星のクオリア52
ガレスとアクアマリンの二人がやって来たのは、ルルイエ中心部から離れた閑静な海浜公園だった。
公園といっても特に目を引くものも無く、青々とした芝生、疎らに植えられているヤシの木、たまに見かけるベンチ等がある位だ。
「もうすぐだよ~!こっちこっち!」
とは言っても、アクアマリンが指差す方向にはそれこそ海しかない。
ガレスは言われた通りの場所へ台車を押していく。
「よいしょっと……それにしてもこんなに大量の生魚、一体どうするつもりなんだ?」
ガレスは台車のストッパーをかけてからアクアマリンの方を見る。
「それはね~……」
何やら含みのある表情のまま、アクアマリンは海の方へと近づいていく。
そしてそのまま柵を跨いで乗り越えるとガレスの方を向いたままの状態で背面から海に飛び込んだではないか。
「あぶない!」
アクアマリンの奇行に驚いたガレスが柵から身体を乗り出して海面を見た。
すると今度は海の中から何かが飛び出して来た。
「おおわっ!!今度はなんだ!?」
ガレスが下げた視線を慌ててまた上げて、飛び出して来た物体を見る。
それはピンクのイルカの鼻先に乗ってポーズをとっているアクアマリンの姿だった。
「イ……イルカ??」
「そだよ、驚いた??」
「何事かと思ったぜ、急に飛び込むもんだから……」
「あははっ、大成功だね♪」
・・・
「なるほどなー……この大量の生魚はイルカ達の餌だったんだな」
「切り身にしてキャスターに入れれば楽に持ち運べたんだけど……せっかくだからおいしいお魚食べて欲しいなって思って」
「このイルカ達はアクアマリンが飼っているのか?」
「違うよ、ペットじゃなくて友達だよ。海で泳いでいる時に仲良くなったんだ」
「俺も餌やってみてもいいかな?」
「いいよ!」
ガレスが台車の魚を一匹掴んで海へ放り投げるとイルカが見事に空中で魚をキャッチした。
「おおーっ!ナイスキャッチ!」
ガレスが声を上げると、それに応える様にイルカも鳴いた。
「きゅ~♪」
「ありがとう、だって」
「どういたしまして!」
二人でイルカの餌やりをしていると、いつの間にか台車の魚は尽きていた。
ふと時間を確認すると、もうすぐ夕方といった頃合いだ。
ガレスはそろそろかと別れを切り出す。
「もうこんな時間かぁ……俺はそろそろ戻るよ」
「お礼を言うのはこっちだよ!ありがとねガレス!」
「いや、俺の方こそいい気分転換になった。じゃあ元気でな」
一通り挨拶を終えてガレスが立ち去ろうとした時、アクアマリンに呼び止められた。
「ガレスー!」
すでにアクアマリンに背を向けていたガレスが声に振り返ると海水が空に跳び上がって花火の様に弾けていた。
「わたしからのお礼!!」
ガレスは水の花火を見て微笑むと、アクアマリンに手を振って応えた。
・・・
(水を操る能力……やっぱりあの子、クオリアだったか……)
アクアマリンと別れて一人になった帰り道、ガレスは『まいったな……』といった風にボリボリとあたまを搔いた。