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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア43

 廃劇場で吹雪が過ぎ去るのを待った後、出発したガレスとオニキスはモスクワに向かう為の次の中継地点、玄武港へ向かうべくバイクを走らせていた。

償いの日に粉々になったユーラシア大陸は、そのほとんどが水没ししてしまって、残った陸地は一万を超える群島となって中央大陸を囲む様に散らばった。

今回の旅の目的地であるモスクワも例に漏れず償いの日の地殻変動のせいで現在は熱帯気候の島の一つになっている。

なので中央大陸からモスクワへ向かう為には当然海を越えねばならず、その為には中央大陸の周囲を時計回りに周回している海運都市ルルイエを経由するというのが一番無難な方法だ。

海にはリヴァイアサンやクラーケンといった超大型のモッド達が多く生息している為、小規模な船舶で海を渡るのは危険な行為であり、七大都市でも毎年海へ出る事を止める様に啓発している程だ。

そういった事情もあり二人は玄武港を目指している訳だ。

七大都市新月街の都市生活に於ける輸送の要という事もあり、道路はきちんと整備させていて治安も良かったので道中は何事も無く順調に進み、玄武港まで後半日という辺りで、二人は途中にある宿場町に立ち寄り昼食を摂っていた。

ここも新月街と港を結ぶ重要拠点という事でモッドや野盗の襲撃にも対応できる防衛設備が整っており、最早宿場町というよりは砦や要塞といった方がしっくり来る。


「やっぱり肉なんだよなぁ……」


 ガレスが注文したのはハンバーグランチの大盛りで、お盆の上には所狭しとホットプレートと大盛りのご飯が並び、プレートの上にはデミグラスソースをたっぷりと纏ったハンバーグ様1キログラムが熱いプレートの上でじゅうじゅうと音をたてながら鎮座なされておった。

付け合せにはいつものコーンとインゲンのコンビが彩を添えている。


「今日は随分沢山食べるんですね」

「たまにはガッツリ食わないと肝心な時に力が出せなくなっちまうからな」


 一方のオニキスはシンプルで小さめな二段重ねのパンケーキ……そして飲み物は勿論コーラ。

彼女はこれから先、コーラ以外の飲み物を口にするのだろうか……?

特に他愛の無い会話をしながらの食事。

いつも通りと言えばそうなのだが、オニキスは上目気味においしそうにハンバーグに齧りつくガレスをなんとなく眺めていた。


(……なんかちょっと可愛い、かも?)


食べるのに夢中だったガレスが視線に気付き、オニキスと目が合った。


「ん?どうした?」

「あ、いや……おいしそうだなと思いまして」

「一切れいるかい?」

「じゃあいただきます」


 心の内をガレスに悟られなかった事に何故かホッとしている自分に、オニキスは内心戸惑いを感じていた。


(最近の私は、一体どうしてしまったのでしょう……?)


しかし新たな乱入者がオニキスにそんな思考を許してはくれない。


「よーう!久しぶりだな、オニキス!」


 二人に声を掛けてきたのは紫色の肌をした痩身の男だった。

男の正体は見るからにクオリアだったが、おぼんの上にサンドイッチとコーヒーを乗せている所からここで事を構える気は無さそうだ。

いや、それすらもブラフなのかもしれないが。


「ああ、心配すんな!今ここでどうこうしようって気は無ぇからよ!」


 二人が何か言う前に紫色の男は片手を上げて二人の行動を制した。

ガレスがオニキスの方をチラリと見るとオニキスは軽く頷き返してアイコンタクトしたので、とりあえず様子見をする事になった。

とりあえず男の対応をオニキスに任せて、ガレスはそのまま食事を続ける事にした。


「一体なんのつもりですか、アメジスト?」


 アメジストと呼ばれた新たなクオリアの男は良く通るでかい声で、まるで演説の様に一方的に話し始めた。

オニキスの質問にも答える気は無さそうだ。


「知らん顔もいる事だ、まずは改めて自己紹介をしようじゃねえか!俺はクオリア・アメジスト、兄弟達の中じゃあ『一番弱い』クオリアだ!まあ短けぇ付き合いになるだろうが、ひとつよろしく頼むぜ!」


