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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア60

 ガレスとオニキスがルルイエに到着してから早一週間が経とうとしていた。

明日は遂にルルイエがユーラシア諸島のモスクワに到着する予定日だ。

ここまでも色々あったが、二人の旅もいよいよ終わりが近づいてきた。


・・・


 ルルイエがモスクワに到着する予定日。

その日のルルイエの天気予報は一日中快晴、航行には何の影響も無い…………筈だった。

しかし『何故か』未明から降り始めた局所的な雨は見る見るうちに嵐へと成長し、あっという間にルルイエを航行不能まで追い込んだ。

異常気象により航行不能になったルルイエは雨が止むまで錨を下ろして完全停止して排水に専念する事になった。

ニュースではとっくに避難勧告が出されていて、観光客も住民も既に表層の市街地からルルイエ内部の非常用シェルターへと避難している。

表層では街を水没させて尚、弱まる兆しを見せない豪雨が喧しく窓を叩いている。

雨音を劈く様な音量でスピーカーから警報が流れ続けていた。

そんな中、ガレスとオニキスの二人は避難をせずにホテルの部屋でじっとしていた。

二人共どこか緊張していて口数が少なく、まるで何かを察しているかの様だ。


「すげえ雨だなぁ……俺も方々旅しているが、こんな大雨に出くわしたのは初めてだぜ」

「クオリア・アクアマリンが動いたのでしょう」

「やっぱりか……目的地はもう目の前だ、もうひと踏ん張りだな!」

「えぇ……」


 なんて話をしていると突然部屋の窓の外にイルカが現れた。

二人の居る部屋はホテルの5階、いくら冠水してるからって魚が登って来れる高さじゃない筈。


「なんだ!?ん、コイツ……もしかしてアクアマリンが連れてたイルカか?マジか、ここ五階だぜ?普通のイルカは空を飛ばないんだが……」

「よく見て下さい、おそらくアクアマリンの力によるものでしょう」


 よく見るとイルカが水球に包まれているのがわかる。

オニキスの言う通り、イルカを包んでいるこの水球も豪雨と同じくクオリア、アクアマリンの力の一端なのだろう。


「おそらくアクアマリンが寄越した使いでしょう……いずれにせよ私達の位置は彼女に知られているようです」

「もしかしたら、最初に出会った時も既に俺の事知ってたのかな?」

「そうですよ!貴方はもっと危機感を持ってください!」

「へーい」


 イルカは可愛くきゅーきゅー鳴きながら窓を鼻先でノックしている。


「…………」


 二人は顔を見合わせてから頷き合うと、ゆっくりと窓の鍵を開けた。

凄まじい雨が部屋の中に殺到し、あっという間に部屋がびしょ濡れになってしまった。

イルカは二人を誘導するように向かいのビルの屋上まで飛んでから二人の方へ向き直ると、そのまま二人を呼ぶ様に一声鳴いた。


「……行きましょう」


 そう言ってオニキスがガレスに手を差し出す。

飛んで追いかけるのだろうと察したガレスだったが、以前二人で空を飛んだ時の事を思い出すと手を出すのを躊躇ってしまう。


「……大丈夫か?」

「今度は大丈夫……私を信じて下さい」

「わかった」


 オニキスの気持ちにも多少の変化があったのか、その瞳には以前見られなかったある種の『強さ』が宿っていた。

それを見たガレスは嬉しさと寂しさが混ざり合った様に息を吐いた。


「わかったよ。エスコートは任せたぜ王子様?」

「えぇ……普通逆じゃないですか?」

「はっはっは、生憎俺は王子様なんてガラじゃなくてなぁ」


 ガレスの軽口にオニキスは微笑みで返した。

オニキスは張りつめていた緊張の糸が少し緩むのを感じた。

二人が豪雨の中、イルカの後を追いかけていると冠水した市街地の広場に到着した。

不思議な事に広場の中央にある噴水の周りだけ豪雨の影響を全く受けておらず、噴水の水は不気味な程いつも通りで、激しい雨粒もまるで意思を持っているかの様に噴水を避けていた。

突然、噴水の水の中から何かが飛び出してきて、そのまま大きくジャンプした。


「おおっ!?なんだ!?」


 海の様に透き通る水色の肢体と暗い深海を思わせるダークブルーのロングヘアーの背の小さい少女が、ふわふわしたデザインの白いビキニの水着姿で飛び出して来た。

オニキス達を見たアクアマリンは無邪気な笑顔で二人を迎えた。


「オニキス!ひさしぶり!やっほー!」


 アクアマリンは豪雨の中でもよく透る、快活さ溢れる声でオニキスに手を振った。

まるで待ち合わせた友達を見つけた様に喜ぶ顔には一切の敵意を感じない。

これから戦うと分かっているオニキスも何故かホッとしてしまう様な、太陽の様に眩しい笑顔だった。


「久しぶりですね、アクアマリン」


 アクアマリンに釣られてか、オニキスも表情を少し柔らかくした。


「おじさんもやっほー!あの時はありがとね!」

「いや、おじさんじゃないが???…………やっぱり君がアクアマリンだったんだな」

「なーんだ、知ってたんだ?」

「なんとなくだったけどな」


クオリア二人と、ヒト一人の間に緊張が走る。


「……あ、ゴメン!ちょっと待ってて!」


 突然アクアマリンが声を上げた。

戦闘体制に入っていた二人は思わず拍子抜けしてしまう。


「なんなんですか一体……」

「みんなー!!私これから戦わなきゃいけないから、先にお家に帰っててねー!」


 アクアマリンの言葉に返答は無かったがイルカ達は別れの挨拶をする様に一跳ねして水面から姿を現すと、そのまま冠水している道路を泳いで海の方角へ遠ざかっていった。


「いやーごめんごめん、あの子達は戦いとは無関係だから……それよりガレスさんは大丈夫、戦えるの?」


 ガレスはオニキスと繋いでいた手を放すと、そのままキャスターから黒剣を取り出して構えた。

すると不思議な事に飛行能力を持たない筈のガレスが水面に立っているではないか。


「ふっふっふ、俺を見くびるなよ……この新しい剣の真の力、試す時が来たようだな!」

「おー!能力も無いのに水面に立ってるー!すっごーい!」

「そうだろそうだろ!だから心配しなくていいぜ!安心してかかってきやがれ!」

「わかったー!じゃあ二人共、こんどこそいくよー!」

「はぁ……貴方達、これから戦うんですよ?もっと緊張感を持ってくださいよ……」


アクアマリンとの戦いが始まった。

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