星のクオリア59
ガレスとオニキスがジムからホテルへと帰って来てから部屋でまったりと過ごしていた時、不意に「そういえば」とガレスが切り出した。
「……この前、街でアクアマリンってヒトに会ったよ」
「ええ!?!?」
すっかり油断して寛いでいたオニキスは驚きの余り、ソファーに座ったままの状態で少し飛び上がった。
オニキスは空中でピタっと静止して、そのままポスんとソファーに落ちてきた。
「アクアマリンってクオリア・アクアマリンですか!?どこで!?それより大丈夫だったんですか!?」
「落ち着いてくれ、今ここにこうしているんだから勿論無事さ」
「……それもそうですね。しかしやはりここに来ていましたか……最後のクオリア、アクアマリン」
「もう目的地が目の前だからなぁ……仕掛けるならルルイエの中に居る間か、モスクワで待ち伏せするかになるよな」
「詳しく教えて下さい」
「ああ」
ガレスは街で会ったというアクアマリンとの顛末をオニキスに話した。
重そうな荷物に困ってたから代わりに運んであげた事、一緒にイルカに餌やりをした事などなど。
それを聞いていたオニキスは次第に呆れ顔になっていった。
「話は分かりましたけど…………ガレスっていくらなんでも行動が無防備過ぎませんか?罠の可能性とか考えなかったんですか??」
「いやでも普通に良いヒトだったよ、ペット達の為に新鮮な魚買いに行ったりしてさ」
「アクアマリンが良い子なのは知っていますが、そういう話じゃなくて!」
「オニキスの言いたい事もわかるけど……本当に困ってそうだったから、なんか放っておけなくてさ」
「はぁ~~~~~」
オニキスは思わず長い溜息を吐いた。
思えばこのガレス・ギャランティスという大男は最初の最初、オニキスと出会った時もそうだった。
素性の知れない見ず知らずのオニキスに対して土下座までしてここまで付いて来たのだ。
あの頃は世間知らずなオニキスだったが、ガレスと共にセカイを旅して回った今のオニキスなら分かる。
今のセカイにおいてガレスの生き方は危なっかしすぎる。
長かった戦争が終わって十年経った……が、セカイは未だ混乱期にあると言っても過言では無い。
人類[※現在では人間ではなくヒトに類する者達の総称、キメラもその中に含まれる]の生存権と呼べる7つの街は、大陸全体の割合で見ると3%しか無く、一歩街から出ればそこは無法地帯。
野盗や野生化したモッド達が虎視眈々とヒトを脅かそうとひしめき合っている。
そんなセカイで生きていくにはガレスという男は余りにもお人好しが過ぎる。
「アクアマリンは裏表が無い性格で、不意打ちで敵を倒そうとか考える子じゃありません」
「じゃあ俺が見たまんまの性格なんだな」
オニキスは自分がバカな事をしている、来たるアクアマリンとの戦いに於いて自分の勝率を下げる事をしていると自覚しながらも話を続けた。
それでもお人好しのガレスに辛い事はさせたくない。
「クオリア・アクアマリンとは私一人で戦います」
「え?なんでだよ急に?今回も俺も戦うよ」
オニキスの突然の言葉にガレスはきょとんとした顔をした。
「……お人好しの貴方に辛い思いをさせたくありません」
「…………ありがとな、オニキス。だが大丈夫だ!これでも今まで傭兵でやってきたんだ、知り合いと戦うハメになるのも初めてじゃない。いざって時に剣が鈍ったりはしないよ」
このお人好しの男にとって、知り合ったヒトと戦うハメになる事が愉快な出来事である筈が無い。
それなのにどうしてこんなに明るく言い切れるのだろうとオニキスはなんだかやりきれない気持ちになった。
「貴方は、どうしてそこまで……」
搾り出した様なオニキスの声にガレスは仕方ないといった風に笑う。
「多分これが俺の性分なんだろうなぁ……危険な目に遭うかも、騙されてるかもと思ってもなんか、どうしてもな、自分の中でスッキリしないというか……それに」
「?」
「オニキスの旅を見届けたいって気持ちは俺の意思だ。そこは変わってないし、俺は絶対にオニキスの味方だ!だから心配すんなって!」
「…………」
オニキスはぷいっとガレスから顔を逸らして窓の外に目を向けた。
「なんかそういう言い方…………ずるいです」
「あれぇっ?」