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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア34

 一応は留学という名目で世界中から、買い付けられて集められた子供達は皆、軍産複合体『煌鱗ファンレン』の中国本土にある研究施設へと集められた、そこにはガレスの姿もあった。

表面上は普通のインターナショナル・スクールの様な生活だったが、それと平行して獣性細胞の人体投与によるキメラ化実験が行われ、キメラ化によって発現した動物的特徴を強化する『プロモーション実験』と太古の生物のキメラを生み出す『リバース計画』の子供達に対して行なわれた。

金をもらって連れてこられた以上、当然子供たちに拒否権は無い。


・・・


 計画が始動して間もない頃は研究所内の子供達が恐怖で混乱状態になる事がよくあった。

子供の一人が投与された獣性細胞に適応出来ず暴走状態に陥り、全身から鱗を生やして異形と成り果てた上で理性を失ったので、研究所の職員により殺されたのに端を発して、恐怖が伝播して皆の精神状態が不安定になっていた。

この程度の事は研究がスタートしてからは日常茶飯事だったが元々覚悟はあったとはいえ、未成熟な子供達の心に狂い死んでいく同年代の子供の姿が与える衝撃は凄まじく、しばらく混乱は収まりそうにない。

その様子を見兼ねた研究所の職員がやってきて教室の教団に立ち、子供たちにこういった。


「我々は君達を拘束している訳ではありません、君達が望むのあれば、我々はいつでも君達をご両親の元へと送り帰しましょう」


 背の低い研究者の名は自らをドリィ・ハーディエスと名乗った。

後のキメラ化の影響でスカラベの特徴が色濃く出る顔面は、この頃はまだ普通の人間のままだ。

ドリィはあからさまに上辺だけの薄っぺらさの感じる、妙に優しい口調で子供達に語り始めた。


「……でもその場合、君達の家族に渡したお金を返してもらう事になりますし、逆に契約違反で違約金を頂かなければなりません……つまり、君達に払ったよりも沢山のお金をご両親に払ってもらわないといけなくなるのです」


ドリィが語る地獄の様な内容の話に教室がざわついた。


「静かに、我々は何も君達を騙した訳じゃないんですよ。実験への協力の義務を負うというのは最初の契約書にもちゃ~んと書いてありますからね?」


子供達の中で威勢の良い何人かの子供が声を張り上げた。


「だからってあんな酷い死に方するなんて聞いてない!僕をおうちに帰してよ!」


 声を上げた何人かの子供に反応して他の子供達も皆声を上げ始めて、教室中が一気に騒がしくなった。

この時、ドリィの仮面が剥がれた事に子供達の内の何人が気付いただろうか?そしてそれが何を意味するのか?

ドリィは小さく舌打ちした後、携帯電話を取り出して何処かに連絡すると、騒ぎ出した子供達を完全に無視して教壇で無表情で立っていた。

すぐに警備兵が数名教室に入ってきて、ドリィの隣に並び立った。

ドリィは何名かを指さして一言。


「アレとアレと……アレだ、黙らせろ」


 ドリィの言葉に従う無言の警備兵二人が最初に騒ぎ出した子供の頭を無言で殴りつけて黙らせた。

ボコボコにされて遂には悲鳴すら上げる元気すらなくなった数人の子供達が地面に横たわる頃、教壇のドリィがトコトコ子供達の所までやって来ると、丁度良い位置にあった子供の腹を思い切り蹴り上げた。


「二束三文のはした金で売られた、価値の無ぇクソガキ共がぁ!身の程を弁えろッッ!!!」

「ぐはっ!!……ごめんなさい、もうしません。おねがい、もうやめて……!」

「……何か言ったか虫けら?」

「すみませんでした、すみませんでした……もうしませんから、許してください」


 痛みに耐える一人の子供。

周囲の子供達は恐怖のあまり静まり返り、誰一人として蹴られている子供を助けようとはしない。


「お前等なんかなぁ!別に殺したって!メール一通送るだけの手間で済むんだぞっっ!わかってんのか!!??モルモットの分際で!!!」


 無音の教室で、未だ怒りの収まらないドリィのリンチは続く。

しかし子供達の中から、ようやっと、たった一人だけ、ドリィの凶行を遮る者が現れた。

それはこの施設に居る子供達の中で、いつの間にか古株となっていたガレスだった。


「もうやめてくれ!この子だってもう十分に自分の立場は思い知ったさ、誰もアンタ達に逆らおうなんて考えちゃいない!」

「うるさい!知った事か!!」


 ドリィは構わず子供を蹴ろうとするが、ガレスが身を挺して子供を庇い続けた。

それから暫くして疲れたのか落ち着いたのか、ドリィは蹴るのを止めて教壇に戻った。

そして平然と話を続ける。


「まあそういう訳でですね、皆さんはくれぐれも変な気を起こさない様にしてくださいよ?国に残してきたご家族の皆さんが悲しみますからね。先程も申し上げましたけども、帰りたいというのであれば借金付きで送り返してあげますよ?……でもその場合、ご両親はどの様に皆さんを扱うでしょうね?」


 ドリィが教室を出て行ったのを確認すると、ガレスはゆっくりと起き上がった。

そして他の倒れている子供達に手を差し伸べた。


「大丈夫か?」

「ゲホっ!ゲホっ!……ありがとう……ごめん……!」

「気にするなよ、災難だったな」

「僕達、ここで死ぬのかな……?」

「いつだったか研究員達が言ってた……俺達が受けてる人体実験は子供の内にしか出来ないものらしい、だから大人になったらここから出れるさ……それまで一緒に頑張ろうぜ」

「……うん」


 ガレスの言った通り、大人になるまで耐える事が出来た子供達は新型の兵士として訓練施設へ行く事になり、そのまま第三次世界大戦へと参加する事になった。

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