星のクオリア16
エメラルドの攻撃で吹き飛ばされながらも片膝を地面について立ち上がろうとした時、ガレスは体に奇妙な違和感を感じた。
吹き荒れる暴風とは異なる全く別の力がガレスの体に働きかけていて、風とは関係の無い別の方向へ引き寄せられている。
(なんだ……体が前に引っ張られる……?)
エメラルドの力の影響では無いとすれば、他に思い当たるのオニキスの力しかない。
先程オニキスがガレスに手渡して来た欠片の力だろうか?
引っ張られる方向を見てみればガレスの思った通りオニキスとエメラルドが戦っていて、しかもエメラルドは丁度ガレスに背を向けた状態になっていた。
「そういうことか……信じてるぜオニキス!上手くやってくれよッ!!」
状況を察したガレスは勢いよく走り出して引力に乗ると、倒れる寸前ギリギリまでつんのめりながら尋常ならざる急加速で走り出した。
白兵戦で火花を散らすオニキスとエメラルドの二人、丁度その死角から異常な速度でガレスが突っ込んできた。
「……チッ!でくの坊が!大人しく寝てりゃいいものを!!」
奇襲は成功し、上手くエメラルドの虚を突く事に成功はしたが流石に戦い慣れしているらしく、すぐさま対応してきた。
エメラルドはバク宙の様なサマーソルトキックでオニキスを攻撃するついでに、そのまま上空へと逃れた。
「げえっ!気付かれた!」
水平に落下する様なスピードで突進して来たガレスは、あやわオニキスに衝突するかと思われた。
しかし慣性を無視した動きでオニキスの目前で急停止したかと思えば、今度は勢い良く垂直に跳ね上がった。
「ぐおおおっっ!?キッツイ……!!」
急制動、急発進でガレスの体にはかなりの負荷かかったが、がむしゃらに剣を振り上げた。
エメラルドが踵落としでガレスの剣を迎撃する。
「そういう事かよ、オニキスがテメーを操ってんだなあ!?オラァッ!!!」
「ぐぅおおお!!!」
ガレスは踵落としをなんとか防御したものの、今度はエメラルドの暴風を受けて垂直に地面に墜落した。
その攻撃の瞬間に発生する僅かな隙をオニキスが狙っていた。
丁度ガレスの身体に隠れる様に放たれた渾身の重力球が、直前のスレスレの所でガレスと交差する形でエメラルドを急襲する。
「もらった!」
「俺をなめんなッ!」
それに気付いていたエメラルドが重力球を躱そうとするが、更にまだ何かが死角から飛んでくる気配に気が付く。
それは剣であり、直前に迎撃したガレスが最後の苦し紛れに投擲したものだった。
「オマケだ!!!」
「邪魔をするなってんだよおおお!!」
エメラルドは多方向からの連携攻撃を捌き切る事が出来ず、遂に胸部を重力球に破壊され戦闘不能になった。
「オレの負けか……クソッ!」
右半身を失った状態のエメラルドが地面に仰向けになって毒づいていた。
すでに風は止み広場にもちらほらと人が戻り始めている。
「エメラルド……私の使命が果たされるまで貴方のコアを封印します」
「勝手にしやがれ……だけど……」
「……?」
何か言い掛けているエメラルドを見て、オニキスは手を止めた。
「いい戦いだった……お前達と戦えて楽しかった、ぜ……」
「すみません、エメラルド……」
「メソメソ謝るんじゃねえ!とっとと済ませろクソが!」
他ならぬエメラルド自身に急かされる形でオニキスは止めを刺し、エメラルドの体内から緑色のコアを取り出した。
勿論エメラルドは死んだ訳では無く、別にこの状態でも大丈夫なのだが、オニキスの心には拭い切れない罪悪感があるのか、沈んだ表情のままだった。
「あー!いてー!いてーなチキショウー!」
いつの間にかオニキスのすぐ背後までやってきていたガレスが大袈裟に体を痛がった。
「全くあんな無茶するなんて聞いてねえよォー!」
「…………」
「最初に言ってなきゃ困るぜ!オニキスちゃんよー!」
「……!」
オニキスは最初、言動のおかしいガレスにキョトンとした顔をしていた。
少し遅れてガレスが落ち込んでいる自分を気遣って、わざと大袈裟な物言いで絡んで来てるのだと気付いた。
「……ふふ、貴方なら頑丈そうだから大丈夫だと思っただけです。これは信頼ですよ、し・ん・ら・い!」
「まったく、人の体ボールみたいに扱ってくれちゃってさぁ!後で湿布張るの手伝ってもらうからな!」
「いいですよ、おまけにマッサージでもしてあげましょうか?」
「優しく頼むぜ?こう見えてデリケートなんだよ……ってこんな事してられないか、面倒事になる前に退散しよう」
「はい」
広場にかなりヒトが戻ってきていたので、静かに二人は広場を離れる事にした。
大文化広場で起こった竜巻でケテルの街は大混乱になり、町のそこかしこで渋滞が起こったので、移動は諦めて今日はケテルで一泊する事にした。
・・・
「ぷはぁーッ!久しぶりに飲むビールはやっぱキクなぁー!」
今二人はケテルを構成する地区の一つである部族街の居酒屋にて夕食を食べていた。
ガレスは焼き鳥の盛り合わせにビールの組み合わせ、オニキスは焼きうどんとコーラで食事していた。
「あんまり飲み過ぎない様にして下さいよ?すぐに次のクオリアに狙われるかもしれないんですから」
「そうは言っても息抜きは必要だぜ?今日はどうせ身動きが取れねーんだ、道は混んでて進みそうもないし、それにいくらクオリアっていったってオニキスも身体が再生するまで時間かかるだろ?」
確かにガレスの言う事にも一理ある。
別に夜間に無理に移動したからといって何かメリットがある訳では無いし、夜行性の野生の凶暴なモッドに遭遇する危険もある。
だが自分達クオリアの恐ろしさを知っても尚、能天気に振舞えるガレスがオニキスはなんか面白くなかった。
少しヤケクソ気味にコーラをぐいっと煽る。
「確かにその通りかも知れませんけどぉー……」
「おっ、良い飲みっぷりだねぇ!じゃんじゃん食べなよ、ほらこれ!今度はコーラフロートとか頼んでみたらどうだ!?」
ガレスが指差したメニューを見たオニキスは衝撃を受けた。
「なん……ですって……!?」
「ん?どうした?」
「コーラの上にア、ア、アイスが……?許されるのですか、そんな事が……!?」
「……そりゃ、そういうメニューだからな、結構定番だぜ?」
「なんて贅沢な……っ!!」
「ははは、そんな高いもんじゃねーって……じゃ、決まりだな?注文するぞー」
しばらくすると、オニキスの前にコーラフロートが到着した。
「な、なんというオーラ……!」
「……オーラ?」
コーラフロートの圧にビビるオニキスが普段と全く違うのが面白くて、ガレスはにやにやしながらそれを眺めていた。
「で?味はどうだい?」
「幸せ……!」