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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア23

「……という訳だ。俺が相手になるぜ、優男サンよ?」


 ガレスが珍しくドスの効いた低い声で威嚇しつつ剣を構える。

ターコイズはそんなガレスを下に見ているのか意に介して無いのか……ガレスとは対照的にマイペースに話す。


「そう身構えなくても大丈夫だとも……僕達が戦う理由は無い。だろう?」

「……どういう意味だ?」


ターコイズは橋の向こう側で戦っているパールの方を指差した。


「実は先程、パールに『戦いの邪魔をするな』と口酸っぱく釘を刺されてしまっていてね……うっかり加勢に行った日には僕もパールに殺されかねないのさ」


 ターコイズは右手を自分の額にあてて、わざとらしく溜め息を吐いた。


「これでは二人で来た意味がまるで無いじゃないか……どうにも僕達クオリアは協調性に欠ける面があると思うね」

「せっかくの申し出だが……そっちに戦う理由が無くても俺にはあるぜ」

「……ほう?キミもクオリアの力は知ってる筈だろう?それなのに戦うと?」


ターコイズは挑戦的なガレスの視線に少し興味を持った様子だった。


「オニキスがパールを倒したら、次はお前が戦うんだろ?」

「フフフ、オニキスが勝つ事が前提か……ま、いいだろう。そうなるだろうね、僕達はオニキスを止めるに来たのだから」

「それなら俺には十分だ……お前がオニキスの邪魔をするってんなら、俺には十分戦う理由になる」


 ターコイズの雰囲気が鋭いものに変わり、周囲の空気がピリつくのを肌で感じる。

もしかして比喩では無く実際に雷が発生しているのかも知れない。


「……愚かだなあ。格好つけて命を落としても、何にもならないというのに」

「俺は……オニキスの旅を見届けるって決めたんだよ」


 ガレスの言葉はターコイズに向かってというよりも、自分に対して言い聞かせている様に見えた。


「ふむ……そこまで言うのならば少しだけ、遊んでやろうじゃないか?お手並み拝見といこう」

「さっきから余裕ぶっこきやがって……後で吠え面かいても知らねーぞ!」

「心配ご無用、それより君の方こそあれ程大見得を切ったんだ……頼むから失望させないでくれよ?」


 ガレスがツヴァイハンダーを構えるとほぼ同時に、ターコイズもキャスターを起動させて一本の剣を亜空間から取り出す。

亜空間から姿を現した武器は細身の片手剣、一般的にレイピアと呼ばれるものだ。

レイピアは刺突に主眼を置いた刀剣であり、旧ヨーロッパが発祥の地とされている、スポーツのフェンシングで用いられる武器だ。

彼の性格を象徴する様に柄の部分には凝った繊細な装飾が施されていて、無骨で飾り気の無いガレスのツヴァイハンダーとは何もかも正反対だった。


「……驚いたな、武器を使うのか?」


 今まで戦ったクオリア達が能力に主眼を置いた戦闘スタイルだったので、武器を取り出したターコイズを見たガレスの口から思わず感想が漏れ出た。


「僕の雷を操る能力は『突く』という戦い方と相性が良いみたいでね、それに……」


 そういい掛けた瞬間、目の前のターコイズが消えた……いや違う、姿勢を低くしてガレスの懐に踏み込んだのだ!


「……決着は早い方がいいだろう?」

「早ッ!?」

「シィッ!」


 ガレスは反撃が間に合わず、止むを得ず剣の腹を盾の代わりに使いターコイズの突きを防御した。

連撃を警戒してガレスが身構えていると、ターコイズはあっさり間合いの外まで戻っていた。


「ほう、初撃を凌ぐとは……確かに口だけでは無いようだね」

「……そりゃどーも」

「まあこれは挨拶みたいなものだからね、これで倒れられてもこちらが困るんだが……」


ターコイズは身体全体を使ってステップを刻み始めた。


「君の剣は随分重そうだ……それで僕に付いて来れるのかい?」

「やってみりゃわかるさ!」


 ターコイズの素早く流れるようなレイピアの連撃に対して、ガレスはツヴァイハンダーの刀身の刃の付いてない部分リカッソを持って応戦した。

こうする事で両手剣であるツヴァイハンダーを擬似的に槍の様に扱うことが出来る為、本来は相性が悪いこういった小回りの効く素早い敵との一対一にも対応できる様になる。

それでもやはりスピードではレイピアに劣るものの、勝っているリーチを生かして戦えば渡り合う事は可能だ。


「それなりにやるじゃないか!ではこれはどうかな!?」


 ターコイズはさらにスピードを上げて張り付くように接近してきた。

ガレスが持つリーチに依る優位を封じるつもりらしい。


「来やがったな!」


ガレスもターコイズがそうするだろうというのは当然予測していた。


(ここからは分の悪い賭けになるが……やるしかねぇか!)


