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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア8

「……そういえばオニキスの目的地ってどこなんだ?」


 明け方の鉄血砂漠をバイクで移動しながらガレスはサイドカーに乗っているオニキスに聞いてみた。

オニキスの身体は肩の辺りまで再生していたが、とはいえまだ首くらいしか動かせない状態だ。


「ユーラシア諸島のモスクワですよ」

「ネオパンゲア大陸の外か、直線距離で言えばここから北東になるが……それはまぁ、現実的じゃないな」


 ユーラシア諸島はネオパンゲア大陸を取り囲む様に散りばめられた大小25万もの陸地からなる群島である。

無論全ての島を調査出来た訳ではないのだが地質調査の結果から、そのほとんどが旧時代にユーラシア大陸と呼ばれていた地域の土地であるという。

現在のモスクワはネオパンゲア大陸より最も離れた最北東の島であり、そして未開発な地域が殆どの為、危険なモッド達の楽園となっている。

例え船舶や飛行機を持っていたとしても、到底個人で行ける場所ではない。


「……随分不躾に聞いてくるんですね」


 オニキスは若干不機嫌そうに答えた。

先程の問答で押し切られたのを根に持っているらしい。


「言えないなら無理に聞こうとは思わないさ、でも同行するなら目的地は共有しておいた方がいいだろ?」

「……まあいいでしょう。とはいえ、話せる範囲は限られていますが……」


そうしてオニキスは自分の目的を語り出した。


「先ず大雑把に言ってしまうと、私の目的は宇宙へ行く事です」

「宇宙と来たか……そりゃまた壮大な話だ」


 償いの日以降、人類の宇宙開発の速度は酷く鈍化した。

今の時代は圧倒的に技術者が足りないし、地球上に再び新しい未知が溢れる様になった今の時代ではヒトビトの関心がそもそも宇宙に向いてないからだ。

旧人類が宇宙開発の過程で散らかしてデブリまみれだった衛星軌道は償いの日にゲヘナ達に綺麗に掃除されており、今あるのは精々通信用の衛星くらいだ。

戦前から戦時中には厭戦思想の勢力が月や火星あたりに人間を移住させる計画があるという噂もあったが、今ではその計画がどうなったかは誰も『覚えていない』


「正確にはある物を宇宙まで送り届けるのが、私の使命なのです」

「ある物?」

「『メタトロン』という名前の隕石です……今言えるのはこれで全部です」

「……そっか、話してくれてありがとな」

「……本来お礼を言うべきなのは私の方です。こうして運んでもらえるだけでも実際助かりますし、でも……」


オニキスは憂いの表情を浮かべた。


「……貴方が私達の戦いに巻き込まれてしまいます、本当に死ぬかもしれないんですよ?」

「大丈夫だって!クオリアが凄いのは俺なりにわかってるつもりだし俺だって傭兵だ。それなりに腕に覚えがあるんだぜ?」


オニキスはそんなガレスに口元を歪めるだけの微妙な笑顔を返した。


(腕に覚えがあるなんて、私達の戦いはそんな次元じゃないのですが……)


だがまあ、言っても聞かないだろうと思ったオニキスは気分を切り替える事にした。


「……喉が渇きました。何か飲み物を頂けませんか?」

「おう、コーラたくさん買って来たぜ。凄い旨そうに飲んでたのが印象的だったもんでね」

「やった!…………オホン。ありがとうございます、頂きますね」

「はっは!ご機嫌取りは上手くいったようだな!」


 二人は大陸中央の中心、ケテルのあるエウロパ山脈へ向かう道すがら、これからの予定について話し合った。


「目的地のモスクワはネオパンゲア大陸を取り囲むユーラシア諸島の最北東にあるが……ビッグスカボロウから直接向かうには距離的に今の蓄えじゃ心許ない」

「はい」


 ガレスは運転しながら器用にキャスターを起動させて紙の地図を取り出すとオニキスに手渡した。

地図なんか携帯端末のアプリで事足りると思われるかもしれないが、広い地域を長い間旅する場合、多少かさばっても紙の地図の方がわかりやすいし便利だ。


「確かに中央大陸東部にあるビッグスカボロウからそのまま北上して、海を越えてモスクワへ行くのが直線的で一番近道ではあるが……未開拓地域はモッドが多いし、補給無しで突き進むのは危険すぎる……いくらオニキスが強いといっても戦えば身体が欠けて動けなくなるんだし、ハッキリ言って無理だ」


 ガレスはここで一旦バイクを止めると地図の中心を指さした。

そこに記されている地名は芸術都市ケテル、そこからこれからのルートを指でなぞりながら話を続ける。


「だから一旦ケテルに立ち寄って物資を補給するついでに、ルルイエが新月街勢力下の港『玄武港』停泊する期間に俺達も新月街に到着する様に調整しよう」


 海運都市ルルイエはネオパンゲア大陸を時計回りに周回している都市だ。

大陸の北西部にある新月街からルルイエに入れば、あとはルルイエがモスクワの付近まで周回ルートで運んでくれる。


「なるほど……流石旅慣れていますね。私は飛行が可能とはいえ飛ぶのにも力は使いますし、そもそもあまり地理にも詳しく無く……考えが甘かったです」


 バイクを再び発進させたガレスは少し自信無さげなオニキスをチラリと横目で見ると、照れ隠しの為に軽く頬をかいた。

ガレスとしてはもっとこう、せっかくだから楽しく旅をしたいという意味なのだが、こういう事を自分から言い出すのは若干の恥ずかしさがある。


「せっかく一緒に旅をする仲間になったんだ、これからはガレスでいいぜ」

「そうですか?実は、そういうのにはあまり慣れてなくて……」

「まあ、呼びやすい様に呼んでくれよ」

「……考えておきます」


・・・


 鉄血砂漠から再出発した二人は一旦芸術都市ケテルへと向かう為、ネオパンゲア大陸の中心部に聳えるエウロパ山脈へと入った。

ひとつめの山を抜けると目の前には広大な盆地が広がっている。

平地で見晴らしが良く、さくらんぼやぶどう等の果樹が林立しており、のどかな雰囲気だ。

遠方には広い牧草地があり、牛が放し飼いにされていた。

遠目にも分かるほど妙にテカテカしてるのを見るに、おそらく遺伝子改造された『油牛』だろう。

油牛の乳は油分が非常に多く、とても飲めたものではないが燃料としては大変に優秀なので戦後ではかなりメジャーな家畜だ。

のどかな風景に柔らかな日差し……あくびを噛み殺しながら運転するガレス。

隣のオニキスも、ウトウトと船を漕ぎ始めている。

その二人の眠気を吹き飛ばしたのは、道の先……山間部の一本道の真ん中でポージングしている黄色い筋肉の塊だった。

あれは……フロントダブルバイセップスだろうか?

気配に気付いたオニキスが目を覚まして、緊張した面持ちになった。


「ガレス……敵です……!」

「えぇ……?」


 筋肉の衝撃の凄まじさに、ガレスはオニキスが初めて名前で呼んでくれたのにさえ気付く事が出来なかった。

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