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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
135/180

星のクオリア40

「グゥオオオオオオォ……」


 ティラノサウルスの姿に変身してしまったガレスは、ヒトを悠々丸呑みに出来てしまう程大きな口を開けて咆哮と足音で劇場を震動させながらオニキスに向かって突進して来る。

とはいえ今のガレスは全長30メートルは超えるかというティラノサウルスの巨体、いくらスピードが乗ろうとも見え見えの突進の回避は容易だ。

オニキスがガレスとすれ違う様にひょいっと身を翻すと、ガレスは恐竜の身体で小回りが利かず、方向転換出来ないまま広間の壁に激突した。

ガレスの突進により広間の壁の一部が破壊され、壁に開いた穴から吹雪が広間に吹き込んで来る。

壁に激突したガレスだったがダメージは全く無い様子で、爛爛と輝く瞳でオニキスを睨めつけていた。

オニキスは先程からガレスに呼び掛けてはいるものの、残念ながら恐竜に変身している今のガレスにオニキスの声は届かない。


「ガレス!私の声が聞こえますか!?目を覚まして下さい!!!」

「グオオオオオオオオオオン!」


 オニキスは精一杯の大声で何度もガレスに呼びかけたが、返ってくるのは威嚇の咆哮と敵意のみだった。


(一体どうしたら……逃げる?時間が経過すれば戻るかも……?ダメ、今のガレスが攻撃対象を見失ってしまったら、他の獲物を探してこのまま外に出てしまうかも……)


 オニキス一人なら飛行能力で逃げ出すのは容易な事だ。

しかし獰猛な恐竜となってしまったガレスをこのまま放っておけば最悪の場合、誰かを襲う可能性がある。


「もし、そんな事になれば……きっと悲しむんでしょうね、貴方は」

「グルルル……」


 仮に暴走状態にある今のガレスが無関係な誰かを襲ったとしても、それを『仕方がなかった、不幸な事故だった』とは考えないだろう。

きっと人が好い彼は必要以上に自分を責めてしまう。

ガレスと出会ってから日が浅いオニキスでも、それは断言出来る。

そんな思いをガレスにさせたくない。


(今彼を止められるのは私しかいない、けど私に出来るのでしょうか……?)


 オニキスはその力の性質的に手加減が苦手だ。

重力球は付近の光さえ吸い込んで対象を圧壊させる防御不能の絶対破壊攻撃だが、そんなものをガレスに撃ちこむ訳には行かない。

クオリアではない彼は急所を破壊されれば当然死ぬし、当然ながら再生能力も持っていない。

かといって生半可な力では今のガレスを止める事は出来ないだろう。


(……?)


 オニキスが考えあぐねていると、ふと充血したガレスの右目から血が垂れたのがオニキスの目に入った。

それは別に本当にガレスが泣いている訳では無く、何かの拍子にちょっと眼球の毛細血管が傷付いて結果としてそう見えるだけかもしれない。

しかしオニキスの迷いを振り払うのにはそれで十分だった。


(そうだ……あの姿はガレスが望んでいるものである訳が無い。今までの恩返しというにはささやかですけど……今は私がガレスを助けなくては!)


オニキスは覚悟を決めてガレスと向き合う。


「生憎と、手加減は苦手なんです。文句なら後で幾らでも聞きますから……ちょっとだけ、我慢して下さいよ……!」


 ガレスとオニキスは対峙してにらみ合った。

オニキスの表情は緊張で堅く、ガレスは獰猛な唸り声を地鳴りの様に響かせている。

しかしおかしな事に、両者は一向に動こうとしない。

理性が無い恐竜である今のガレスならば、何も考えずにすぐさま飛びかかりそうなものだが……ところが一向にそんな気配は無い。

実は既に戦いは始まっていた。


「グルル!ギャオ!」


 ガレスの口から漏れたのは先程までの様な咆哮ではなく、苦しそうなどちらかと言えば悲鳴だった。

それをきっかけにガレスの巨体は地面にうつ伏せになるように倒れた。


「これでもまだ耐えますか……!」


 オニキスは徐々に重力を倍加させていた。

手加減が苦手なオニキスなりに頑張って力を調節しているものの、それでも巨大なティラノサウルスを地面に這いつくばらせる重力は相当なものだ。

オニキスは重力を徐々に強くしていく事で、ガレスを戦闘不能まで追い込むつもりだった。

今、ガレスの周囲は500倍の重力が加えられている、仮にガレスの体重が10トンだとしたら今の体重は5000トンだ。

いくら遺伝子レベルで強化された改造生物モッドと言えど、生半可な生物なら骨や内臓が荷重限界を超えて圧壊してしまい、とっくにミンチになっているだろう。

だがガレスはそうなっておらず、まだ精々うつ伏せになった程度だ。

ガレスのしぶと過ぎる生命力に力の調節の難度が増し、オニキスの額に汗が浮かび上がってくる。


「体の丈夫さには自信があるとは言ってましたけど……まさかここまでとは……っ!!」


 今までオニキスはガレスの頑丈さに助けられてきたが、今はただひたすらにその頑丈さが恨めしい。

ガレスの目はまだ凶暴な光を宿しており、拘束を解けばすぐにでも飛びかかって来そうだ。

その時、オニキスの羽の二枚目が砕け始めた。

オニキスの能力は強力だが実はクオリア達の中で一番燃費が悪く、すぐに体に影響が出てしまう。

いつも彼女が力をセーブして戦っているのはそういう理由もある。


「大丈夫ですよ、ガレス……貴方を死なせたり、悲しませたり、そんな事、私が絶対にさせませんから!」


強い意志の宿った眼でそう言うと、オニキスは再び重力を強め始めた。

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