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1にゃ

 今は9月。まだ暑さが残っている。


 15時に学校が終わって家に帰る。バイトをしているが今日はない。


 現在、住んでいるマンションは2DKの部屋でダイニングキッチンの他に2つの部屋があり、1つは僕の部屋、もう1つは奈子の部屋だ。ダイニングは玄関と2人の部屋に直結している中核地帯である!


 マンションにツイテ、荷物をオロシテ、部屋着にキガエ、ダイニングの席にスワリ、スマホを片手にコーヒーをイッパイ。


 まだ、奈子は帰ってきていなかった。


ズズズズズズーーーー(コーヒーを飲む音) 


 今は暑い時期だが、お腹が弱いためホットコーヒーだ。はめている眼鏡が曇る。


ニャーニャー、ニャー


 スマホには猫の動画。鳴き声を上げながら、動画主に頬ずりをして甘えている。


(いやーかわいいなぁぁぁぁぁぁ、これがいいんだよ、これが……!)


 ふと口角が上がり、顔がにやけてくる。


(わさわさの毛で甘えてくるこの無防備な生命体。なんなんだよ、もう!)


 スマホの画面をスワイプして、次の動画にいく。そして、画面に指を触れかけた、その時だった……


「にぃ、そんなにニヤニヤして何見てるの?」

「へ?」


 聞き慣れている柔和な声が聞こえて指が止まった。目の前を向くと、黒いカバンを肩にかけた制服姿の奈子がいる。


「帰ってきてたのか……?」

「うん、今帰ってきたよ」


 口がポカーンとあいて、僕は唖然とする。それから、顔が熱くなってくる。


(いや、全然気が付かなかった)


 ニヤニヤしている姿を見られていたとは恥ずかしい。


 それから奈子は目の前で少し不満げな顔をして、カバンを肩からおろし、こう言った。


「猫の動画見てたの……?」

「え、うん」

「むぅ……おにぃ、最近、私にあまりかまってくれないくせに……」

「……」


 はじまった。奈子の嫉妬モード。自分で言うのもあれだが、彼女は大のブラコンだ……


 それから奈子は猫耳をピョンと頭から出し、しっぽをお尻から生やして、僕のところに近づいてきた。


「にゃ、」

「へ?」

「きゅーあい、こうどう」


 奈子は椅子に座っている僕の膝の上に座って、そのまま僕に抱き着いてくる。


(お、Oh……まじかぁ……)


 温かい奈子の体。体温が伝わってくる。奈子の体の形が密着しているから分かる(これ以上言うと、変態だろう)


 奈子は先程とは違い、僕の胸の中で、上目遣いでおねだりするように見つめてくる。


「撫でて……?」

「え?」

「猫さんみたいに……」

「……」

「ね……?お兄ちゃん……?」

「n……」


(視線がまぶしいイイイイイイイイ。言葉が返せないイイイイイイイイ)


 奈子の破壊力が凄まじい。全く、どこで覚えてきたんだこの技。奈子自体がかわいいなんてのもあるが、仕草も反則である。


(いやぁ……どうしたことか……)


 この展開、度々あるが慣れない。奈子の行動は本当に大胆なものだ……


 何を話そうか、何を話そうかと考えている時、先に奈子が口を開く。


「お兄ちゃん、最近、奈子って呼ぶようになったよね?どうしたの……?何で前みたいに読んでくれなくなったの……?」

「え、えっと……それは……」

「お兄ちゃん、他に好きな子でも出来たの……?」

「えっ……」


 ドクン


 奈子の言葉を聞いて、心臓が1回大きく跳ねる。


(……)


 奈子には昔からかわいがっていて、奈子が猫になった後も本当の猫みたいに接して、2人で仲良くしてた。


 だけど、僕は最近初めて好きな子ができて、それで奈子とは少し距離をとるようになっていた。誠に自分勝手で、奈子が僕を大好きでいてくれているのは分かっているが、それでも自分の中で引っかかるものがあって、中々奈子と前みたいに接することができない。


 僕は奈子も大好きだ。


 自分の顔が平然を保とうとしても、緊張で震えてくる。鼓動はどんどん早くなっていくし。


 対して奈子は、どんどんと僕を抱きしめる力を強めてくる。僕の胸にほっぺたをくっつけて、おねだりするような目はどんどんと僕を追い込んでくる。


(マジで反則だぞ、妹チクショウ!なんでこんなかわいいやつが俺の妹なんだよ!?)


 全く、贅沢な悩みだ……


 それから、奈子は顔を近づけてくる。


「前みたいに、にゃーこって言いながら、頭、撫で撫でしてよ……?私、お兄ちゃんに猫扱いされるの好きだよ……?」

「そ、そうか……」

「ねぇ……?」


 頭の中で2つの力がせめぎ合っている。


 このまま妹を撫でるのか。でも、好きな子がいて他の女の子に手を出すのはどうなのか……


 どっちがいいんだ。どっちがいいんだ……


 妹も好きだし、好きな女の子も……


 これはどちらを選べば……


 奈子には嫌われたくないし……


「ん……そうえば、さっき猫の動画見てたよね……?その動画みたいにしてよ」

「いや、それは……」

「どんな動画見てたの?」


 奈子は体を起こして、目の前の机に置いてある僕の携帯を取ろうとする。


(まずい、携帯見られる……)


 いかがわいしい猫の動画を見ていたわけではないが、それでも履歴にはおびただしい数の猫の動画を見ていたことが残っている。見られたら恥ずかしい。


 決断をするのは今らしい。


「ごめん、奈子。ちょっとトイレ」

「え、お兄ちゃん?」


 奈子は振り返って、驚いたように目を大きく開ける。そんな反応は構わず、膝の上に座っている奈子の脇を両手で掴んで、自分の体から降ろす。


 そして、トイレに逃げる。


「ねぇ、お兄ちゃん!ちょっと!」


 奈子の声が聞こえるが、今は構ってられない!


 バタンッ ガチャリ。


 トイレのドアを閉めてカギをかける。


「あぁ……」


 僕は逃げたのだ……

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