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17/21

17、腐敗にまみれた懐刀へサヨナラを

 

 サクと分かれたラインハルトは、尋常ではないスピードで王城内を移動していた。


 入り組んだ城内において、玉座の間は比較的分かりやすいのでサクでも案内抜きで行けるだろう。

 しかし、彼が目指す先は巨大な城の政府官僚が使う1室に過ぎない。


 にも関わらず、ラインハルトは最低限のクリアリングで通路を駆け抜ける。

 まるで、城内の間取りを全て知っているかのような––––


「この状態なら、サクも問題なく辿り着けそうだな」


 ここでブレーキを掛ける。

 彼の前には、1つの扉……。

 壁の上には『国家の間』と書かれていた。


 鍵は当然掛けられており、正当な資格無き者は本来入れないのだが、


「フンッ、随分と高級なロックを設けたものだ。これを買う余裕があるなら……もう少し民の暮らしに目を向けてくれれば良いものを」


 ラインハルトは、サクに貰った万能鍵(マスターキー)を試すこととした。

 グリップを握り、剣を一旦外した銃口をドアへ向ける。


「解錠せよ」


 ショットガンが火を吹き、弾丸が2発撃ち出された。

 強烈な反動(リコイル)をものともせず、目標へ叩き込む。


 硝煙の臭いを嗅ぐと、ゆっくりトリガーから指を離した。


「さぁ、お邪魔するよ」


 ドアを勢いよく蹴り開ける。

 蝶番(ちょうつがい)を粉砕された扉は、抵抗することなくアッサリ開いた。


 これは、この宝具の設計図をくれた人間が教えてくれた使い方だった。


 銃の先端に再び剣を付け直しながら入ると、部屋の奥の椅子に1人の男が座っていた。


「こんばんはお義父さん、また随分とお疲れのようで」


 立ち上がった男は、スーツのネクタイを締めながら……怒りに満ちた眼光を向ける。


「誰のせいでこうなっているか、わからん貴様ではあるまい。ラインハルト……いや、愚かな親不孝者の反逆者よ」


 国防大臣レーヴェン・フォン・シュツットガルトは、強面にメガネを掛けながら呟いた。


「いずれこうなることは、貴方ならわかっていたでしょうに」


「いいやわからんな、“あんなくだらん聖女”1人のためにこんなバカをするとは……。シュツットガルト家の面汚しめ」


 時間にして刹那だった。

 ラインハルトはショットガンを構え、レーヴェン国防大臣は姿勢を低くしながら突っ込んだ。


 放たれた散弾を左右への回避機動で避けると、ラインハルトの顔目掛けてバヨネット・ナイフを振った。


 ––––ギィンッ––––!!!


 レーヴェンの一撃を、ラインハルトは銃先端の剣で防いで見せた。

 互いに鍔迫り合い、睨み合う。


 だが、ラインハルトは笑みを絶やさない。


「愚かなのは貴方ですよ、サクが我々軍にくれた恩恵は貴方だってわかるはずです。それを理解せず、グラウスの傀儡であり続ける貴方は––––殲滅すべき悪の権化だ」


「ラインハルト、世の中には逆らってはいけない存在がある。グラウス王子は民から信頼を得た民意の具現、まさに絶対王者だ」


「選挙で選ばれていない王族が、民意の具現とは笑わせてくれる。どのような権利があろうと、国民の強制拉致は認められない」


「目を覚ませラインハルト! サク・ブルーノアと心中するつもりか!? アイツはもう聖女ではない! “魔女”だ!! 国民は貴様らを絶対に支持しない!」


 レーヴェンの声が怒りに震える中、ラインハルトは静かに息を吐き、目を閉じた。


「サクは……私にとってかけがえのない存在だ。彼女を守るためならば、どんな困難にも立ち向かう覚悟を見せよう。そのための準備も惜しまずして来た」


 再び目を開けると、ラインハルトの瞳には決意が宿っていた。


「レーヴェン、貴方も分かっているはずだ。グラウスの野望は国の未来を奪い、人々を今も苦しめている。国の私物化––––私はそれを止めるため立ち上がったに過ぎない」


 レーヴェンは一瞬、表情を固くし、その後に深い息をついた。


「それならば、我が手でお前を止めるしかないのか。貴様を認めることは決してできん。お前には親不孝者として名を捨てさせてやろう」


 彼の言葉が終わる前に、二人は再び激しくぶつかり合った。銃と剣が交錯し、部屋中に響く金属音と衝撃の音が響き渡った。


 長い時間が経過したかのように見えたが、実際には数分程度だった。

 ラインハルトとレーヴェンの力の均衡が崩れ、一瞬の隙が生じた。


 その隙を見逃さなかったラインハルトは、敵の剣を掻い潜り、ショットガンを突きつけた。


 いくらレーヴェンがグラウス王子の懐刀であっても、伝説の軍人には遥かに及ばないのだ。


「これで終わりだ、レーヴェン。グラウスの悪夢はここで……貴方の運命と同様に終わります」


 レーヴェンの目からは一瞬の迷いが見えたが、その後に彼は頷いた。


「貴様には敵わない、ラインハルト。しかし、忘れるな。王族の血がお前たちの手に染まった瞬間、貴様らは絶対悪の一員となるのだということを」


 言葉を残し、レーヴェンは剣を下ろした。

 決着がついたことを確認すると、銃口を躊躇なく向ける。


「貴方はサクを甘く見過ぎた、グラウスに媚び、彼女の誘拐を承認してしまった……愚かにもね。これまでも拉致で得た権益を吸い続けて来たから、今回も上手くいくと思ったかい? つまりこの結果は––––必然だ」


 トリガーに指を掛ける。


「今まで世話になった、義父さん」


 一流の殺しは多くを語らない。

 1発の銃声が轟くと、排莢されたシェルが床に落ちる。


「得られないなら掴めば良い。民意も、サクの自由も……貴様らごときには決して取られんよ」


 次弾装填のコッキング音が響く。


 彼はサクのため、信念を貫徹する覚悟を持っていた。

 伝説の軍人は決して後悔しない。


 たとえ身内を殺めようとも––––


「さて、急がねばな」


 ラインハルトは血を踏みつけ、新たな闘いへと向かった。

 サクとの再会を果たすため、サクの安全を守るため、サクと国の夜明けを迎えるため。


 彼は部屋を走って出た。


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