星のクオリア63
アクアマリンの制御を離れた大量の水が街から海へ流れ出て行くのをオニキスが空から眺めていた。
ほぼ街全域に対しての継続的な能力使用で、既にオニキスは両脚を失っていた。
「危ない所でしたが……ガレスが上手くやってくれたみたいですね……」
戦いが終わった事に一人胸を撫で下ろしていると、通りの向こうから今回の功労者が駆け寄ってくるのが見える。
オニキスはゆっくりと高度を落としながらガレスに手を振る。
「おーい!」
「うまくいったみたいですね、ありがとうございます」
「まあ、なんとかな……」
「……何かあったんですか?」
勝ったというのに何故か浮かない表情のガレスを見たオニキスが問いかける。
「実は今日戦う前に、アクアマリンと一度この街で会ったんだ……」
ガレスは街であった事をかいつまんでオニキスに話した。
「なるほど、そんな事が……でもまあアクアマリンなら大丈夫です、次に会った時には今日の事なんて多分覚えてませんから」
オニキスのにべも無い言い草にガレスの胸ポケットから核だけになったアクアマリンが飛び出して来た。
「ちょっとちょっとちょっとー!確かにオニキスのいうとーりだけどっ!そんな言い方はないじゃんか!」
アクアマリンは核だけの状態でも感情表現の絵文字が見えるくらいプンプン怒っていた。
「…………その通りなら良いじゃないですか、それよりも封印するんでこっちに来てください」
「いーやーでーすー!冷たいオニキスちゃんなんかしりませんー!!」
アクアマリンはぴょんっとガレスの服の胸ポケットに潜り込んだ。
「どうせならガレスと一緒がいいな!ガレス、一杯お話したい!いいでしょ?」
「ダメです!!!」
オニキスはガレスの胸ポケットに強引に手を突っ込んだ。
「や、やめろオニキス!ああっ!!」
「ああっ!じゃないんですよ!さっさと核を渡して下さい!」
「いや俺に言われても……!」
なんとかかんとかアクアマリンの核を捕獲したオニキスは宝石箱を取り出した。
いざアクアマリンを封印しようとした時、アクアマリンがヒソヒソ声でオニキスに問いかけた。
「……ねえねえ!もしかしてオニキスって、ガレスの事好きだったりする?」
「なっ!?」
オニキスはあまりにも分かりやすく動揺してしまい、思わず手を止めてしまう。
「なっ、なんですか急に!」
慌てるオニキスに構う事なく、普段と少し様子の違うアクアマリンが続けた。
「あのね……わたしもガレスの事、ちょっと気になってるんだ~」
「……ええええっ!?」
アクアマリンの爆弾発言にオニキスは驚きのあまり変なポーズで硬直してしまった。
「一体何故そんな事に……?」
「ガレスの優しい所、なんかいいな……って♡」
「そ、それはスッッゴイ分かりますけど……でもぉ」
「だから聞いたの……二人がもう恋人同士なら、わたしは諦める」
核になったアクアマリンの表情は見えないが、その声は珍しく真剣そのものだった。
なのでオニキスも適当に話をはぐらかしたりは出来なくなってしまう。
「……確かに私はガレスの事が、すっ好き、なんだと思います……けど」
「けど?」
「今の私には使命があるし、どうしたらいいかわからなくて……実は出来るだけ考えないようにしてました」
それを聞いたアクアマリンは激しく明滅した。
「好きならちゃんと好きだって伝えなきゃ!」
「ちょっと!声が大きいです!……でも本当に伝えなければいけないんでしょうか?私の気持ちを伝えてしまったら、今までの関係が壊れてしまいそうで……その、怖いというか……」
「だめだよ!ちゃんと言わなきゃ伝わらないでしょ!」
「でもそんな急には……私にも、その……いろいろと心の準備が必要というか……」
「じゃあわたしが先に告白するね!」
「駄目!」
「えー?なんでオニキスがそんな事いうのさー?何の権利があってー?」
「うっ!……とにかく、駄目なものは駄目です!」
「しょうがないにゃあ~……特別にこの騒動が終わるまでは待っててあげるから、それまでにはちゃんと好きって伝えるんだよ?」
「あ、ちょっと!」
言いたい放題言ってからアクアマリンは自分から宝石箱に入って行くと、後には赤面したオニキスときょとんとしたガレスが残された。