2にゃ
「はぁ……」
全くなさけない男だ。女々しいというか、思春期に入ってから色々と考えてしまう。
で、今は登校中。
基本的に奈子とは別々で登校している。なぜかというと、奈子とは別のクラスなのだが、苗字は一緒なのに未だに兄妹と周りに認識されていないからだ。それだけ釣り合ってないということだろう。だから、僕が奈子と一緒に登校したら学校は大騒ぎだ。
学校での奈子はクールで静かだ。中学校で一緒だった時は、休み時間に教室の隅っこで外を眺めていて、少し窓を開けて長い髪を風にたなびかせて、もう周りがキラキラと輝いていたわ。あまり周りとの接触は見られなかった。今もそのような感じらしい。
ただ、授業態度はいいのだが、彼女はオベンキョウが出来ない。だからいつも「お兄ちゃん、教えて〜」って言ってくる。
周りの男子から、時々噂を小耳に挟む。「奈子ちゃんってクールだよなぁ。何考えてるんだろう」「綺麗だよなぁ。あのどことない静けさが美人をひきたたせているよな〜」とか。
クラスは違うが、噂で奈子の話題が流れてくるぐらいだから、男子の中では相当な人気があるのだろう。奈子の話を聞いた時は知らんぷりしてるけど、心の中で(妹ですけど)とか思ってたりする。
教室に着いて、席に座る。朝からワチャワチャ、ワチャワチャと陽キャ達が写真の撮り合いを楽しんでいる。その傍ら、僕は朝の用意をして席につく。始業までは時間があるため、数少ない友達からおすすめされたライトノベルの本を読むことにする。
男の子はね。本能的にも女の子を自分のものにするために必死なんですよ。特にこの思春期という時期は。(本の一節)
(はぁ……なるほど)
とりあえず、無言で本を読んでいる。すると、近くでいい匂いがツンと鼻を突いてくる。
(n……)
ガタン
左側で物音が。チラッと左側を向く。
(あ……)
隣の席に座る少女。そこにいるのは、僕の好きな女の子。
首まで綺麗に切られた艶のある黒髪、透き通った赤い瞳、肌荒れを知らない白い肌。小柄で奈子よりかは身長は少し低い。
彼女がそこに来た瞬間、周りの空気が変わる。フワッとしたいい匂いが当たりに広がるのだ。
彼女の名前は西園寺美香。勉強もスポーツも何でもできる優等生で、人当たりのいい子だ。その分、周りの評価も高い。
「おはよう。浩介くん」
「お、おはよう。美香ちゃん」
彼女は僕のようなヲタク陰キャでも、笑顔で毎日話しかけてくれる。美香ちゃんとは1学期に隣になったことがあって、それからだ。2学期に入っての席替えでまた隣になり、それからどんどんと思いは高まっているってわけだ。
陰キャは陰キャでも女の子と話す人はいるだろう。でも、僕はあまり女の子との接触はない。だから、女の子の方から話しかけてくれるなんて、何かのご褒美のようなものだ。
美香ちゃんは荷物をおろして、それから窓の外を見る。
「今日もいい天気だね〜」
「そうだねっ」
「綺麗な青空だね」
ニコッ
そう言って美香ちゃんはこっちを向いて、優しく微笑む。
ズッキューーーーーン!!!
(!?!?!?!?)
その仕草に胸を打たれるッ
(かわいすぎだろ!)
顔が熱くなっていくのを感じてその場で固まってしまい、そのまま彼女を見つめることしか出来ない。
こんなの好きにならない理由がない。
「……」
何も考えられなくなって、それから会話が続けられない。いや、元々そうなのだが……
「今日も頑張ろうね!」
「そ、そうだね!が、頑張ろうッ!」
口が震えて、変な声が出る。それでも、美香ちゃんはまたニコッと笑って席に座った。
キーンコーンカーンコーン
そして朝のホームルームのチャイムが鳴る。僕は読んでいたライトノベルをしまって、前を向く。
顔が熱い。心臓がドキドキする。
(美香さんやっべなぁ!?)
隣に好きな人がいるだけで、ドキドキするのに。それから、しばらく心臓が鳴り止まなかった。
下校。
「はぁ……」
一発、ため息。どことなく鬱な気持ちで、消極的になっていた。
(まぁ……俺みたいな男子に、あんないい子が振り向くわけないよな……)
いつものルーティン。美香ちゃんといる時は舞い上がって、1人になると急に無気力になってしんどくなる。冷静になると現実が見えてくる。
思春期というのは何と辛いものなのか……
美香ちゃんに好きな子がいるかどうかは分からない。僕の数少ない友達の中にいる、精鋭情報取得部隊(学校の人間関係などの情報を仕入れるのに特化した部隊。どこで仕入れてくるのかは分からないが、聞けば大抵のことは知っている)の隊員でも、その情報は掴めていない。
周りに思いを寄せる男子は多いと思うが、彼女の恋愛面は何1つ掴めない状況だ……
青空が広がった気持ちのいい天気に、僕はやや下を向きながら家を目指した。
(周りの奴らはどう思っているんだろう。どうせ、俺が隣になっていることを何であいつがなんて思っているんだろう。分かる。俺も高身長でイケメンな男子が美香ちゃんにはお似合いだって……)
また、ため息が出る。
(あぁ!もう!やってられるか!家に帰ったら猫の動画をいっぱい見て癒されよう!)
っと思って駆け出そうと思った時だった。
「ミャー」
「え?」
足元から猫の鳴き声がして、下を向く。
(またいる……)
そこにいたのは黒い毛の猫。珍しい赤い瞳の猫で、この子とは度々会う。
「今日もかわいいですなぁ」
「ミャー」
しゃがんで手を出すと、黒猫は近寄って僕の手に頬ずりをして甘えはじめる。
(あーかわええ)
「ミャーン」
さっきまでの沈んだ気持ちが一気に和む。猫の力というのは偉大なものだ……
「ミャーン、ミャーン」
「いい子だねぇ……」
その後、しばらくの間猫を撫で続けていた。
次の日。
ガチャリ
学校帰り、先に家にいた僕は玄関のドアの音を聞いて振り返る。
「奈子、おかえりー」
自分の部屋のドアを開けてダイニングを見た。その時、見えた光景に自分の目を疑う。
「え、美香ちゃん……?」
そこにいたのは、奈子と……美香ちゃん!?
「あ、お兄ちゃん、ただいまー」
奈子はいつも通り。
「お邪魔します」
隣の美香ちゃんは、いつも通りの優しい笑みで僕に微笑みかけてくる
(え、なんで、なんで、なんで、なんでぇ!!!???)
全然分かんなくて、めちゃくちゃ混乱する。あのクールな奈子がなぜ美香ちゃんを家に!?奈子とは接点は全く無いはずだが……
「あ、お兄ちゃんは知ってるよねー美香ちゃん。猫友達なんだー」
「へ?猫友達?」