 ガレスの懐に入る事で槍のリーチを生かせなくした上でレイピアから矢継ぎ早に繰り出される神速の突き。


「くっ!!」


 防御が間に合わなくなったガレスは敢えて武器から手を離し、左腕の手甲で突きを受けた。

ターコイズの突きには華麗な見た目からは想像も付かない程の威力があり、防御した腕が衝撃で後ろに持っていかれてしまう。

今武器を握っているのは右腕一本のみだ、これではターコイズの次の攻撃を防ぐ事は出来ないだろう。


「これで終わりだ!」


 ターコイズのレイピアが無防備なガレスへと迫る。

しかしガレスはそれを見越してあっさり大剣を手放しすと素早く体制を変えた。

腕で胸部を防御してターコイズの突きを自分の二の腕へと誘導すると、完璧なタイミングで腕で振る事で突きをパリィした。


「隙ありィ!!」


 中距離でのリーチ差による優位を嫌ったターコイズはレイピアの有利な近距離まで距離を詰めて来るだろうと予測していたガレスは、間合いを引きはがして自分の有利な中距離に戻すのではなく、逆に更に距離を詰める事を狙っていたのだ。

密着状態のゼロ距離なら、レイピアでの攻撃はままならない上にターコイズのフットワークも封じる事が出来る。


「なんだとっ!?」

「悪いが泥臭いやり方に付き合ってもらうぜッ!!」


 自分の勝ちを確信していたターコイズは見事に虚を突かれ、手痛いカウンターを貰う事になった。

ガレスは密着状態から渾身の力で頭突きを放った。

回避不能の頭突きはバガァン!という爆発音の様な音を発しながらターコイズの頭部に直撃した。


「オニキスのオマケだからって甘く見んなよ!!」

「ぐああああっ!!」


 ガレスの強烈な頭突きを食らったターコイズは、そのまま地面を滑るようにスライドしながら吹き飛んで建物の壁に激突した。

舞い上がる大量の土煙がターコイズの姿を隠す。


「……ふうっ!」


 ガレスは大きく息を吐いて体勢を整えた。

しかしクオリアシリーズがあれしきの攻撃では倒せないという事をガレスは今までの戦いから重々承知していて、警戒しながらターコイズの出方を見ていた。

本音を言えば追撃を仕掛けて倒し切りたい所ではあるが、それは危険が大きすぎる。

今は状況的にターコイズを倒し切る事よりもガレス自身が倒れない事の方が重要だ。

オニキスがパールに勝てば、二人掛かりで戦える……逆にオニキスが負けてしまったら二人の旅はここまでだ。

ガレスが一人残ってしまった所で、クオリア達を相手に戦い続ける理由も無くなってしまう。


(頼むぜ……オニキス)


 土煙がまだ晴れない内に、ターコイズが突っ込んだビルから落雷の様な爆音が鳴り響いた。


「きやがったか……」


思ったとおりだと、ガレスが土煙の向こう側を睨みつけていると、すぐ背後からターコイズの声が聞こえた。


「どこを見ている?」

「なっ!?」


 ガレスが振り向いても既にターコイズの姿は無く、ターコイズの声がまたしてもガレスの背後から聞こえる。

慌ててガレスが後ろを振り向くとターコイズは地面に落ちた自分の鼻を拾っていた。


「全く、鼻が欠けてしまったじゃないか……」


手鏡を使って自分の鼻を接着した後、雷を全身に纏ったターコイズがゆっくりと構えた。


「さて……続きといこうか」


 能力を使う前ですら付いて行くのがやっとだったいうのに、今のターコイズは能力の使用によって更に超人的な速度になってしまい、ガレスは手も足も出ない状態だった。

正確に言えば手を出しても空振りするばかりで全く追いつけないという有り様だ。


「シィッ!!」


 速度がさらに増したターコイズの神速の突きに対して、ガレスは全く反応出来ずほとんど勘で防御するのが精一杯だった。

しかしそれでは攻撃を凌ぎきれず、どんどんダメージが蓄積していく。

おまけに攻撃がかすっただけでもレイピアから大量の電流を流されて感電してしまう。


「があああああああああああっっっ!!!」


 バチバチッ!という派手な音と共に何かが焼ける様な匂いが周囲に漂っくる。

しかしガレスは倒れない、両足を開いて踏ん張り、しっかり踏みとどまっていた。


「おや?存外タフだねぇ、君……でももういい加減に頃合いだろう。君はよく戦ったし、僕に敵わない事もわかっただろう?」


 ターコイズの足元にはジュール熱で赤熱した二本の線が刻まれていた。

その様な速度で移動する相手に常人が敵う道理は無い。


「……そりゃ……どーも……!」

「端から僕は君を傷付けるつもりはない……力及ばず倒れてしまっても、オニキスだって君を責めやしないだろう」

「確かに、な、俺も、それが賢明だと、思う、ぜ……」


 感電で呂律の回らない舌でガレスは答える。

しかし電撃の余波で震える自身の身体を叩いで叱りつけると、再び剣を構えた。


「……でもそうしたらアンタ、次はオニキスと戦うんだろ?」

「僕としては大人しくメタトロンを渡してくれさえするならば、手荒な事をするつもりは無いのだけどね……どうやらそうもいかなそうだよ」


ターコイズは髪を掻き上げてから胸元から取り出した櫛で髪の乱れを直していた。


「じゃあダメだ、お前は……俺が倒さねぇとな……!」

「ふむ……」


ターコイズは少し何かを考える素振りをした。


「君、何故そこまでしてオニキスに協力するんだい?」

「……なんだと?」

「オニキスから何を聞いてるかは知らないが……彼女は何か隠し事をしている、わかるだろう?」


 それはターコイズの言う通りだった。

オニキスは敵であるクオリア達に対しても、味方であるガレスに対しても全てを話してはいない。


「……」

「我々は彼女が突然研究所を襲い、メタトロンを持ち出した理由を知らない……そもそもメタトロンが何なのか、君はオニキスから聞いているのかい?」

「……オニキスの事情は俺もよく知らないさ、だが御託はもう沢山だ。それでも俺が戦う理由に変わりはない!」


ターコイズは軽く肩を竦めた。


「はぁ……君、思ったより強情だねぇ、その頭の固さは尊敬に値するよ」

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