星のクオリア57
三日後、剣が完成したと八百から連絡を受けたオニキスは再びヤオの店を訪れていた。
どうやら完成品と思われる物が机の上に既に置いてあるが、それには勿体ぶる様に布がかけられており、姿を隠されている。
こんな風にされると、なんだかオニキスの方もドキドキしてくる。
「な、なんだか緊張しますね……!」
「まかせなよ!今回はとびっきり自信作さ!心の準備は良い??」
「どんとこいです!」
ヤオが「ドゥルルルルルルルルル!」とドラムロールの音を真似しながら、充分に溜めを作った後にバッと布を取り去る。
すると中から現れたのは艶のある漆黒の刀身を持つ美しいツヴァイハンダーだ。
コレクターは勿論、素人が見ても思わず息を呑んでしまう様な迫力がある。
精錬され鍛え抜かれ刀身も見事だが、柄やリカッソ[※剣の根元の刃の無い部分]の金の装飾もシンプルながら目を惹く、最早武器というより芸術品の域に達していると言っても過言ではないだろう。
「おぉ~……武器にはあまり詳しく無いんですが……こ、これは凄い!!」
オニキスは目の前の物体の持つ存在感に圧倒さて思わず感嘆の声を漏らした。
「……どうだい?」
「想像以上過ぎて驚いています……これ、普通の値段でいいんですよね?」
「値段は最初に決めたろ?安心しなよ!」
・・・
夕飯の後、隠しきれていないウキウキ顔で部屋にやって来たオニキスから突然言われた言葉に、ガレスは思わず素っ頓狂な声で聞き返した。
「……プレゼント?俺にか???」
「はい!私なりに日頃の感謝を形にしたくて用意しちゃいました……受け取って、くれます?」
「そもそも俺が勝手にオニキスに付いた来ただけなんだし、そんなに気にしなくても良いのに……でも嬉しいよ、あーなんかすごいドキドキするぜ!」
「よかった……」
ホッとした様な笑顔を見せるオニキスにガレスの胸はドキリと高鳴った。
思えば最近のオニキスは出会った頃にくべるとよく笑う様になったなぁとガレスは思った。
「じゃあ、今から出しますから……私が良いというまで目を閉じて下さいね?」
「わかった」
オニキスに言われるままにガレスは目を閉じて待った。
視界が無くなると否応にも聴覚に集中してい、普段は気にならない程度の音も気になってしまう。
(プレゼントかぁ、オニキスからのプレゼント……ダメだ、全く想像が付かん)
そもそもオニキスが人に何かを贈るイメージが湧かないというか。
しばらくごそごそ何かを準備しているかと思えば、ゴトンと何やら重い物をテーブルに置く音がした。
(音からして、もしかして結構デカい物か?……俺みたいな男に送る贈り物で、デカいものって一体何だ???)
ガレスがあれやこれやと考えている内にオニキスが声を掛けてきた。
「いいですよ、目を開けて下さい」
ガレスがゆっくりと目を開くと、目の前のテーブルの上に何やら妙に高級感のある細長い箱が置いてあった。
ガレスが確かめる様にオニキスの顔を見ると、めっちゃニコニコしている。
「なんだろ、緊張するなぁ……もう開けていいかい?」
「どうぞ~」
おそるおそる蓋に手を掛けて、ゆっくりと箱を開いていくと中には目を引く赤いビロードと、中央の窪みにピッタリと納められた例のツヴァイハンダーが姿を現した。
「うお、すげえ!!」
漆黒の刀身と見事な金細工の柄、剣の持つ美しさにガレスは思わず感嘆の声を上げた。
「いいのか、こんな高そうなもん貰っちゃって!?」
「その為に用意したものですから……いつもありがとうございます、ガレス」
「ありがとうオニキス!飾る所があれば……」
「……それなんですけど、ちゃんと実戦で使えるって職人さんが言ってましたよ?」
「マジかよ!?……振ってみてぇ、いやでも勿体ねえ気も……ん?」
「どうしました?」
「この黒い刀身……もしかして……?」
「あ、気付きましたか?」
オニキスはニコニコしながら言い放った。
「なんとそれ、私の体の一部を使って造られているんです!」
「えええええええええ!?」
通常では考えられない原材料を聞いて当然ガレスは驚いた……ついでに若干引いた。
しかしオニキスのニコニコ顔を見るに彼女に悪気や他意が無い事は明らかだ。
(この剣……重いなぁ……)
その後、オニキスは武器職人の萬塚 八百と出会ったきっかけや、剣を注文した経緯を種明かしの様にガレスに話したりしながら過ごした。
ガレスはオニキスの話を興味深そうに聞きながら二人で楽しく過ごした。