星のクオリア28
クオリア・ターコイズの特筆すべき能力は、自身の電気を操る能力で強化した近接戦闘に於けるスピードと正確性である。
逆に収束性に難がある為に遠距離の戦闘は不得手なのだが、彼にとってそれは大した問題にはならない。
要は『敵が遠くに居るなら、一瞬で距離を詰めれば遠距離戦闘は必要なくなる』という事だ。
そして彼はそれが可能なのだ。
至近距離から放たれるマシンガンの弾を一瞬で見極め、自分に当たるものだけを的確に弾きながらスゥへと迫るターコイズ。
「チィッ!アイツ以外にこんな芸当が出来る奴がいるとはなッ!」
「チェックメイト」
ターコイズのレイピアの切っ先がスゥの喉元へと迫る。
しかしレイピアがスゥに届く事は無かった。
「ようやく目が覚めたぜ……さっきはよくもやってくれたな……!」
二人の間に割って入ってターコイズの攻撃を剣で受け止めたのは、先程まで気絶していたガレスだった。
確かにガレスはターコイズのスピードに追いつけない、しかし攻撃が来る場所が事前に分かっているなら話は別だ。
この時ターコイズはスゥに向かって一直線に突進していたので、傍目にも攻撃の予測は難しくなかった。
ガレスの予想は的中し、二人は顔を突き合わせる様な形で拮抗状態になった。
「存外君もしつこいな……力不足なのはわかったろう?いい加減に大人しく寝ててくれ」
「お生憎様、昔から体の頑丈さだけには自信があってな」
やがて二人は弾かれる形で互いに距離を取ると、ターコイズがスゥとガレスの二人と対峙する形になった。
「なんだ、随分タフなんだなオッサン?てっきりもう死体になってたのかと思ってたぜ」
「どこの誰だが知らないが助かったよ……それと俺はオッサンじゃない」
「そんなことよりもオッサン、ここはアタシに任せてさっさと逃げなよ……アンタ、あいつに敵わなかったんだろ?」
「……悪いがそれは出来ないんだよ」
「なんでだ?」
「オニキスに……向こうで戦っている仲間に、アイツの相手を任されたからな」
「正直アタシ一人の方がやり易いんだが……まあいい、曲がりなりにもヤツの一撃を止めたんだ……肉盾になってもらうぜ」
「……おい、まさか俺ごと撃つ気じゃないだろうな?」
「生憎、オッサンの生き死にはアタシの報酬額に影響しないもんでね」
ガレスは大きく溜め息を吐いた。
隣の名も知らぬ女が今の一言で大体どういうヤツがわかったのと同時に、この手合いを動かすには少なくない出費が必要な事が想像に難くないからだ。
ガレスは貯めた傍から軽くなっていく自らの財布にやるせなさを感じつつも、しかし背に腹は代えられず、スゥにある提案をする事にした。
「……わかった、金なら払おう」
「契約完了だな、物分りが良くて助かるぜ」
「……先に言っとくが、ここで負けたら何も払えねえからな?」
「安心しなよ、こっちは腕利きで通ってんだ……キッチリ仕事をこなして、ガッポリ頂くぜ」
「あー……その時は分割とかで……なんとか……」
「シケてんなぁ……」
急ごしらえだったがスゥとガレスの連携は思いの他上手くいっていた。
戦闘経験が豊富な二人は、短い間におおよそお互いの戦い方を理解し合って、最低限お互いの邪魔にならない様に上手く立ち回っていた。
ガレスは前衛に徹してスゥの盾になり、スゥは援護射撃でスピードで劣るガレスをサポートしていた。
(なるほど、連携とは存外厄介なものだ……アメジストの人形程度ならば、どれ程数が多くても問題にならないのだが……)
ガレスかスゥのどちらかを仕留めようとすれば、残った片方が当然その攻撃の隙を突いてくる。
それがわかっていると戦力差で優位なターコイズも攻めあぐねてしまう。
ここで焦ってしまえば逆にターコイズの方が手痛い反撃をもらってしまうだろう。
(僕達もこんな風に協力出来ていれば、今回の任務だってもっとスマートに任務を遂行出来ただろうに……我々はなまじ能力があるせいか、スタンドプレーに走りがちなきらいがある。それでもクオリア二人がかりなら問題無いと思っていたのは我々の慢心だったか)
ターコイズは二人から大きく距離を取った。
勿論まだまだ余力はある……しかしそれよりもターコイズは気分を切り替えて仕切り直したかったのだ。
「……確かに今回、僕達は色んなものを見誤っていたらしい。だがそれは任務失敗と直結していない、今なら立て直しも容易だ……となれば今回は大人しく退くとしよう」
「なんだ優男、逃げる気かよ?」
ガレスの挑発にもターコイズは全く動じなかった。
「ああそうだよ、僕達の任務は君達ヒトと戦う事じゃない……日を改めさせてもらおう」
「ま、まて……!」
ガレスは追跡しようと試みるが如何せん体が言う事を聞かず、剣に縋りつく形でその場に膝を付いてしまった。
今までほとんど気合で戦い続けていたが、身体に蓄積したダメージが噴出してきていた。
「……クソっ!」
「おーいオッサン、大丈夫かい?」
ガレスの様子を見かねてスゥが声を掛けてきた。
「……だから……オッサンじゃねーっての」
「なんだかんだ助かったぜ、アタシ一人じゃもう少し手こずってただろうからな」
「それはこっちの台詞さ……ありがとう、君が来なければ俺は間違いなく死んでた」
「気にすんなよ、客に死なれちゃ困るってだけさ」
「そういえばそうだった……」
ガレスはスゥへの支払いの事を思い出して憂鬱になった。
しかしオニキスがまだ戦っている事を思い出して、再び気持ちを奮い立たせた。
「そうだ!オニキスの所に向かわないと……悪い、肩貸してくれ」
「ええ~?」
「こっちは無い金払ってんだ……こうなったらとことん利用させて貰うぜ、とっととサービスしやがれってんだコノヤロウ」
「仕方ねえなぁ……あ、オッサン。セクハラしたら罰金もらうからな?」
「冗談でもマジで勘弁してくれ……」
スゥはガレスの身体を抱き起すと、キャスターからバイクを取り出した。