星のクオリア14
ソフトクリームを堪能した後、そのまま牧草地帯を抜けてケテルに向かうその道中、オニキスがガレスに改めて問いかけた。
「何故ガレスは私にここまでしてくれるのですか?……何度か一人で考えてみましたけど、やっぱりまだ理解出来ません」
「そう改まって聞かれると俺も困るんだが……一番の理由は放っておけないから、かなあ?」
「そう、それがわからないんです。今更疑うつもりはありませんが、ガレスのは親切心にしては少々度が過ぎています」
「……そういわれてもなあ。うーん、なんと言えばいいのか……上手く話せないかもしれないけど、いいか?」
「えぇ」
「俺達が初めて出会った時、オニキスは身体が欠けていて助けが必要そうに見えたから、確かにあの時はちょっとした親切心のつもりで助けたんだ」
「私が気になるのはその後の事です。鉄血砂漠まで私を追いかけてきましたよね?あれは何故です?」
「オニキスと別れた後、ホテルでニュースをみたんだ。鉄血砂漠で火災発生って内容だった……その時にオニキスの事を思い出したら、それからは居ても立ってもいられなくなって、そのままホテルを飛び出してバイクに跨ってた」
「それです、なんで居ても立ってもいられなくなったんです?それが私にはどうしても突拍子も無い様に思えるんですよね」
「なーんかオニキスって危なっかしいんだよな……話してみてわかったけど、凄い世間知らずだし」
「むむむ……それは確かに否定は出来ませんけど……」
「だよな?だからあの時は『俺にしかオニキスを助ける事が出来ないんじゃないか』って感じてさ」
「呆れた……それで夜の砂漠まで態々危険を冒してまで来ちゃったんですか?」
「ははは……やっぱり俺の性分なのかもな。他人に何と思われようが、助けれるヤツは助けたいんだよ、俺は」
「……お人よしって、よく言われません?」
「おお、よくわかったな……だが俺はそんな上等なモンじゃないよ。上手く出来ない事も多いし、騙される事だってザラさ」
ガレスの表情が若干曇ると、オニキスはまたそれが気になってしまう。
「どうしたんですか?」
「俺はさ……戦争の時、最前線で戦うキメラ兵だった。自分でいうのも何だけど、俺はあんまり強くは無かったんだが、下手に生き残っちまったせいで、数えきれない程何回も戦場へ行って、数え切れない程の敵兵を殺した」
「…………」
「味方だって……助けられたかもしれないのに助けられなかったヤツもいるし、それどころか見捨てる事しか出来ない事もあったよ…………だからさ、俺は自分に出来る限りのヒトを助けてやりたいんだ。少し挨拶を交わした程度のヒトでも死んじまったらそれすら二度と叶わない」
「…………すみません、その、なんと言っていいものかわからなくて……」
「すまない。辛気臭い話をしてしまった……っと、そろそろケテルの中心部だな。祭りもやってみるみたいだし、切り替えていこう」
ケテル中心部、教区街をバイクで進んでいると大文化広場に差し掛かった。
大文化広場では丁度フラワーカーペットの催しが行われている所だった。
フラワーカーペットとは第三次世界大戦以前のヨーロッパはベルギーで行なわれていた祭典で、地面に色とりどりの花を大量の敷き詰めてカーペットの様に模様を作るというものだ。
大文化広場は祭りの為、全面通行止めになっていたのでガレス達はバイクを降りてからキャスターに収納すると、徒歩で大文化広場を横断する事にした。
「せっかくだし、ゆっくり見て行こうか?これもそう見られるもんじゃないからな、なんせ絵葉書になる位だし」
「しかし……」
オニキスはあまり乗り気じゃない様子だった。
「あ、もしかして人ごみが苦手だったか?」
「そうではないのですが……任務の途中でのんびり観光なんかして良いのでしょうか……?」
「目的地はまだ遠いんだ、息抜きも必要だと思うぜ?気を張ってばかりだと肝心な時に力を発揮出来なかったりするもんだ……お、ホラ見てみろよ」
ガレスはそう言って特に派手な一角を指差した。
そこにはグラン・シャリオという服屋があり、店の宣伝も兼ねているらしく特に豪華に煌びやかに店全体を飾りまくっていた。
その見事さにはオニキスもしばらく見入ってしまう。
オニキスは店を眺めたまま、敢えてガレスの方に向き直らず、小さな声でぽそりと呟いた。
「……ありがとうございます」
「気にすんな」
それからはオニキスもリラックスした様子で花の祭典を楽しんでいたが、しかし突然オニキスの表情が硬くなる。
それを察したガレスもすぐに真剣な表情になり周囲を警戒した。
「……新手か?」
「はい」
花の祭典で賑わう大文化広場のど真ん中に、そのクオリアの少女は立っていた。
緑色の肌に額に生えた白いの一本角、正面から見ると黒髪のショートカットに見えるが、長い髪を一本の三つ編みに纏めて腰の位置まで垂らしている。
身体には胸の下までの短い着物と前掛け付きの腰巻を見に着けている。
「よぉ!待ってたぜ、オニキス!」
そのクオリアはオニキス達に気が付くと、人懐っこい笑顔で軽く片手を上げて挨拶した。
「エメラルド……!」
オニキスが目の前のクオリアの名前を呼ぶ。
「どうしてメタトロンを持ち出したかなんて、オレはそんなつまらねー事は聞かねえ……!」
花の祭典の会場に突如として強い旋風が吹き荒れる。
「オレはお前と戦う為にここに来た!」
闘争心に満ちた笑顔で風に包まれたまま、エメラルドはゆっくりと宙に浮かんでいく。
そして叫びと共に力を解放する!
「ストーム・エメラルドッ!!!」
その瞬間、爆発的な衝撃波がエメラルドから発せられると、敷き詰められていた花々と広場にいたヒトビトが悲鳴を上げる暇も無いまま、花びら諸共に広場から吹き飛ばされた。
それはもはや風というよりも渦巻く衝撃波の塊と言っても差し支えない威力だ。
あっという間に大文化広場はガレス、オニキス、エメラルドの3人を残して無人になり、暴風に弄ばれる花びらが宙に渦巻いていた。
改めてクオリアの凄まじさを目の当たりにしたガレスは驚愕した。
「なんだこれは!?サバイバーが効いていないのか!?」
それに答えたのは重力波でバリアを張っていたオニキスだった。
「我々クオリアの能力は、自分の体を消費して行使します!だから発動した能力も自分の体の様に高い誘導性を保ったまま自在に操れるのです!」
通常のミサイルはサバイバーの防御を突破出来ない。
しかし『ミサイルを手で持ったまま操作していたならば、サバイバーが発動していてもミサイルを対象へ当てる事が出来る』つまりエメラルドはミサイルを手で持った状態の誘導性を、だだっ広い大文化広場すっぽり覆う範囲で展開しているという事らしい。
こんなものは勿論、新しくなったセカイに於いても規格外の能力だ。
「全く無茶苦茶だな、クオリアってのは!」
「だから何回もそう言いましたよね!私の話聞いてました!?」
「聞いてはいた!」
「……もう!」