第130話 気安く
球技大会当日、一年生達はとある市民公園にて種々のスポーツを繰り広げていた。
その喧噪の中、葵・奈央・深央の三人が集まっていた。
「そっちのクラス、サッカー優勝おめでとー」
「葵さんの三組もバスケ優勝おめでとうございます」
「まーどっちでもいーけどね」
三人は友好を深めるべく、どちらからともなく球技大会の終わり頃に会うことにしていた。
互いの友人を紹介しようという流れには特にならず、この三人だけで落ち合う流れになった。
「葵さん、誰かに告白されました?」
深央の問い掛けに葵は苦笑いした。
「えーと、どうして?」
「ただの軽口ですよ。貴女は校内でも有名な美人ですので」
「有名っていうなら深央ちゃんと奈央ちゃんの方じゃない? 今ホットな話題になってるよ」
「へーそうなん?」
「そう言えばクラスの友人も似たようなこと言ってましたっけ」
「冗談じゃなかったんだ」
奈央と深央の耳にも二人の噂はある程度届いていたが、特に驚く様子もなかったようだ。
「まー私はさっき男フッてきたばっかだけど」
奈央の言葉に、葵は思わず
「え⁉」
と叫んでしまった。
少し人気のない場所を選んできたものの、これでは目立ちそうである。
「あら意外ですね。その気がなくても都合のいい男としてキープしてそうな見た目して」
「見た目と雰囲気だけでそんな判断するとか、見た目によらずバカなんだね」
「人のこと言えねーだろ」
二人が言い合いを始めたが、それよりまずちゃんと確認しなくては。
葵はそんな気分で二人に割って入る。
「ちょ、ちょっと冗談じゃなくて? ホントに?」
「うん。ホント」
「事実だと思いますよ。この人中学のときにも何人かに告白されてますから」
あんまり淡々としてるから冗談の可能性も考えたが、事実らしい。
やはりその優れた容姿から、男を引き寄せているようだ。
「どーせアンタもついさっき告白されてフッてきたんだろ」
「ええ、それはまあ」
一瞬、言葉が出なかった。
「え? 深央ちゃん、それって」
「さっき私も人目のない場所で殿方から交際しないかと言われまして、断ったばかりです」
「お前もこれで告白されたの何人目だよ」
「奈央と同じくらいじゃないかと」
事もなげに会話する双子。
葵自身も男に告白されたり、街中でナンパされることは何度かあった。
そのたびに嫌な思いをしたり丁重に断るのに気苦労を負ったりしたものだが、この二人のようにサバサバとしたことなんてあっただろうか。
葵が岸姉妹に奇異な思いを抱いていると
「葵さんも告白を受けてきたんじゃないでしょうか」
さっきの質問を深央が再度してきた。
「あ、あー、まあ実を言うと……」
言葉に詰まるもとりあえず本当のことを答えた。
葵も先程とある男子に呼び出され、告白を受けていた。
どうやらバスケで優勝したらしく、容姿も整った真面目な感じの好青年という人だった。
それだけに強く蹴っ飛ばすのは気が引けて、何とか丁重にお断りを入れてきたばかりだった。
「ということはこの三人は全員同時に告白されたんですね」
「こんな偶然ある?」
「今日はそういう噂が立ってますから特別なんでしょ」
奈央と深央は変わらず淡々と所感を話していた。
ふと、いつも気安く接している二年の先輩が恋しくなった。
「……というわけで電話しちゃいました」
『何が「というわけ」なのかさっぱりだな』
「とりあえずしりとりでもしましょう」
『学校の行事が終わった直後にしりとりってシュールだな』
「それじゃあしりとりの『り』から。先輩どうぞ」
『リボンシ○ロン』
「一撃で終わらせないでください。しかも単純にリボンでよかったでしょそれ」
『次はお前から。同じく「り」からでどうぞ』
「り……理数系」
『おお、いきなり意外なワードが。リンゴじゃダメだったのか?』
「いや何か自然とその言葉が出ちゃって。次先輩ですよ」
『印鑑』
「……次から負けるごとに罰金ってのはどうですか」
『ならしりとりはここで終了な』
「意地悪」
二年の先輩はいつもの調子で安心した。
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