星のクオリア49
鉄の高騰により武器全般が高騰し、剣を買えなかったガレスは仕方なしにホテルへと戻る道を歩いていた。
しかし気合を入れて街に出てきたというのに、このままトンボ返りでは味気なさ過ぎる。
部屋でゆっくり対策を考えるのも良いかも知れないが問題が問題だけに、それで現状が良くなるとも思えない。
(手持無沙汰になっちゃったけど、まっすぐ部屋に戻るのもなあ……)
武器についてはまた改めて考えるとして、何か少しで良いから気分転換になるような事がしたいが、とはいっても金は無い……いや無くは無いが、今手元にあるのは武器を新調する為の費用なので、ここで遊んで散財する事は出来ない。
(金をかけない気晴らしとなると……何か美味いもんでも食べるのが無難か……)
普段は食べないちょっと珍しいもので、それが自分の好みに合えば尚良い。
そんな事を考えながらガレスはルルイエの街をブラブラする事にした。
・・・
携帯端末で場所を確認しながらお目当ての店へ移動中、ガレスの前方にしんどそうに台車を押している女の子が目に入った。
(台車?今時珍しいな……)
亜空間収納装置『キャスター』が普及した今のセカイでは台車なんて街中で見かける事は無くなった。
大体の物はキャスターに収納すれば、重さや質量を無視して持ち運べるからだ。
しかしキャスターで持ち運べるものには幾つかルールが存在する。
一つ目は『生物を生きたまま収納出来ない』死んだ生物や死んだ生物の一部なら収納可能。
二つ目は『高度な意識体、または一定レベル以上の精密な機械と人工知能は収納出来ない』精密機械を動作させたまま収納すると中でエラーを起こして使用不能になるし、実体を持たない意識だけを内部に飛ばす事も勿論出来ない。
セカイ中のキャスターがこのルールを逸脱する事が出来ないのは、今セカイで生産されているキャスターは発明者グラーフ・F・ツェッペリン博士の造り出したものの所謂劣化コピーであり、上記のルールはグラーフ博士が定めたものだからだ。
劣化コピーしか作り出せない現在の技術力ではルールを破るどころかキャスターの仕組みすら解明できていない状態なのだ。
「ふぅ……ふぅ……もうすこし……」
女の子は肩で息をしながら、一休みする事にしたようだ。
なんとかかんとか台車を道の隅に寄せて一息ついた女の子が油断した瞬間、ストッパーが掛かっていない台車が道の傾斜でひとりでに動き出していた。
気付くのが遅れてしまった女の子が慌てて台車に駆け寄り止めようとするも、如何せん力が足りなくて台車は止める事が出来ない。
「あわ!あわわわわわっ!」
「…………あぶない!!」
あわや横転するかと思われたギリギリの所でガレスが駆けつけると、間一髪の所で台車を受け止めた。