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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア44

 ガレスとオニキスの二人があーだこーだ作戦会議をしている一方、玄武港の手前の平原に増殖させた分身達を布陣したアメジストは二人が来るのをじっと待っていた。

分身達はヒト型のみならず、空には竜や鳥、地上には巨人、騎兵もいれば歩兵もいる……その数、およそ三万。

勿論アメジストの能力はこんなものではない。

戦いが始まれば状況に応じて分身を増殖されていくだろうが、とりあえず今は三万を展開しておいたという形だ。

他にも足が速そうな斥候タイプの分身もおり、彼等によってオニキス達の動きは逐一監視されており、アメジストを出し抜いて戦わずに通り抜けるという方法はとても成功しそうにない。

その斥候からの連絡によると二人は今、店の外に出たらしい。


「へっ!来やがったか……」


 アメジストはなだやかな丘陵のてっぺんに構築した陣地の奥で、紫色の玉座でふんぞり返っていた。

二人を待っている間、自動モードで周囲警戒にあたらせていた兵隊達を手動に切り替えて迎え撃つ。

オニキスの攻撃を考慮して、一網打尽を避ける為に部隊を小隊に分けて密集させない形をとり、出来るだけ沢山の部隊に対してオニキスの能力を使わせて消耗させるのが狙いだ。

確かに戦闘能力という面ではクオリア・アメジストはクオリアの中でも段違いに弱い。

他のクオリア達の様に街一つを更地にするような攻撃能力は無く、また直接的な戦闘力も低いし、アメジスト本人は自身が能力で生み出した巨人にすら勝てない程弱い。

しかしそれでもアメジストは自分の勝利を疑ってはいない。

確かにクオリア・オニキスはクオリアの中でも随一の攻撃力を誇り、重力操作による圧壊は対象の防御力に関係なく容赦なく潰し尽くして消滅させてしまうという恐ろしい能力だ。

普通のやり方ではアメジストはオニキスに絶対に勝てないだろう……ならばどうやって戦い、どうやって勝つつもりなのか?


 アメジストがオニキスに勝つ為には『クオリアならではのオニキスの弱点を突く』しかないだろう。

クオリアならではの弱点とはつまり『能力の使用の度に自分の身体を削る』というクオリアの特性からくるオニキスの燃費の悪さだ。

オニキスの能力は確かに強力ではあるのだがクオリアの中では一番燃費が悪い為、すぐに自分の身体を消費する段階まで追い込まれてしまう。

そして燃費の勝負ならば圧倒的にアメジストに分がある。

消耗戦に持ち込んでオニキスに何度も能力の使用を強制する状況を作り続ければ、あっという間にオニキスは力を使い果たして身体を削りきってしまい、

戦闘不能になる。

そうなればアメジストの勝利だ。


「まぁ、そうカンタンにはいかねぇだろうが……ゲームはそれなりに難しくねぇとなぁ、燃えてこねえってもんだ」


 アメジストは傍らのテーブルに無造作に置いてある高級ワインをむんずと掴むと、それを味わいもせず豪快にラッパ飲みして胃に流し込んだ。

これは彼なりの景気づけというヤツだ。


・・・


 店の外に出たオニキスとガレスは遠くに見えるアメジストの軍団をみていた。

なんの意味があるのかは全く不明だが『最強』『無敵』『超スゴイ』等と書かれた巨大なノボリを巨人が持っている。

それを見てオニキスが溜め息を吐いた。


「……アメジストのああいう所が苦手なんですよ」

「はっはっは!俺は面白いと思うけどな!……ちょっとした遊び心ってヤツだろ?」

「戦いはいつだって真剣にやるものでは……?私には理解出来ません……それは兎も角、お願いします」

「正直あまり気が進まないが……こんなもん見せられちゃなぁ、まぁ仕方ねぇと諦めもつくか。何回も言うが、何回も出来る芸当じゃないからな?上手く行かなかったら挽回は出来ないもんだと考えてくれ」

「……わかっています」


 ガレスは瓶から錠剤を数粒取り出すと、それを口の中に放り込んだ。

すると彼の全身から大量の蒸気が発生し、ガレスの全身をすっぽりと包んでしまった。


「ギャオオオオオオオオン!」


 やがてあの廃劇場で見た、赤く巨大なティラノサウルスが蒸気の中から姿を現した。

しかし今回は廃墟の時とは違って暴れまわる事も無く、大人しく地面に座り込んだ。

オニキスに乗れと言っているのだ。


「ゴルルルルルル……」

「行きましょう!」

「ガオオオオオオオオン!」


赤いティラノサウルスが、凄まじいパワーでもって平原を走り出した。


「オイオイオイオイ!なんだよありゃ!?聞いてねえよ!恐竜!恐竜だぜ!!恐竜だよな!?」


 陣地の最奥でタブレットで斥候が送ってきているリアルタイムの画像で戦況を見ていたアメジストが興奮して叫んだ。

画面には恐竜になったガレスの背に乗って戦場を駈けるオニキスが映し出されている。


「しかも真っ赤だぜ……野郎、カッコいいじゃねえか……」


 ひとしきり興奮が収まった後、携帯端末を机の上に置いてから頬杖をつき、一息ついてから思考を整える。

確かに驚きはしたが、とどのつまり相手がなんであろうとアメジストのやる事、やれる事に変わりはない。


(まずはあの恐竜……おそらくガレスなんだろうが……奴の足を止めなきゃ始まらねぇか……)


 何よりもオニキスに力を温存される事がアメジストにとっては何より避けたい事だ。

力を温存されたままアメジスト本体の所までオニキスが到着する事は、そのままアメジストの敗北と等しい。

なんとしても燃費の悪いオニキスに能力を使わせてガス欠に追い込まなければならない。


「となると……もう少し駒を足しておくか……」


 戦術を纏めたアメジストが陣地の建物から出て開けた場所まで来ると、掌の上にチェスの駒を自身の能力『増殖』で造り出した。

その小さなルークの駒を空に向かって放り投げると、空中で駒が紫色の光を放ちながら分解し散らばった。

粉々になった破片が地面に落ちると、そこから破片が見る見るうちに増殖し始め、あっという間に巨人を形作る。

身長30メートルの巨人達は自身の身長とほぼ同じ高さまである巨大なタワーシールドと、巨人の身長から見ると少し小さめな……それでも二階建ての一軒屋程の長さのあるグラディウスを装備していた。

この巨人達の装備は、かの有名なローマ帝国が得意としたタワーシールドとグラディウスによる重装歩兵の密集陣形、通称ファランクスを行う為のものだ。

一体だけでも圧倒される威容だが、アメジストはその巨人を一気に50体造り出したのだ。


「チッ……!時間さえあればこの程度なんてことねーのによ!」


 アメジストが欠けた自分の指先を見て毒づいた。

もう少し時間を掛けて行なえば、この程度の増殖など身体を使うまでもないが、何せ今回は相手が同じクオリアだ。

力を出し惜しんでいてはあっという間に敗北するだろう。


「行け!あのトカゲ野郎をその盾で潰して来い!」


 アメジストが能力で造り出した兵隊には作成段階である程度の命令を仕込む事が出来る。

そもそも自身の身体の一部も同然なので別に指示を声に出して行なう必要は無いのだが、今回は敢えて自分を鼓舞する為にそれをした。


「さぁて、いっちょジャイアント・キリングといきますかぁ!!」

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