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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア56

 翌日、オニキスはとある安易な思いつきでもって、再びヤオの元へと訪れていた。

安易な思いつきというのはつまり『ガレスにプレゼントするものは武器にしよう』というものだ。

昨日の夜、今は武器の入手が困難になっているという情報を聞いてひらめいたオニキスは、またしてもナイスアイディアだと自画自賛し、即行動に移したのだ。

昨日それで空回りした事は既に完全に忘れているのだろう。

幸いな事に思いの外早い再会を八百は喜んでくれた。


「お仕事中にすみません」

「あ~いいよいいよ、最近は鉄の供給がストップしてるとかでさぁ、ウチも商売あがったりなんだよね」


 オニキスが工房を訪れた時、ヤオは店のレジで退屈そうに頬杖を突いて欠伸をしていた。

鉄が無いから不用意に武器を作る事が出来ず、商品が値上がりしてしまっているので客も来ない。


「全体の流通の管理の都合とかで商工会から商品の値段を釣り上げる様に言われてるんだけどさ……すると当然だけどさっぱり売れなくなるのよねぇ~コレが!」

「大変なんですねぇ……」


オニキスはそれを出された緑茶を啜りながら聞いていた。


「あんまり暇だから店閉めて寝ようかと思ってた位でさぁ……オニキスちゃ~ん、何か仕事無~い?いまならなんでもつくるよ~?」


 ヤオは冗談ぽく言ってはいるが、仕事を頼みに来たオニキスにとっては渡りに船だった。

オニキスはある打算のもとに八百を訪ねた『昨日助けた恩のあるヤオなら鉄が高騰している今でも普通に仕事をしてくれるのでは無いか?』というものだ。

今二人がいる応接室に飾ってあるトロフィー等が示す様に、萬塚 八百は優秀な職人だ。

こういう風に人に何かを頼む事はオニキスは正直苦手なのだが、この件に関しては他に伝手は無い。

そもそも、ヤオもオニキスが再び自分の工房を訪れた事で大体目的は察していたのだろう。


「実は折り入って頼みがありまして……剣を一本造って頂きたいのです」

「いいよー」


即答だった。


「本当ですか!?」

「さっきも言った通り暇でねえ、仕事が出来るならこっちがお礼を言いたい位さ」


 ところがオニキスはまだ何かを言いにくそうにしているのを見て、ヤオが見透かした様に耳打ちする。


「お金の心配もいらないよ、特別に普通の値段にしとくからさ♡」

「ありがとうございます!それで!造ってもらいたいのはツヴァイヘンダーというタイプの剣で……!」

「慌てなくても大丈夫だよぉ、ゆっくり内容を教えて」


 昨晩ガレスから剣についてそれとなく[※バレバレだった]聞き出しておいたオニキスは、それをそのままヤオへ伝えた。


「……最後にもう一つお願いがあります」


 そう言ってオニキスがキャスターを起動させると、中から布の包みを取り出した。

布の結び目を解くと、出てきたのは光を吸い込む様な漆黒の鉱石の塊だった。


「剣のどこかにこの鉱石を使って欲しいんです」

「なんだいこりゃ?……それなりにこの仕事長いんだけど、初めて見る鉱石だねえ」


 ヤオはオニキスが持ってきた黒い鉱石を見るや、つなぎの胸ポケットから単眼鏡の様なルーペを取り出すと黒い鉱石を熱心に観察し始めた。

職人のヤオすら見たことが無いのも当然の話で、黒い鉱石の正体はクオリアの身体を構成する鉱石……つまりオニキスの身体の一部だったものだ。

昨日の夜にオニキスが自分の足を砕いて作ったのだ。

しかし事情を知らないヤオにそんな事を伝える訳にもいかないので、オニキスは適当に嘘をつく事にした。


「新発見された、まだ正式に名前も付いてない珍しいものらしいです……旅の途中でたまたま手に入れまして」

「新しい石かい!?」


 第三次世界大戦から最早10年が経とうとしているが、未だに新しいものが発見されるのは珍しい事ではない。

普通ならばヤオもこんなに食いついたりしないが今回は自分の仕事に関わる分野での、しかも丁度退屈していた所に目の前に現物を持ってきたというのだからヤオの驚きようも当然と言えた。

目の前にあるこの黒い石がどんな特性を持っているのか、このセカイ中の誰も知らない。

なんという贅沢な玩具なのだろうか!


「いやぁ~!面白いねぇ、こりゃあいい!俄然やる気が湧いてきたよ!何か特徴はあるのかい!?」


テンションが高いヤオに少々気圧されながらもオニキスが答える。


「あまり詳しい事は……ただ電気で刺激を加えると物体の重さを操作できるとか」


 これはマテリアル研究所での実験の結果わかった事で、クオリア達は自分達の身体の特徴や仕組みに関する勉強を義務付けられていた。


「そんな力が……たまらないねぇ!これで剣を作って良いって!?」

「え、えぇそうです……お願いできますか?」

「やるよ!やるやるぅ!」


八百はウキウキで作業場にすっ飛んで行った。

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