星のクオリア54
街に出てガレスへ贈るプレゼントを探し始めてから数時間……オニキスは自分の軽率さを呪っていた。
色んな商品を見れば見るほど何を贈ればガレスが喜んでくれるのか、考えれば考える程わからなくなる。
(つ、つかれた……そもそもガレスって何が好きなんでしょう……?)
本人に聞くのが一番早いが、ここにガレス本人は居ないし、聞いてしまったらせっかくのサプライズ感がパアになる。
出来る事なら自分で考え抜いた贈り物でガレスに喜んでもらいたいが、その考えが堂々巡りしてしまって纏まらない。
(……今日の夕飯の時にでも、それとなく聞いてみるとか?)
とりあえず喉が渇いたのでコーラでもキメようかと自販機を探して街を歩いてると、なにやら通りの向こうが騒がしい。
オニキスが騒がしい方にふと顔を向けると叫び声が聞こえてきた。
「ドロボー!!!」
声に続いて姿を現したのは暴走するバンと、それを追いかけるモンキーバイクだった。
バンにはどうやら数人の男が乗っていて、荒い運転で車道歩道も関係なく暴走している。
一方モンキーバイクに乗っているのは作業用のツナギを着た若い茶髪ポニーテールの女性で、必死に声を張り上げて周囲に呼びかけていた。
「どけどけぇ!!ひき殺されてぇか!!」
愚かな事に男達の乗るバンは、何も知らないままオニキスの居る場所へと突っ込んで来る。
オニキスは無表情のまま、ゆっくりと片手を上げて掌をバンに向けた。
「…………」
オニキスの手がバンに触れた瞬間、バンの車体がその場にピタリと完全停止したかと思うと、今度はタイヤが四つ同時に破裂した。
男達は車から降りる事すらかなわず、そのまま座席に突っ伏している。
「ぐげげげげげっ!?な、なんだこりゃあ!!?」
哀れな男達はそれ以上何かを言う暇も無いまま全員気絶した。
追い付いて来たモンキーバイクの女性がバイクから飛び降りてオニキスの所へ駆け寄って来た。
女性はオニキスの手をガッシリ掴んで、ブンブンと握手しながら感謝を伝えてきた。
「ありがとう!アンタのおかげで助かったよ!」
「気にしないで下さい、当然の事をしたまでです」
「是非お礼をしたいけど……ちょっと待ってて、その前に商品の確認をしなきゃ」
泥棒達が車に積んでいたのは一つ一つ丁寧に箱詰めされた15cm位の板状のキャスターだった。
キャスターには一つ一つ番号が書かれているタグが付けられていて、タグには『斧30』とかいった具合に内容の内訳らしきものが手書きされている。
亜空間を利用して物体を収納するキャスターには『キャスターを収納する事が出来ない為』大体こんな風に管理されている。
一通り荷物に目を通した女性はホッと胸を撫で下ろした様子だった。
「よかったぁ~全部無事だ……あ、でもどうしよう、車はパンクしてるから動かせないし」
「あ、良かったらお手伝いしましょうか?」
オニキスは能力を使ってパンクした車を持ち上げて浮遊させたまま、見知らぬ女性と二人並んで道を歩いていた。
「いやぁ悪いね、恩人に荷運びまでしてもらっちゃってさ……」
「緊急時とはいえ車を駄目にしたのは私ですし……これも気にしないで下さい」
「真面目だねえ……ま、車は保険でなんとかするから大丈夫さ!それにしても商品が無事でよかったよ、ホントありがとうね!」
「商品ですか?」
「あぁ、私の商品は武器さ、剣とか斧とか、そういうの」
「なるほど……武器屋さんなんですね」
「ん~……ちょっと違うかなぁ?」
「え?」
自分は商人では無いと陽気に笑う目の前の女性をオニキスは改めてよく観察してみる。
ポニーテールに纏めた金髪に前頭部に乗せた作業用のゴーグル。
何かの作業中に慌てて飛び出して来たのか、上半身はビキニの様なものしか着けておらず、かわりに腕には肩まで掛かる様な厚手の耐熱手袋を着用していた。
「……では職人さん?」
「当たり!……あ、丁度着いたよ」
オニキス目の前にある建物の看板を見上げると『萬塚武器工房』と書いてあった。
工房とは書いてあるが一応店としての機能も備えている様で、個人商店と武器工房半々といった所だろう。
「そうだ!まだ自己紹介してなかったね。アタシ、ここの店主『萬塚 八百』って言うんだ、よろしく!」
「私はオニキスといいます、よろしくお願いします」
「まーまーそんなに固くならなくてもいいよ。それにしてもオニキスちゃんかぁ……まるで宝石みたいな名前だねぇ、アタシとは大違いさ」
「えーと、その……そういう事はあまり言われ慣れてなくて……」
「あ、顔赤くなってる!可愛い!」
八百にからかうつもりはなかったのだが初心なオニキスの反応が可愛くて、ついニヤニヤしてしまう。
「に、荷物!荷物はここでいいですか!?」
「ああ、そのへんの開いてる所に置いといてよ。助けてもらったお礼もしたいし、ちょっと上がっていきなよ」
オニキスは別にお礼が欲しいと思っていた訳ではなかったが、せっかくの申し出を無下に断るのにも気が引けたので言われた通り店の奥へ入っていく。