21、わたし、サク・ブルーノアは貴方だけの人間です
––––あの濃すぎる1日から2ヶ月が経った。
この間に王国では本当に色々あって、わたし自身もすごく翻弄されたわ。
まず、国王陛下に掛かっていた死の呪いが消えたことで権力が元に戻った。
グラウスによる、権力狙いの殺害未遂。
ラインハルトさんの読みは確かだったらしく、後の宮廷魔術師団の調査でもこれは確定となっている。
陛下は復帰してすぐ、ラジオで声明を発表した。
「王都の戒厳令は今をもって解除する、全ての部隊は直ちに原隊へ帰還せよ」
これを受けて、クーデターを起こしていた国防軍は陛下の復権を確認し、民間人を誰1人傷つけることなく速やかに撤収した。
あまりにも鮮やかだったことから、“誰か”がそこまで計画していたのでは? と噂も流れたほど。
そして、王城へ向かう道での戦闘の件に関しては、一応わたしの攻撃は正当防衛ということになった。
真っ当な判決……っというわけではなく、王政府がこれ以上ダメージを受けないようにするための処置だったと聞いている。
グラウスに協力した近衛や警察、役員は非常に多かったため、そのニュースを紛らわす狙いもあったんだろう。
なんにせよ、わたしは無事技術試験局へと帰ることができた。
あとそう、これまで絶対王政だったエッフェルト王国だけど、今回の事件を受けてか立憲君主制の民主主義制度へ移行したの。
理由としては、また国王陛下が倒れた時に権力が1人へ集中しないようにすること。
そして、グラウス元王子が行った非人道的行為のせめてもの償いらしかった。
何でわたしがこんな細かいことを知っているかって?
それはもちろん––––
「せんぱーい、定時ですよ。そろそろ帰りましょーう!」
「はいはい、作業台だけでも拭いてから帰るわよ」
今日も平和な1日が終わった。
騒がしい後輩の手綱を握って、片付けも早々に技術試験局を出る。
「最近ほとんど定時で帰れてますよね、おかげで趣味にいっぱい時間が使えますよー!」
「そうね、貴女は今なんの趣味をしているの?」
「えっへへ〜、また今度教えてあげますよ」
「聖女特権のことも前にそう言って結構経つわよ? そろそろ言ってくれても良いんじゃない?」
「んー……、まだ内緒ですっ」
「まったく」
雑談していると、いつもの分かれ道に差し掛かる。
陽はまだ高く、夏の訪れを感じさせた。
「じゃあ先輩! また明日会いましょう!!」
「はいはい、また明日。気温差で風邪引くんじゃないですよ」
「ほーい!」
後ろ姿を最後まで見送る。
周囲に人の気配が無くなったあたりで、わたしはコホンと咳払いした。
「ずいぶん早いですね、今日は演習じゃなかったんですか?」
街灯の下––––真っ黒な軍服を着た、長身の男性がこちらへ手を振る。
黒髪を陽光に照らした彼––––ラインハルト・フォン・シュツットガルトさんは、見つめれば心臓が止まりそうなくらいカッコいい顔で笑った。
「なーに、対抗部隊を1時間で殲滅して早く引き上げたまでだよ。君の作る宝具はいつだって優秀だ」
「それ、ちゃんと訓練になるんですか……?」
「上を示し続けることで、兵士たちは常に高みを目指せるものだよ。現に今日の演習もかなり好評だった」
ケタケタと笑う伝説の軍人。
王城での電撃婚約からすぐ、わたしとラインハルトさんは文字通りイナズマのごとく入籍した。
今はまだ一緒に暮らせてないけど、近く……同居を始めるつもりだ。
「いや〜、それにしても腹が減った。早くサクの家に行こうじゃないか」
「フフッ、焦っても晩御飯は逃げませんよ」
「いやいや……一体どこで不届き者が狙っているかわからんからね。僕には無事、君を家まで送り届ける義務がある」
「昨日も同じこと言ってましたよ、大丈夫です」
精一杯––––満面の笑みを、隣で歩く最推しの方へ向けた。
「わたし、サク・ブルーノアは––––貴方だけの人間ですからッ」
これからきっと、また色々なことがあるんでしょう。
けれど、わたしとラインハルトさんの2人の前では些細な問題でしかない。
全部ぜんぶ、乗り越えられる。
確信と共に、わたしはラインハルトさんの手をグッと握った。
「おっ?」
珍しく驚く彼を引っ張って、石畳を蹴る。
「さぁ、帰りましょう!」
わたしの推しは––––今日も最高にカッコいい!
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