第113話 後腐れ
新着のメッセージは、俺の寝ている昨夜のうちに送信されたようだ。
差出人は奄美先輩であり、
「黒山君、今度予定している外出の件なんだけどこれでどう?」
という文言の続きには日時や場所の詳細が書かれていた。
奄美先輩とは以前月に一回の外出を約束していた。
俺が今まで王子の件で奄美先輩に協力していたことのお礼として、奄美先輩の奢りで御飯を食べたりどこかへ遊びに行ったりするという内容だ。
今のメッセージに書かれていたのは、その約束にもとづく外出の再確認というわけだ。
奄美先輩がここまでグイグイ外出の件に触れてくるのには驚いた。
先日の花火大会で奄美家を訪れた際にも催促していたが、今回はさらに詳しい予定まで詰めてきている。
奄美先輩から提案したことなのだから彼女が率先して計画するのが妥当だと言えばそれまでだが、人によっては約束したこと自体忘れてそのまま約束した相手とも関係がフェードアウト、というケースもあるんじゃなかろうか。
奄美先輩も自身の気分転換のため、という本音を少し漏らしていたから多少乗り気になっているかもしれないが、この調子では本人からのフェードアウトの線は期待できそうにない。
もしフェードアウトするなら俺も喜んで約束を忘れたことにしていただろう。というよりもホントに忘れていたことだろう。んー残念。
ともあれここまで先輩から外出のプランを詰められては仕方がない。
どの道奄美先輩は葵の姉だ。ここで今更適当な理由を付けて関係を断とうとしても、葵を通じて俺の実情はすぐにバレてしまう。そんな状況で打つ手など思い浮かばなかった。
それによく考えれば悪いことばかりでもない。
奄美先輩といる間は女子四人やら葵やらとの用事は確実に免れることができる。
岸姉妹は……別にそんなしょっちゅう交流を持つこともないんじゃないか。
俺のところへ挨拶に来たのもただ懐かしい顔を見に来ただけだろうし、あの姉妹とは例の演技指導以外に接点はない。
演技指導をすることもなくなった今、あの姉妹とは特に関わる理由がない。
「はい、自分は大丈夫です」
俺は奄美先輩宛に返信した。
加えて1つの確認をメッセージに投げた。
「ただ、数日後に球技大会があるんですが先輩は大丈夫ですか」
そう、この時期は球技大会が近いのである。
学年別で開催されるこの催しは三年生でもしっかりと実施される。
それなりに体力の使うイベントだが、
「ええ、大丈夫。多分私はそんなに活躍しないから」
どうやら杞憂のようだ。
球技大会の種目は基本クラスでの話し合いによる自由参加であり、奄美先輩はそこまで活躍する予定がないのだろう。
「わかりました」
こちらとしてはそれなりに忙しくなりそうな月だな。
まあ夏休みほどではないと思うが。
そう思っていたら、メッセージのアプリによる通話が発信されてきた。
発信元は、先程までやり取りしていた先輩から。
どういうことだと思いつつ俺はスマホを耳に当てた。
「はい」
『おはよう、黒山君。ゴメンね突然の通話で』
「いえ、それは別に。それよりどうしました」
『大した用事ではないのだけれど、ちょっと確認したいことがあって』
「はあ」
『あなた、牡蠣は平気かしら』
「へ?」
全く予想外の質問ゆえに間抜けな声が出てしまった。どうしました奄美先輩?
『今度行く店、オススメの料理に牡蠣が使われるらしいのだけれど、牡蠣って全く食べられない人も結構いるみたいで。親戚でもそういう人がいたから、黒山君はどうなのか気になっちゃって』
事の次第を詳しく説明してくれる奄美先輩。
「まあ、自分は平気ですが……」
『よかった。問題なさそうね』
「テキストでの確認でもよかったのではないかと」
いきなり口頭でのコミュニケーションになるから急を要する話題なのかと思っちゃったよ。
『あ、あーそうね。ただ通話で直接確認した方が手間掛かんなかったから』
と奄美先輩は語るものの、「牡蠣が平気か」の問答をテキストでやり取りすることはそんなに面倒なことだろうか。
『それじゃ、改めて当日はよろしくね』
「はい」
『またね』
その後少し待っても奄美先輩の方から通話が切られなかったので
「失礼します」
とだけ言って俺の方から通話を切らせてもらった。
しかしまあ、奄美先輩とも後半年ぐらいの付き合いか。
ついこの間までは放課後に付き合わされてきた。それはもう長いこと付き合わされてきた。
それもようやく卒業という形で終わりが見えてきた。
奄美先輩が留年することになれば話は別だが、まさかあの先輩に限ってそんな愚かなことはあるまい。
先輩とはせいぜい後腐れないようにトラブルを起こさないようにしなくては、と気を引き締めた。
……あ、でもその妹との縁がまた新たにできちゃったんだよなあ。
俺の後輩だから俺が卒業する残り1年半は一緒かー……。
引き締めた気が怒涛の勢いで抜けていった。
基本的には脱力系の主人公
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