 ガレスは自分が話しかけられるとは思ってなかったので多少面食らったが、急いで口の中の肉を飲み込んでから少し慌てて挨拶を返す。


「……あぁ、食べながらですまない。何かクオリア同士で込み入った話があるもんだと思って、黙っていようかと思ったんだが……俺の名はガレス・ギャランティスだ。よろしくな」

「気にしねぇでくれ!メシの途中に押しかけたのはこっちだ、済まなかったな!」


 アメジストは痩せてて肌が紫色で顔が怖い……端的に言って悪魔の様な見た目だったが、割と感じのいいあんちゃんといった風だった。

しびれを切らしたオニキスがぶっきらぼうな感じで用件を言う様にアメジストを急かした。


「……それで、一体何をしに来たんですか?」

「用件は今までの奴等と同じさ、お前の持っているメタトロンを狙ってる!……だが個人的に気になる事があってな、ソイツを聞きに来たのよ!」


大体アメジストの言いたい事を察したオニキスが牽制する。


「……私には何も話す事はありませんよ」

「そう邪険にすんなよ!オニキスちゅあん!」


 そう言っていつの間にか席に座っていたアメジストが無防備にコーヒーを啜る。

オニキスは今までガレスが見た事の無い露骨に嫌そうな顔をして黙っている。

そこに今まで様子を見ていたガレスが口を挟んだ。


「……それで、気になる事というのは?」

「それは勿論コイツがメタトロンを研究所から持ち出した理由だよ!……コイツのヒトとなりを知ってりゃ腑に落ちねえ話だ!」

「……どういうことだ?」

「俺らの中で一番シゴトに忠実なコイツが突然裏切るなんて裏を疑わなねぇ方が…ッ!?」


 アメジストは言葉を最後まで言い終える前に圧壊した、

オニキスが能力を使って攻撃を行なったのだ。


「詮索は……止めて下さい」


 それはアメジストに対して言った言葉なのか、それともアメジストから何かを聞き出そうとしたガレスに向かってのものなのか。

ガレスはオニキスの怒気に気圧されてたじろいだ。

そこへ先程オニキスの攻撃をまともに喰らって圧壊した筈のアメジストの声が聞こえて来る。

声のする方を見れば、店の入り口から先程圧壊したはずのアメジストが平然と入って来るではないか。

そして圧壊した自分自身の残骸を足で蹴って退かすと、平然と元の席に座って残りのコーヒーを啜った。


「ハハハハハハハハ!俺の能力を知ってるだろう!そんな事したって無駄だってよぉ!」

「おおぉ!?一体どうなってんだ!?」


 ガレスが食事の手を止めて敢えて大袈裟に反応すると、それに気を良くしたアメジストが自分の能力をペラペラと説明してくれた。

オニキスはアメジストを既に知っていて無駄を悟っているのか面白く無さそうにパンケーキを齧っていた。


「いいねえ、その新鮮なリアクション!そうだよなあ!?死んだ筈の俺が平然と出てきたらフツーは驚くよなあ!?なかなか分かってるじゃねぇかお前ぇ!」

「ああ、本当に驚いたよ……一体どういうカラクリなんだ?」


ガレスはアメジストに調子を合わせて先を促した。


「俺の能力は『増殖』だ!つまり今ここにいる俺も増殖した分身で本体じゃねえ……本体は玄武港の手前で陣を敷いてお前等が来るのを待ってる!」

「増殖か……一体どんな事が出来るんだ?一人で軍隊を作ったりとか?」

「ふっふっふ……そうだよなあ、普通はその程度だと思うだろ?……ところがどっこい、俺は変形して増える事も出来るのよ!獣や鳥、サイズや強度も自由自在ときたもんだ!」

「ソイツはすげえ……!」


 ガレスが感嘆の声を上げると、アメジストは満足気だった。

気を良くしたアメジストに率直に気になった事をガレスが質問した。


「ひとつ、気になる事があるんだが……」

「いいぜ、言ってみな!」

「もしかして、機械みたいな複雑な物にも変形出来るのか?」


