星のクオリア15
「いくぜえええええ!!!」
エメラルドは巻き起こした暴風を巧みに操作して風の力で加速しながら襲い掛かってきた。
武器の類は何も持っておらず素手の状態だったが、クオリアを知る者ならそれが何一つ安心する要素では無い事は理解出来るだろう。
エメラルドは矮躯であり以前戦ったアンバーに比べれば確かに非力だが、腕に纏う竜巻がその力不足を補って余りある暴威を生み出している。
一方のガレス達はというとエメラルドの戦闘の余波で巻き起こる暴風に縛られて、踏ん張りながらの防戦が精一杯だった。
「……ガレス、貴方にこれを渡しておきます」
周囲を吹き荒れる暴風の中、そういってオニキスがガレスのズボンのポケットに入れたのは100円ライター程の大きさの真っ黒い結晶だった。
しかし今のガレスには自分のポケットの中身を確認する余裕はなかった。
「……なんだ?何かポケットに入れたのか?」
そのためガレスは剣を構えたまま振り向かずに聞いた。
「私の体の一部です、持っていて下さい」
「……なんだって??どうしてそんな事を……」
「詳しく説明してる時間はありませんが……とにかく、今から全力で力を使います。今渡した欠片が私自身の能力から貴方を護ってくれるでしょう」
「そういう事か……わかった、サポートは任せておけ!」
相変わらず背中を向けたまま、ガレスは答える。
その背中が自分の事を応援してくれているみたいで、こんな状況なのにオニキスは少し嬉しくなった。
「グラビティ・オニキス!」
クオリアが能力名を叫ぶ事は全力での能力行使を意味する。
オニキスが能力を発動させるとその瞬間、エメラルドの暴風によって巻き上げられていた無数の花びら達が一瞬で地面に垂直落下し、張り付いて押し花の様にぺしゃんこに潰れた。
同時に竜巻の範囲内……つまり大文化広場全域が30cm程地盤沈下を起こした。
これでもオニキスは街への被害を抑える為、ちゃんと手加減をしている。
なぜならオニキスが手加減を止める事は大文化広場の超重力による圧壊消失を意味するからだ。
「うおおおおっ!?」
突然オニキスの力で倍加した重力を全身に受けたガレスは体勢を崩しそうになったが、なんとか無理矢理踏ん張った。
重力の影響で風の力は弱まる……と思われたが、今度はエメラルドが更に出力を上げて来て、再び広場に暴風が吹き荒れる。
「うぜぇ真似しやがって!なめんじゃねぇ!」
しかしそれでもオニキスの能力による一定の効果はあったらしく、広場を縦横無尽に飛び回っていたエメラルドが地に足を付けた。
しかし両腕に纏ったの竜巻の力はまだまだ健在で、そしてオニキスの力の影響を受けても尚、エメラルドの闘志は翳らない。
勿論オニキスもまだまだ戦える状態だが、これ以上大きな力を使えば、文字通りお互いに体を削り合う事になるだろう。
そうなれば燃費の良いエメラルドが有利……なのでオニキスは隣のおせっかいな男を頼る事にした。
「完全ではありませんが、敵の足は封じました……二人で敵を叩きましょう!」
「……わかった、そっちに合わせる、好きに仕掛けてくれ!」
大文化広場はエメラルドの操る暴風とオニキスが倍加させた重力のせいで、めちゃくちゃになっていた。
ごうごうと吹き荒れる風がうるさくて、頑張って叫ばなければ会話もまともに出来ない程だ。
「……一応確認するが、今オニキスの能力で重力が倍加しているんだよな!?」
「そうですよ!」
「なんか奴さん、全然ピンピンしてるぞ!?」
「そうですね!!」
先程オニキスが能力を使用し、周囲の重力を倍加させて縦横無尽に跳び回るエメラルドを地面に落とした。
それは良かったのだが、地に堕ちただけではエメラルドのスピードはあまり衰えを見せていなかった。
「しかしこれ以上力を使うと私が戦闘に参加出来なくなりますから、これでなんとかするしかありませんよ!」
「やるしかねぇか……!」
「オラオラァ!オレはまだ戦えるぜぇ!」
エメラルドは両手足に圧縮した風を纏い、移動と攻撃の補助にしているらしい。
そうでなければ倍加した重力の影響下であんなにスピーディに動ける道理が無い。
エメラルドの狙いはオニキスであり、ガレスが背後から攻撃を加えようとしても避けられてしまって当りそうにない。
「くそっ、なんてスピードだ!」
オニキスの重力が無ければ、更に速かったのかと思うとガレスはゾッとする思いだった。
「テメーに用は無えんだ!どきやがれ雑魚が!!!」
エメラルドが攻撃の矛先をガレスに向けると、ガレスがエメラルドの拳を剣で防御した。
エメラルドの拳はまるでトラックに衝突された様な衝撃をガレスの全身に叩きつけると同時に、ついでに発生したカマイタチで衣服や肌を容赦なく斬り裂いていゆく。
ガレスは辛うじて踏ん張れたが大きく後ろに吹き飛ばされた。
「うおおっ!?」
「ガレス!!」
今度はオニキスが背中を向けたエメラルドに重力球を撃ち込む。
エメラルドは身体を捻りながら重力球を華麗に避けると、そのままオニキスに向かって浴びせ蹴りをお見舞いする。
「あめぇんだよ!」
先程と同じ様にオニキスもエメラルドの攻撃を防御したが、重力制御しているオニキスは衝撃で吹き飛ぶことも真空で肌を斬り裂かれる事もなかった。
「足手まといなんざ気にしてる暇はねぇぜ!」
エメラルドの乱暴な物言いに何故か無性に腹が立ったオニキスだったが、ここは敢えてにやりと不敵に笑いながら言い返す。
「……案外、そうでもないかも知れませんよ?」