲気を感じたアンバーが先を促した。
「……というと?」
「つまり力をバラバラに使うんじゃなくて、全員の力を融合させるんだよ」
今合体してるのだって初めての経験だというのに更に能力を融合させる?
「果たしてそんな事が可能なのか……?」
一応既に身体が合体出来ているのだから、あり得ない話ではない…………かもしれないが、無茶苦茶だ。
クオリア達は皆、半信半疑のままアクアマリンの提案を試してみる事にした。
それぞれがいつも通り能力を使う要領で意識を集中させると、全員が右手に力を集中させた。
「うわぁ、なんか出来たよ……!?」
「出来たのはいいが……一体何の力なんだこりゃ?」
「さあ……しかし物凄いエネルギーを感じます」
「なんか暖かい……」
「ええい!なんかよくわからんが、とにかく今はこれに賭けるしかねえ!」
そこに有史以来、誰も見た事の無い、全く新しい光が生まれた。
それはクオリア達の色が混ざり合った様な柔らかい虹色で、ほんのり温かく、何処か幻想的で、なのに懐かしい。
生まれたばかりの曖昧な力の塊を、制御しやすい形にイメージし直す。
(戦う形……)
それは皮肉にもパールが形の無い光を戦う為に剣の形に収束させて操っているのと同じ手法であり、そして偶然にもオニキスが今回の旅で出会ったお節介焼きの男に、たまたま教わった剣の扱いが影響して出来たものだった。
気が付けばオニキスの右手には、虹色に輝く一振りの剣が握られていた。
「今度こそ……これで終わらせましょう……!」
未だ名前の無いそれは強いて言うなら命であり力、想いであり絆だった。




