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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア10

 クオリア達を生み出したマテリアル研究所は学園都市ジュラルバームの郊外にある。

しかし実際にマテリアル研究所を経営しているのは傭兵都市グラングレイに本拠を置く大手傭兵企業数社からなる共同体、通称『傭兵連合』と呼ばれる団体だ。

代表者はPMCプライベートミリタリーカンパニーボーダレスナイトのCEO『レダ・ドラゴンブラッド』ということになっている。

戦後の混乱期にマテリアル研究所の研究を目を付けたグラングレイは、武力をちらつかせて契約を押し付ける強引なやり方で経営権を得た。

言い方を悪くすればほとんど接収に近いし、経営というよりは管理下に置いているといった方が正しい。

この事でジュラルバームとグラングレイの関係は悪化したが、グラングレイはジュラルバームに対する防衛費の一部負担や、高額な賠償金、教育の為の人材の無償派遣等々のジュラルバームからの要求を呑んできた。

今もグラングレイはマテリアル研究所を支配下に置き続けている。

そしてそれだけやる価値をマテリアル研究所は持っていた。


・・・


 所変わってオニキスとアンバーが戦うより前の日。

ジュラルバーム一の飲み屋街ハーベイ通り……その一角にある、こじんまりとした隠れ家的な焼き鳥屋に、仕事あがりのマテリアル研究所の職員二名の姿があった。

一人は髪をオールバックにしている眼鏡の男で、如何にも潔癖なエリートといった風貌であり、研究員というよりは銀行員と言った方がしっくりくる様な男だ。

それなりに経験を積んでは居る方だが、研究員としてはまだまだ若い働き盛りで歳はまだ三十ちょっとといった所か。

もう一人は対照的にふわっとした長髪を金に染めてるチャラチャラした雰囲気の男で、一人目の男よりも更に一回り若い。

こっちは研究員というよりも……クラブの店員とかサーファーとか言った方がしっくり来てしまう見た目だ。


「ところで先輩、クオリアって結局なんなんスかね?」


意図の読めない後輩の質問を横で飲んでいた先輩が答える。


「……何ってなんだよ?どういう意味だ?」


後輩がネギマにかぶりつきながら言った。


「……俺ぇ、マテ研に来て半年くらい経つじゃないですか」

「ああ」

「でも結局、クオリアって何なのかイマイチわかんなくてぇ……なんか凄ぇってのは分かるんですけど、アイツラって結局ヒトにカウントして良いんですかね?」


 先輩はビールの入ったジョッキを煽りながら後輩の話を聞いていた。

そしてジョッキをトン、と机に置いてからそれに答えた。


「クオリアはメタトロンの一部を獣性細胞でキメラ化させた鉱物生命体ってのが一応共通の認識になってるが……正直な所、俺もよくわからん、というか皆わからん、だからそれを調べて解明するのが俺達の仕事だろ?」

「メタトロンって、隕石ですよね?マーカス所長が若い時に見つけたとかいう……」

「ああ、第三次世界大戦がはじまったのと同時期にメタトロンの研究が始まり、それが今まで続いている訳だが……メタトロンに関してはまだ解明出来てない部分がほとんどだ」

「つーか、そんなんでよくパトロン集まりましたよね。そうなると最初に発見者したマーカス所長いう出自もなんだか怪しいっすよ」

「だがメタトロンに無限のエネルギーがあるというは研究結果が照明している……あのクオリアですら力の発露のほんの一端に過ぎん」

「あー途方もねえ……」

「……まぁ、それくらいの方が俺達が食いっぱぐれの心配をしなくて済むから助かるがな」


話の途中で先輩は思い出した様にトマトを注文していた。


「メタトロンから派生した各研究の中でもクオリアは特別なんだ、なんせメタトロン本体を削って造られたモノらしい……そういえばお前、アンバーの報告書は提出したのか?」


先輩は思い出した事をそのまま口にした。


「一応出しましたよぉ……といってもそんなに進んでる訳じゃないっスけどね。クオリアの事、知れば知るほど俺わかんなくなっちゃって」

「確かにな……なるほど、それでか」


後輩は塩軟骨を齧りながら続けた。


「アンバーの能力が何かを『割る』能力だってのいうのはわかるんスけど、何を割ってるのか相変わらずさーっぱりなんスよねえ。こんなんで報告書かけとか無理ゲーっすよ」

「アイツ地面以外も割るもんな……海とか腹筋とか……」


先輩は新しく生中ジョッキと鳥皮を注文した。


「本人も『気合で割ってる』としか言わないんですもん……」

「アイツ、自分の能力より自分の筋肉の方にしか興味示さないもんな」

「空間とか次元に関する計器に反応が無いから、多分サイコキネシスに近い性質のモノだと思うんスけど……」


先輩は愚痴っぽく語るチャラい後輩を見ながら思った。


(こいつホント意外な程優秀だよなあ……)


 最初に先輩が後輩の教育を任された時は『ハズレを押し付けられた』と嘆いたものだが、態度に慣れてさえしまえば後輩は優秀な研究員だった。

しかし後輩本人に直接それを伝えると絶対に調子に乗るだろうという確信があるので、先輩がそれを後輩伝える事は無いだろう。


「でもなあ、そうなると今度効果範囲が通常の念動力と矛盾するし……って、先輩聞いてます?」

「ああ、聞いてるよ……ま、そう難しく考えすぎるな」


そういって先輩はキャバレーの割引券を二枚机に出した。


「行き詰った時にこそ、息抜きが必要さ……付き合うだろ?」

「あぁ~いいっスねえ!俺先輩に一生付いていきますよ!」

「……お前よくそんな適当な事ポンポン言えるな、逆に感心するわ」


そうして二人は席を立った。

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