表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

16、王城侵入成功です

 

 既に夜は深まり、王城はランプの灯りで満たされていた。

 わたし達は、死に物狂いで城内ヘと侵入できたのだ。


「大門が閉じられる前に入れて良かったですね」


 馬から飛び降りたわたしは、持っていたハンドガンを床へ向けた。

 銃口は撃ち過ぎて加熱しており、後半は狙ったところから数センチほどズレて着弾してしまった。


 おそらく、過度な加熱により弾丸の通り道であるバレルに歪みが生じてしまったんだろう。

 不覚……ッ、さすがに初めて作ったせいか錬金の精度が甘い。


「サク、一旦武器を点検したまえ。120秒あれば十分か?」


「はいっ、すみません」


 銃を簡易分解したわたしは、思わずうめき声を出してしまった。

 見てみれば、不具合を起こしていたのはバレルだけじゃない。


 激しく前後に動くスライドには、大小様々な亀裂が入っていた。

 ハンマーは触ったら横にグラグラするし、リコイルスプリングに至っては著しく弱ってしまっている。


 これじゃあ……。


「撃てそうかい?」


 周囲を警戒していたラインハルトさんが、おそらく答えを察しながらも聞いてくれる。

 わたしは銃をホルスターへしまいながら、潔く前を向いた。


「撃てはしますが……、多分あと“1発”が限界です。それ以上だと暴発でわたしの手が吹き飛びますね」


 残念な結果に重い声で答えるわたしへ、ラインハルトさんは肩に手を置きながら返す。


「なら、サクの錬金は十分に仕事を果たしたな」


「えっ、なんでですか……? わたしの練度不足が招いた結果なのに」


「サク、軍用品とは本来過酷な耐久テストをしてから、軍の信頼を得て使う物だ。でも今回はそうじゃない」


 彼は置いていた手を、わたしの蒼髪のてっぺんに移した。


「耐久テスト無し、ぶっつけ本番なのにサクを城まで守り抜いた。これは君の不断の努力の成果だ」


 推しにそう言われて初めて気づく……。

 確かに、あれだけの連戦の途中で1回も装弾不良を起こさなかった。


 普通、これだけ破損したら不具合の1つは出てもおかしく無い。

 なのに、この宝具(ハンドガン)はそうならなかった。


 奇跡の上に奇跡が重なって、わたしをずっと守ってくれたのだ。

 武器に命を預け、武器を信じ、武器と共に生きるラインハルトさんだからこそ気づけた。


「サク、君の力はただの道具ではない。錬金術は君の心と結びついた存在であり、自分を信じることで本領を発揮する」


 ラインハルトさんは静かに続けた。


「この宝具は、君が成長してきた証でもある。初めて作ったから、確かにまだ完璧ではないかもしれない。しかし、それが君の持つ魅力であり、君の存在が生み出す強い力だ」


 彼の方を向くと、優しく微笑んでくれた。

 推しにこうまで言われては、嬉しくないわけがない。


「ッ……!」


 わたしは言葉に詰まり、胸に温かい感動が広がっていくのを感じた。

 ……この宝具はただの道具じゃない。


 それはわたしの信念や意志を具現化したものであり、共に戦い、共に成長するべき相棒なのだ。


「ありがとうございます、ラインハルトさん。その言葉で……正直かなり救われた気がします」


「なら良かった、ではここで早速提案だ––––サク」


 彼の笑顔が、真剣な表情へ変わった。


「ここからは二手に分かれよう、僕は国防大臣のいるであろう国家の間へ。君はフウカくんがいる確率が最も高い玉座の間に向かってくれ」


「国防大臣って……、ラインハルトさんのお義父さんですよね?」


「あぁ、彼とはぜひ会わなければならなくてね。城の警備は外に集中している、今なら戦闘にならず目的地へ着けるだろう」


 何故か聞こうと思ったけど、すんででわたしの理性が止める。

 “他人の家庭内問題に口を出すな”、これは自分の中で絶対だからだ。


 わたしは頷いて、ラインハルトさんの提案に従うことを決めた。


「分かりました。フウカへ会いに玉座の間へ行きます。ラインハルトさんも……無事に会えるといいですね」


「頼んだよ、サク。君ならきっと大丈夫だ」


 ラインハルトさんの励ましの言葉に心強さを感じながら、わたしは彼から離れてフウカのいる方角へ進んでいった。


 城内は静まり返っていた……。

 護衛たちは外に注意を払っているのか、玉座の間周辺は意外と見張りが少ないように感じた。


 フウカがいるかどうかはわからない。だけど、わたしは彼女を信じていた。

 彼女もまた、わたしと同じく力を持っている。


 グラウス王子が、宝を置いて逃げる性格だとは思えなかった。


 進む先には長い廊下が続いていて、足音を抑えながら静かに進み、扉の前で立ち止まった。

 深呼吸をして––––一気に扉を開く!


「ッ! 先輩!?」


 とても豪奢な部屋の奥。

 フウカが倒れていた、彼女の顔には驚きと安堵が入り混じっているようだった。


「フウカ、無事でよかった。今助けるから!」


 喜びと興奮が込み上げてくる。しかし、その瞬間、フウカの表情が一変する。


「先輩逃げて! 玉座の間には罠が仕掛けられてる!」


 驚きと恐怖がわたしを包み込んだ。

 瞬間––––背後の扉が閉まり、黄金の魔法陣が浮かぶ。


「封印魔法!?」


 気づいた時にはもう遅かった。

 扉だけじゃなく、全ての窓にも魔法陣が出現する。


「これでこの部屋はブラックボックスとなった、父上にもシュツットガルトにも、邪魔はされない」


「っ……!!」


 睨んだ先、玉座の影から1人の金髪を靡かせた美男が現れた。

 それは、わたしもフウカも……道具としか見ない最低の男。


「やはり君には檻が似合うよ、サク・ブルーノア」


 第1王子グラウス・エッフェルトが、腰から剣––––否。

 技術試験局の刻印が彫られた“宝具”を抜いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