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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア27

「まぁ、クオリアの僕を相手にして、よく頑張ったと思うが……さて、これで終わりだね」


 うつ伏せに倒れた動かないままのガレスにターコイズが自らの勝利を宣言する。

ガレスの意識はまだまだ健在だったが、如何せん頑丈さがウリのガレスの身体が電撃の食らいすぎたせいでピクリとも動かない。


(くそ………ッ!全く歯が立たねぇ……!)


 今までの戦いを経てガレスは『自分もクオリアと渡り合えるのでは?』と少し思い始めていたのだが、そんなささやかな増長はターコイズの手によって粉々に砕かれた。

アンバーの時も能力を使われていたならば、おそらく今回と同じ結果になっていたのだろう。

実はガレスも薄々気付いては居たが、やはりアンバーは手加減をしていたのだろう。

今にしても思えばガレスとアンバーの戦いはアンバーがガレスを試していた様に感じる。


(アンバーのヤツ、大した役者だぜ。実力で負けたみたいな顔してたくせによ)


ターコイズが倒れているガレスに止めを刺そうと歩いて近づいて来る。


「確か、君達が今まで戦ってきたのは……ルビーとアンバーとエメラルド、だったか。誰かに言われなかったかい?『クオリアの戦いに手を出すな』ってさ……君はそれを無視してここにいるんだ、勿論覚悟は出来ているね?」


 ターコイズの剣がガレスの頭部に突き刺さる寸前、何かに気付いたターコイズは振り下ろした剣の軌道を直角に変化させると、そのまま自分の側面に振るった。

金属同士が衝突する鋭く甲高い音が三回鳴って、弾かれた何かは二つは何処かへ飛んで行ったが、残りの一つは地面に叩きつけられた。

ターコイズが剣で弾いたであろう物の正体をガレスは何となく察していた。


(これは……まさか、銃弾か……今の時代に?)


 第三次世界大戦の頃には既にグラーフ博士が発明した空間制御システム『サバイバー』の登場により、世界に現存する銃は全てお払い箱になっていた。

世界が償いの日を超えて、新しいセカイに生まれ変わってもサバイバーはセカイ中で使用されている為、未だに銃はサ獣狩りの道具程度にしかならない。

銃を知らない世代がメインストリームの時代にあってガレスが音だけで銃弾を判別出来たのは、彼が世界大戦の初期から戦い続けている歴戦の戦士だからだ。


「チッ……これで終われば楽だったのによぉ」


 ターコイズに向かって発砲した人物は、毒づきながら倒壊した建物の瓦礫の陰から姿を現すと、無遠慮で面倒くさそうに二人のいる橋の中央部へテクテク歩いてきた。

パーカーのフードを被っているせいで顔は見えないが中肉中背の、どうやら女性らしかった。


「……君は誰だ?なぜ僕の邪魔をする?」


 ターコイズがフードの女に問いかけた。

フードの女は上目遣い気味にターコイズを睨みつけて言った。


「アタシの名前はスゥ・サイドセル……なんでも屋さ」

「ほう……?そのなんでも屋とやらが私に何の用だ?」

「つい今しがた、アタシの所に『街を荒らす悪漢をどうにかして欲しい』って依頼が来てな……つまりはお前をぶっとばしに来た」


それを聞いたターコイズが芝居がかった調子で笑った。


「ハッハッハッハッハ!やってみるといい、君にそれが出来るというのなら!」


大笑いするターコイズをよそにスゥが無表情のままぼそりと呟いた。


「……撃て」


 その瞬間、橋の下に隠れていた鳥型ドローンが十機、急速浮上するとターコイズに向かって機関銃から銃弾の雨をお見舞いした。

かと思えば、今度は300メートル離れた隣の橋に設置された十機の狙撃仕様のセントリーガンが順番にオートエイムでの狙撃を開始した。

不思議な事に今や誰でも携帯しているサバイバーによる妨害を一切受け付けず、ドローンの放つ銃弾は真っ直ぐターコイズ目掛けて飛んで行く。

橋の上は飛び交う銃弾の音でしばし賑やかになったが、やがて再び静かになった。

驚くべきはそれら全てをレイピア一本で凌ぎきったターコイズだ。


「……それで終わりかい?大道芸にしては物足りないな?」


 涼しい顔で挑発するターコイズとは対照的にスゥは忌々しげに舌打ちをすると、先程と同じ台詞を吐き捨てた。


「……チッ、これで終われば楽だったのによぉ。弾だってタダじゃねーんだ、これじゃ仕事の儲けが減っちまうだろ」

「それは無理な相談だな……では、そろそろこちらからも行くよ?なんでも屋とやら」


 ターコイズが狙いを付けられない様にジグザグに横移動を加えた変則的な動きでスゥに肉迫する。

スゥも拳銃で応戦するが、当然ターコイズには掠りもしない。

銃弾の合間を潜り抜ける様な体捌きから放たれたターコイズの稲妻の様な刺突をスゥはキャスターから取り出した金属製の丸盾で受けた。

停止したターコイズを狙って橋向こうのセントリーガンが狙撃を開始する。

ターコイズはスゥと距離を取ると同時に電撃を帯びたナイフをセントリーガンに向かって投擲し、狙撃した3機を同時に破壊した。


「速いな……アンタ、スピードに関しちゃなかなかのもんだよ」

「お褒めに与り光栄だね」

「だがなぁ……アンタより速いヤツを知ってるぜ?ソイツと比べちまうとどうしてもな、悪いが見劣りしちまう」

「……この僕よりも速い者が居ると?それは面白い冗談だな」


 スゥは銃を持ったままの右手で、敢えてゆっくりとパールとオニキスが戦っている方向を指した。


「アタシとは別行動であっちの橋に向かったヤツがそうさ、アイツは確実にアンタより速いぜ……アンタ、ラッキーだったな?もしこっちに来たのがアイツだったらさ、アンタもう負けてるぜ?」

「それでは手早く君を片付けてから、ゆっくりと見に行くとしようか」


 ターコイズは自慢のスピードで急加速で接近しスゥの背後を取る。

あまりの速度にスゥは反応出来ておらず、まだターコイズに背中を向けたままだ。

なのでターコイズからはスゥがニヤリと笑ったのが見えなかった。


(……ビンゴだ、かかったなスピード自慢)


 ターコイズの今の行動はスゥの挑発によって誘われたものだ。

スピード自慢の連中というのは、こうやって自尊心をつついてやれば『そのスピードを生かして』こちらの背後を取りに来るだろうとという事をスゥは自らの経験から当たりをつけていた。

ターコイズはまんまとスゥの術中に嵌っているとも知らず、スゥの予想通りの攻撃を行ってしまった……それが決定的な隙となった。

いくら相手が素早かろうが、次の行動が読めてさえいれば後はタイミングだけ……カウンターを取る事は難しくない。


「もらった!」


 ターコイズにはこの時、スゥの背中が突然爆発した様に見えた。

実際にはスゥが足元ばら撒いていた閃光手榴弾が後ろ向きのまま肩越しに発砲したショットガンの銃撃が合わさったものだった。

ターコイズが怯んだのを確認したスゥは攻めに転じた。

振り向くと同時に両手に持ったサブマシンガンで、ありったけの弾丸をターコイズの土手っ腹にお見舞いしてやった。

しかしそれで仕留められる程、クオリアは甘くない。


「ライトニング・ターコイズ!!!」


迫り来る銃弾を前に蒼い雷光が瞬いた。

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