第129話 意味不明
四人で再び合流した後。
「アイツについては最後まで気を付けないと」
日高は引き続き、王子を警戒していた。
「去年のリベンジってか? もしホントにやったら大したもんだ」
再び公開告白で振られっぷりを同学年の連中に見せつけるんだろうか。
それとも今度は人目を忍んでの告白か。
「まあ、そんなに心配しなくていいかもしんないけどね」
「でも、皐月の気持ちもわからなくはない。少し注意しよ」
「あ、あの、別にそんな大袈裟に……」
春野が王子への警戒を前提に話していることにオロオロしている。
そう言えば、春野は俺達が去年ひそかに王子のアプローチから守っていたことを知ってただろうか。結果は公開告白をみすみす許すという失敗に終わったけど。
当時から春野への好意の片鱗が見えていた王子に対し、球技大会の噂を聞いていっそう嫌な予感を走らせた日高が俺・安達・加賀見にも要請して春野を王子に近付けさせないように便宜していたことを。
そのときは日高の意向により春野に内緒の上で敢行しており、特にネタバラシもしていないので春野は未だにそのことを知らない可能性がある。
もっとも、後から何かの拍子に日高・安達・加賀見が春野へそのことを話した可能性も残されているので何とも言えない。
今回は去年の王子のやらかしが前提にあるわけだから、春野を警護するにしても春野に隠す必要はないわな。
「リンちゃんは優しいよね。でも、去年のこと考えるともう少し気を付けてもいいと思う」
安達も日高・加賀見寄りの考えのようだ。
この三人にすれば去年相当に警戒していたはずの王子に出し抜かれ、結果春野が嫌な目に遭うのを防げなかったわけだから、その件で王子への恨みも多少抱いているのかもしれない。
そして、球技大会終了まで、春野の身には何も起こらなかった。
日高は上機嫌だった。
いつも笑顔を振り撒く春野以上にニッコニコ。
歩き方一つを取っても体に弾みが出ていた。
「いやー、アイツもついに諦めたのかな?」
話題は王子のことに。
「ちょっと皐月、そんな話やめよ」
他人の悪口を基本よしとしない春野さん。つくづく優しい性格ですね。
「おっと、ゴメンゴメン」
日高も別に王子の話で盛り上がりたいわけではなかったようだ。そりゃそうか。
ふと、加賀見の様子がちらと目に付いた。
「……」
加賀見は俺達の会話を聞いてるのか否か、一言もしゃべらずに俺達の傍をただ付いてくるだけだった。
どこか正面の風景を遠く見つめているような、とにかくぼうっとした雰囲気があった。
「マユちゃん?」
加賀見の様子が気になっていたのだろう。安達が加賀見に水を向けた。
「ん。どうしたの?」
話は聞いていたらしい。安達にすぐさま反応した加賀見。
「どうしたの、てこっちが聞きたいよ。さっきからずっと心ここにあらず、て感じだけど」
そう。球技大会もそろそろ終わろうかという頃合い、加賀見が一人で御手洗に行き、そこから帰ったときにはもうこんな調子だった。
「別に、そんなことない」
この三人も直後に様子を心配し、何事なのか尋ねても加賀見はこんな調子であまり詳細を吐こうとしなかった。なお、俺としては万々歳なので放置していた。
「本当に?」
安達が加賀見に遠慮しない場面はちょいちょい見掛けていたが、今は特にその色が濃かった。
しかし、先程から繰り返し聞いてくる安達に根負けしたか、加賀見はぼそりと呟くように答えた。
「……告白された」
意味不明な言葉を。
「え⁉ そ、それって……」
安達が俺の方を向く。
「おい、何で俺を見るんだ」
「あ、あー、違うんだね……」
安達はまたすぐに顔を逸らす。何なんだ、お前。
「で、で。その返事って……あ、ゴメン。い、嫌なら、こ、答えなくて大丈夫」
安達、お前は一旦落ち着いたらどうだ。深呼吸しろ、深呼吸。
「断った。よく知らない人だったし、彼氏が欲しいとも思わなかったから」
だろうな。何か予想付いたよ。
そもそもこの悪党が告白されること自体は全くの予想外だったけどな。
いや、よくよく考えてみればそうでもないのか?
加賀見の容姿は漆黒の長いツインテールに中学生紛いの低身長。
いつも眠そうにしてる半開きの目に、あどけない顔付き。
外見だけで評するならハマりそうな男性が一部にいてもおかしくはないだろう。外見だけなら。
そして一度その外見にハマったら、そのハマり具合は一般男性が春野に抱く感情よりも深いものになりそうな気も、何となくした。マニアとか狂信者が生まれそうな、そんな感じ。
あとついでに言うとこの見た目で実はとんでもないサディスティックと知られたら、よりヤバい狂信者も生まれておかしくないんじゃなかろうか。
俺にはストレスしか感じないが、一部の男性にはそういうのが好みの奴もいるらしい。それを鑑みると加賀見の容姿どころか性格もわかっているが、むしろそんな彼女を求める男がいるのかもしれない。
思えば加賀見には一年のときにもアプローチしてくる男子がいた。
一学期の打ち上げの際、加賀見に熱心に話し掛けられていたが加賀見は興味のない素振り全開で対応していた。
ひょっとしたらソイツが諦めておらず、今回の大会で成果を挙げたのを機に告白へ踏み切ったことも考えられた。
何にせよ加賀見が詳細を語ることはないだろう。
これまでの奴を見ていると他人のことをベラベラ話すような口の軽さはどうにも思い当たらない。
真相は闇の中という奴だが、闇というと加賀見にはお似合いだとも思えた。
猛者、現る
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