 それに答えるアメジストは先ほどまでのお調子者の雰囲気とは一変し、バッサリと切り捨てる様に言った。


「それは出来ねえ。俺の変形は飽くまでガワだけさ、電話の形に変形する事は出来るが、その状態で電話としての機能は持たねぇのよ」

「万能という訳でも無いんだな……それでも凄い能力だ、扱う者のセンスで何者にも化ける」

「へっへっへ……精々楽しみにしておきな!」


 アメジストはサンドイッチの最後の一切れを口に放り込むと、それをぐもぐも咀嚼しながら今まで沈黙していたオニキスの方へと向き直った。


「……話を本題に戻すか、つまりだ……俺が言いたいのは『お前の今の行動も任務の内』なんじゃないかって事よ」

「……っ!」


 オニキスの表情が、ほんの一瞬だけ硬直した。

勿論アメジストはそれを見逃さなかった。


「反応したな?……お前の事はよくわかってるぜ兄弟!お前、腹芸は苦手だもんなぁ!?」

「……違います」

「オーケーオーケー!じゃあそういう事にしとくぜ!替えがいくらでも利く分身とはいえ、また潰されちゃかなわねえ!」


 そう言ってアメジストは席を立つと、悠々と歩き去って行った。


「そんじゃごゆっくり、お二人さん!」


 アメジストが店から出て行ってから少し後、二人は食事を終えてゆっくりしていた。

ガレスは特に気まずいとは感じていなかったが、オニキスにとってはそうでは無い様子だった。

オニキスは二本目になる瓶コーラを飲み干してから意を決して言葉を吐き出した。


「あの……先程は、すみません……その、感情的になってしまって……」


 レモンティーを飲みながら携帯端末を弄っていたガレスは、少し意外そうな表情をしてからそれを微笑みの形に崩した。


「気にすんな。誰だって完璧じゃねえんだ、そういう事もある」

「……すみません」

「だからいいって……オニキス、アイツの事、苦手なんだろ?」

「……バレていましたか。彼も悪人という訳では無いのですが……その、あまりにも傍若無人過ぎてついていけないと言いますか」

「今までも感じてはいたんだけどさ、クオリアって皆個性的だよなぁ……おっと、あんまりこんな話ばっかりもしてられないか。頭を切り替えて作戦会議といこう」

「わかりました」

「まず最初に単刀直入に聞くが、俺達はアイツとどう戦えばいい?」


オニキスは少し考えてからこう答えた。


「そうですね……アメジストの能力で造られる軍隊を相手にしていたらキリがありません。なので彼の本体のある場所までたどり着き、直接本体を封印するのが一番でしょう。多少集中する必要がありますが、アメジスト本体の場所は私が感知出来ると思います」


オニキスの作戦に特に不満は無かったが、懸念点がある。


「勿論向こうもそれはわかってる筈だよな?」

「ええ、なので私達が本体にたどり着く前に出来るだけ消耗させようとするでしょう」

「うーん……乗り物を使うのはどうだ?バイクで本体まで突っ走るとか!」

「バイクに乗りながらの戦闘に長けていれば可能かも知れませんが……」

「……俺も出来なくは無いが、得意かと言われると別にそうでもないなぁ」


 ガレスは移動手段としてバイクを使用しているだけで特に運転に秀でているという訳ではない。


「乗り物で突破するというのなら、バリケードや敵の攻撃をものともしない、強靭でパワーのある乗り物じゃないと突破は難しいでしょうね……ですがそんな都合のいい乗り物なんて……あっ!」


オニキスが何か意味ありげにガレスを見つめた。


「ん?」

「そういえばひとつだけ……ありましたけど……うーん……」

「え?なんだよ?教えてくれよ?」


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