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第133話 順番で

 今日作られたグループチャットは、夜にさっそく稼働されることとなった。

「先生、葵さん、今大丈夫ですか」

 深央のメッセージに対して俺は

「すまん、大丈夫じゃない。また明日にしてくれ」

 と返信したのに、

「大丈夫ですね」

「100パー大丈夫ですよね。あ、私も大丈夫だよ」

「じゃあ本題ね」

 深央・葵・奈央は揃って俺の発言を否定した。もうやだこの一年達。あ、俺の周りの二年達もか。これってもはや俺と面識ない人達の方が素直に俺の話に耳を傾けてくれるんじゃなかろうか。


「奈央とも話し合ったんですが、明日からは先生と一緒に帰る人を順番で決めませんか」


 初見では意味がさっぱりな提案が、深央のメッセージで送られてきた。

「今日は私、明日は奈央ちゃんみたいな当番制で胡星先輩と一緒に下校しようってこと?」

「ええ、そんな感じです」

 葵がすぐに嚙み砕いて深央に確認してくれた。

 でも、俺にとってはやはり意味がわからなかった。

 意味というより、理由がわからなかった。


 下校なんて基本一人でしたい。

 これまでの放課後といったら奄美先輩との作戦会議に毎日付き合わされ、さらに途中からなぜか葵まで当たり前のように居座るようになり、この一学期にてようやくこの姉妹から解放されたのだ。

 作戦会議後でも基本的には一人で帰り道を歩いており、ごくたまに春野などと一緒に帰ったことはあるが、下校は一人でいることの方が今までは断然多かった。最近は葵と一緒? そんなの偶然だ偶然。

 一人でいる時間が今となっては大変希少になってしまったこの学校生活。せめて下校の時間ぐらいは自由を謳歌していたい。


 ゆえに俺は、即座に抵抗した。

「えーと、なぜ?」

「先生、普段皆さんと一緒にいるときはあまり積極的にお話ししませんよね」

 そりゃ他におしゃべりしたい奴らが盛り上げてくれるからな。ありがたく便乗させてもらってるよ。

「サシならちゃんと僕らと対話するよね?」

 せざるを得ないだろうな。相手と俺しかいない状況だったら。

「皆さんと一緒にいる時間も貴重で楽しいのですが、先生とのお話も面白いかと思いまして」

「買い被りだな。俺ほどつまらん人間もそうそういないぞ」

 誰にとってもモブ以下の存在でありたいと願って、自分のことしか考えてない生き方してるからな。

「中学時代も知ってる私達には意味ないですよ、そんな主張」

「ホントそう」

 だが、岸姉妹は何を思ったか、俺との話を面白がっているそうだ。


 そんなバカな、とも思ったがそう言えば深央は前に俺の過去の話となったときに

「確か、俺と付き合っていい女にならないか、とか言ってませんでしたっけ」

 と盛大に嘘吐いてからかってたっけな。

 奈央も何かと俺をネタにしてくる傾向にあるし、そういう方向で俺との話を面白がってるのかもしれない。

「からかい目的なら春野とかどうだ。嘘をすぐ真に受けてくれるピュアな心の持ち主だぞ」

 と勧めようかと頭を過った。

 しかし、春野に対してそういう役回りを押し付けるのはさすがに気が引けた。……他ならぬ俺自身が春野を冗談でからかうこともあった気がするが、そんなに頻度は多くないだろう。そんなには。

「それで私も当番に入るのは?」

 葵から、新たに質問が挙がった。

 深央の説明を聞くに、葵からすれば自分も巻き込まれるのはおかしいと思うのは妥当であろう。


「葵さんも、私達と似たようなことを考えてるんじゃないか、と思いまして」


 そう、深央が推測をぶつける。

 似たようなこと、とは俺との話を面白がっているということか。

「今日僕らが来なかったら二人で帰る予定だったんだよね」

「まあ、うん」

 そうなってたな。何なら喫茶店に行く可能性もあったな。

 ところで、岸姉妹と葵と俺の四人で下校するとなった際には、葵から喫茶店へ行くという話は一切出なかった。

 岸姉妹も葵と俺がそんな話をしていたところは聞こえてなかったようで、特に言及もしなかった。

 葵も、岸姉妹との対話に集中して喫茶店のことを失念してたのだろうか。

「それなら葵さんと先生が二人になる日もきちんと決めておいた方がお互いのためになりそうとも思ったのですが、お気に召しませんか?」

 今日の下校のことを頭の中だけで振り返っているうちに、深央から新たなメッセージ。

 お互いのためと言われても、俺のためには全然なってないんだが。

 そう思っていると、葵から返信のメッセージが来た。


「うん、いいよ。それで行こ」


 なんとこんな奇妙な提案に、賛同する内容だった。

「では決まりですね」

「俺はうんと言ってないんだが」

「順番どうしよっか?」

「だから俺は賛成してないんだが」

「明日、葵さんと私達の三人で集まって決めましょう」

「してないんだが!」

「うん、じゃあまた明日、よろしく」

 俺の必死の抵抗も空しく、トントン拍子に話が進んでいった。

 俺が一年勢と同伴して下校する、という妙な話が。

 ……次から下校のときは、全力ダッシュで帰ろうかな……。それはそれで変に目立ちそうだなぁ……。加賀見辺りがネタにしてきそうだなぁ……。


常に否定から入るタイプの主人公


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