星のクオリア18
時計の針が真上で重なりそうになる頃、普段ならとっくに消灯している筈のマテ研の事務室に残っている二人組の男がいた。
「だりぃ……なんで俺らがこんなことしなきゃいけないんですかねえ?」
「確かに畑違いだが、俺達も組織人だ。何かのしわ寄せや誰かの尻拭いでこうなる事はままある」
彼等はれっきとした研究者で普段は事務仕事なんてしないのだが、メタトロンがオニキスの手で奪われてからというものマテリアル研究所は対応に追われていてゴタゴタしっぱなしで、兎にも角にも今は何処の部署も人手が足りない。
暢気に通常業務なんてしてる場合じゃないという事で、研究者である彼等にも普段回ってこない雑用が山の様に回ってきたのだ。
仕事の内容はグラングレイへの報告書だとか、クオリア達の仕事の穴を埋める人事とか……まあとにかく色々だ。
「……そろそろ一服しに行きません?」
「そうだな、行くか」
二人は疲れを取り繕うのすら億劫な程疲れていて、重い足取りで喫煙室へと移動した。
「あ~あ、せめて酒飲みながらヤニ吸いながら仕事してぇ……あ、先輩は何飲みます?」
後輩がぶつくさ言いながらも自販機で炭酸飲料を買った。
ここは真面目な研究所、当然自販機に酒は売っていない。
「全くだ、こんな日が続くと流石に俺もキツいわ……コーヒーで頼む」
後輩が缶コーヒーを持って先輩の隣にやってきた。
そして自分も椅子に腰掛けて煙草を口にくわえた時、先輩が後輩の煙草に火をつけた。
「……どもっス」
二人共が煙草の最初の一口を大きく吸い込んで味わった。
各々のタイミングで煙を吐くと、二人共多少は気分が落ち着いてきて、ようやっと世間話でもしようかという気分になる。
「ここだけの話なんだが……どうも派遣したクオリアが、もう既に三人やられたって話だ」
「マジすか!?」
「あぁ、どうやらオニキスに協力者が居るらしい……今回のメタトロン強奪はクオリア・オニキスの単独の犯行と思われてたんだが……考えてみれば奪われたモノがモノだからな、協力者が居たとしてもおかしくは無い。だが知識が無い者においそれとメタトロンを有効活用出来るとも考えづらいが……」
「……っつーことは、メタトロンの力を引き出す知識とかカネを持ってるデカい組織がバックに居るかも知れないって事っすかね?」
「そうだな……だが今の所、全くそれが見えてこない。だから所長もオニキスの背後にあるかもしれない組織が本格的に動き始める前に事態を決着させるつもりらしい……そしてようやく、クオリアを二人同時に差し向ける準備が整った」
「……二人でイケますかね?残り全員を向かわせて、確実に取り返した方が良くないっスか?」
「クオリア達の戦闘スタイルを分析するに能力の使用で自分の身体を削って戦う以上、一人のクオリアが同じクオリア相手に二対一で戦って勝利する事は極めて難しい……まぁ、俺達の残業ももうすぐ終わるさ」
「……」
「どうした?」
「そうなるといいんスけどねぇ……もしオニキスの背後に黒幕がいるとしたらの話、なんスけど……どうにも敵の動きとか、そもそも研究所の対応にも違和感があるような……」
「やめとけやめとけ、余計な事を考えてると首が飛ぶぞ?物理的にな」
「マジスカ!?」
二人は適当に切り上げて残業に戻って行った。