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第136話 納得いって

「いやー、こうして二人きりでって初めて?」

「お前の妹からも聞いたな、それ」

 今日の下校は奈央の番。

 ただでさえ今日は女子七人(安達・加賀見・春野・日高・葵・奈央・深央)の相手を休み時間にしてるんだ。勘弁してくれ。あ、今日は、というか今日も、か。

「ふーん」

 何か少しつまらなそうな奈央。お前の身内の話なのに興味ないのか。


「それよりさ、何か面白い話をして」

「いやムリ」

 古典的な無茶振りをかまされたので一蹴。お笑い芸人でも難しいだろこんなの。

「そー言わないでさ」

 奈央が突然、俺の肩に手を当ててきた。

 奈央の側にある肩、ではなく反対側の肩。つまり奈央が俺の背中に腕を回しつつ、後ろから手をポンと置くような姿勢。

 当然、俺のすぐ近くに奈央が寄せてくる格好になる。

「なあ、近くないか?」

「えー、ギャルなら友達に対してこの距離感、普通じゃない?」

 いや知らん。



 中学のときも奈央にギャルというキャラ付けを設定してはいたものの、よく考えたらギャルというのがどういうものなのか把握してなかった俺は当時奈央と、

「ギャルって設定なんだけど、どうすればいいわけ?」

「とりあえず任せる!」

「は?」

「試しで最初にやってもらったのがあるだろ。あの調子で自分なりにイメージして演じればいい」

「いやあんなのすんごく適当だかんね? 一から自分で全部考えるとかキツいって」

「大丈夫だ。自分のアドリブ力を信じろ」

「体よく丸投げすんな!」

「奈央ったら情けないですね。ウチなんて先生に言われるまでもなくずっとアドリブでやっておりますわ」

「ただ敬語くっちゃべってればいいだけだろーがテメーは。あと『おりますわ』って何だよ」

「お、今のギャルっぽくないか?」

「ギャルにどんなイメージ持ってんだアンタ」

 そんな会話をしていた。あ、深央も横入りしてるなコレ。



「胡星さんがギャルについて自分でイメージしろって言うからさー。自分なりのギャルをやってんの」

 そのときの出来事を覚えていたらしい奈央は、そう説明した。

「そんなこともあったっけなぁ……」

「あ、覚えてるんだ? あの日のこと」

「お前らとそんな話をしてたら嫌でも思い出す」

「嫌でも?」

 奈央が睨む。おお、何かギャルっぽい。

「ものの例えだ」

「へー、じゃあいい思い出?」

「さてな」

 正直、いい思い出、とは言えなかった。


 当時の俺は岸姉妹に主人公になってほしくて、ほんの数週間とは言えそれなりに注力して演技指導に取り組んできた。

 その成果がいよいよお披露目、というときに全てがチャラになってしまったことは、今思い出しても空しい気分になってくる。

 なぜ今になって、という思いも岸姉妹に抱かないわけじゃない。

 岸姉妹には当時俺のわがままに付き合ってもらったことについて、感謝はしている。

 一方で、俺が主人公を作りだすという欲望も消え失せ、記憶の片隅に放置していたことをなぜまた今蒸し返すかのように、彼女達が再び俺の前に現れたのか。

 岸姉妹を恨むのは筋違いだからしない。しないが、うまく説明の付かない、理不尽が自分の元に押し寄せたような感覚が、妙に気分にこびり付いていた。


「僕は楽しかったけどねー。今となっちゃ」

 奈央は俺の肩から手を離した。そりゃ単純に歩きづらいしね。俺としても助かるよ。

「そりゃよかったな」

「他人事みたいだけど胡星さんもガッツリ関わってるから」

「ほとんど丸投げしてたけどな」

「ほとんど? いや全部じゃね?」

「かもな」

 やはりと言うか何と言うか、俺と奈央の話題は中学時代の演技指導に移っていった。

 だって、俺と奈央の共通項がそれしかない。

「今思えば俺要らなかったんじゃねーの」

「そんなことないでしょ。傍から見て細かい調整してくれたの胡星さんじゃん」

 奈央と深央の演技を逐一見ては口うるさく指摘したのは俺も記憶していた。

「あーいうの自分だけじゃよくわかんないからねー」

「そうなのか」

「今でもギャルってこれでいいのかな、て考えることはあるよ」

 奈央も奈央で、自分の演技について完全には納得いっていないらしい。

 本当に世間一般でいうギャルになりきっているのかは俺も判断付かないが、自然体に映るのは間違いなかった。

 そう思ったからだろうか。


「まあ、いいんじゃないか。お前みたいなギャルがいても」


 フォローか否か、我ながらよくわからない言葉を奈央に向けた。

 奈央は

「そっかな」

 とだけ返した。


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