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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア11

「私手出ししない様に言いましたよね!?勝手な事をしないで下さい!!」


 オニキスはガレスを睨み付けながら、叩きつける様に怒鳴りつけた。

今のオニキスは誰の目にも明らかに怒り狂っており、誰かが宥めようとしても『私は至って冷静です!』ムキになって譲らないだろう。

ガレスは気まずそうに目線をオニキスから外しながら反論した。


「……俺も言ったよ『まずいと思ったら無理矢理にでも助ける』ってさ」

「貴方はクオリアがどういう存在か分かっていないんです!」

「わかってるさ!それでも君が負けるのを黙ってみてはいられないんだよ!」


 思わず声が大きくなってしまったガレスに、オニキスはますます意地になって逆上した。


「私は負ける訳にはいかないんです!絶対に勝ちます!」

「いい加減にしろよ!」


 ガレスがオニキスの頬を張った。

そしてオニキスの両肩に手を置いて身体を屈めて視線を合わせてから、ゆっくりとした口調で諭した。


「絶対に勝ちたいのはわかる……だが落ち着け。二人の戦い方を見た限り、オニキスはアンバーに対して相性が悪すぎる……このまま戦い続けるのはハッキリ言って自殺行為だ」

「……だったら!」


 ガレスの話を聞いたオニキスは再び語気を強めて反論しようとしたが、言葉が続かず徐々に俯いていき、再び顔を上げた時には瞳の月色が潤んでいた。

思わぬ不意打ちにガレスはドキッとした……戦場帰りで傭兵やってる独り身のガレスは荒事には慣れていても泣いている女の子を慰める事に関してはてんで素人だった。


「……どうすればいいっていうんですか?私は、使命が……!」

「あぁスマン!そんな泣かせるつもりは……あ、今はそんな場合じゃないか!とりあえずだ!このままでは確かに不利だが、まだ負けると決まった訳じゃない!」


 自分達をヒトを超えた超越者だと豪語し、絶大な戦闘力を誇るクオリア達。

しかしヒトを超えた超越者と言っても、先のやりとりからも分かる通り、オニキスの心はまだ未熟な少女だ。

少女が初めて見せた涙はガレスを慌てさせるには十分な威力だった。


(そうだよな……クオリアって言ったって、ヒトと同じ様に感情があるんだ、当たり前じゃないか……!)


 今の今まで心のどこかではオニキスの事を人外だと思っていたガレスは、自らの浅はかな勘違いを大いに反省した。

しかし今は悠長に反省していられる状況では無い。

ガレスはキャスターを起動させると両手持ちの分厚い大剣を取り出した。

ツヴァイヘンダーと言われるタイプの両手剣で、斬撃の威力を高める為に刀身にスラスターが取り付けられている。

斬撃の瞬間にスラスターを起動して威力やスピードを強化する事が出来るが剣自体の重量が非常に高く、スラスターに依る機構も装備者自身のバランスには高い体幹と技量が必要とさせる為、かなりピーキーな武器と言える。

しかし刀身に刻まれた細かい傷の数々が、数々の戦場を潜り抜けて来た熟練の証であると雄弁に物語っていた。


「いいか、オニキス!急ごしらえの連携だから難しい事は言わない。俺が前衛でヤツを食い止める、後衛のお前がヤツを一撃で仕留めるんだ……やれるか?」


 シンプルな作戦だが、それならば確かに可能性があるかもしれない。

そう思ったオニキスは涙を拭いて再びアンバーと対峙した。


「……わかりました、くれぐれも絶対に無理はしないで下さいね」

「任せろ!」

「……話は終わったかい?」


 モストマスキュラーのポーズを崩さないまま、アンバーが二人へと微笑みかける。

その立ち姿は完全に周囲の自然と調和しており、まるで芸術作品だった。


「ああ、助かったぜ……紳士的なんだな、アンタ」

「そういえば、君にはまだ自己紹介をしてなかったね……僕の名はクオリア・アンバー」

「ガレス・ギャランティスだ」


 そう言ってガレスは足を大きく開き、両手剣を腰の辺りで地面と平行になるように構えた。

どちらかと言えば『相手を倒す』というよりも、左右に剣を振り回すことで『相手を近づけさせない』構えだ。

それを見たアンバーは今までの穏やかな雰囲気を一変させて、剣呑に目を細めた。


「ほう……本気でこの僕を止める気なんだね、面白い。でも果たして君に僕が倒せるかな?」

「俺は所詮、只の傭兵さ。そこまで自惚れちゃいない……アンタを倒すのはオニキスに任せるよ」

「……じゃあ君に何が出来るんだい?」

「アンタの拳に耐えれる」


 アンバーも両拳に岩石を纏って手甲にして構えた。

しかしアンバーのとった構えは腰を深く落とし、拳を強く握らないレスリングの様な構えだ。

構えから察するにアンバーの戦闘スタイルは拳闘が主という訳では無いらしく、拳の保護はあくまで補助的なものらしい。


「……言うね。では君が力不足かどうか、僕が確かめてみるとしようか」


 それきり両者は沈黙し、にらみ合った。

ガレスはオニキスを護るという役割がある以上、自然と先に仕掛けるのはアンバーになった。

アンバーは重量級の見た目からは想像もつかないほど軽やかなステップでガレスへと肉迫すると、ガレスはアンバーを剣の横薙ぎで迎撃し吹き飛ばそうとする。

両腕で頭部をガードしたまま突っ込んだアンバーはガレスの剣を防御した衝撃で5メートル程後退した。

しかしその鉄壁の防御姿勢は全く崩れておらず、またガレスの攻撃によるダメージも見受けられない。


「いい筋肉だね君……安心したよ、これならやりすぎる心配もいらなそうだ」

「……そりゃどうも」


 体勢を立て直したアンバーが再びガレスへと距離を詰める……と思われたが、アンバーはガレスの間合いギリギリの所で急停止し、四股を踏む要領で片足で地面を叩いて割り砕いて、二人の間に岩の壁を発生させた。

ガレスが警戒し後ろに飛び退いた直後に壁が粉々になって弾け飛ぶと、破片が石礫となってガレスに襲い掛かった。

同時にアンバーがショルダータックルの体勢で飛び出してきた。

ガレスは剣でタックルを防御するも、石礫やタックルの衝撃の威力は殺しきれずにアンバーに押し込まれる形になった。


「やるじゃねえか……案外、頭脳派なんだな」


 ガレスは内心アンバーのパワーに驚愕しつつも不敵に笑った。

能力でも敵わない相手でも、やると決めたからにはせめて気持ちで勝たねば。


「そうさ、手塩にかけた自慢の身体だからね……ちゃんと考えて使ってあげないと宝の持ち腐れになってしまう」


アンバーも相変わらず余裕の態度を崩さず、二人に肉体を見せつける様にポーズをとっていた。

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