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15/21

15、覚悟なんてとっくにできてます!

 

 周囲の景色が凄い速度で流れていく。

 徒歩とは圧倒的に違うスピードで、わたしたちは移動していた。


「さすが教導団の馬だ、なかなか良い子じゃないか」


 わたしのすぐ前で手綱を握るのは、伝説の軍人にしてわたしの推し。

 ラインハルトさんだった。


 彼は巧みな馬術で、初めて乗る馬に対しても完璧に乗りこなしていた。

 わたしは彼の腹部を掴みながら、激しい揺れになんとか持ち堪える。


「もうすぐ王城ですね……」


 ここに来るまでに、何度かロンドニア教導団の兵士たちと遭遇したけど、みんなラインハルトさんだと知るや道を開けてくれた。


 もう実質、王城直通の道はわたしたち専用と化していた。


「後輩くんが待っているんだろう? 急がなくてはな」


 あそこにわたしの後輩……、フウカが囚われている。

 絶対に助け出して見せる、あんな王子の所有物になんかさせてたまるか。


「あえて、あえて野暮なことを今の内に聞いておこう……サク」


「なんでしょう」


「君は––––“人を殺す覚悟”はあるか?」


 ラインハルトさんは、声色を重くしながら続けた。


「ここから先は重武装した近衛が守っている、さっきみたいな峰打ちは無理だろう。だからこそ、君が作った宝具を使うことになる」


 思わず腰を触った。

 そこには、簡易で作ったホルスターに収まった鋼鉄の武器––––自動拳銃(ハンドガン)がある。


「君は軍人じゃないし、傭兵でもない。どうしても無理なら……僕が全部行っても良い。君には選ぶ権利がある」


 これは、きっと彼なりの不器用な気遣いだ。

 今後の人生に大きく影を落とす、人間として最低の行為に対する最終確認。


 ここで無いと答えれば、この方はきっと自分だけで全てを背負うでしょう。

 けど、そんなことは––––


「ラインハルトさん。わたしは聖女です」


 腰から取り出したハンドガンを、右手で力強く握る。


「この10年間……、理由はどうあれ軍に宝具を納め続けて来ました。そしてそれは、既にわたしを光の世界から遠ざけています」


 バカみたいに重たい銃上部のスライドを引いて、初弾を装填する。

 エキストラクターがリムを噛み込み、弾丸を薬室(チャンバー)へ押し込んだ。


「わたしは10年間、間接的にずっと人殺しをして来ました。人間を効率良く殺せるよう、貴方がより多くの敵兵を殺せるよう––––宝具作りに全てを捧げて来ました」


 道路の先に、兵士たちが見える。

 彼らは教導団ではなく、近衛だった。


「だから今さら確認なんて不要なんです、だってわたしはもう––––」


 揺れる馬上で、横へ姿勢を傾ける。

 照準をゆっくりと定めていき、


「10年前から……立派な人殺しです、聖女という名の––––悪魔なんです。何十万もの人間を殺して来た、覚悟なんてもの、とっくにできています!」


 発砲。

 火薬の燃焼ガスで押し出された弾丸は、弓矢なんて比べ物にならない速度で近衛を掠めた。


 こちらへ気づいた敵兵が、雷撃のエンチャントされた剣を振るう。


「敵襲!!」


「やっと来たか反逆者共め!! 今ここで死ねっ!!」


 アイツらは……! 昨日技術試験局へ来た護衛の近衛たち。

 大事な職場を、これ以上なく罵倒してくれたヤツらだった。


「グラウス様のもとへは行かせん、中級魔法––––」


 殺意と殺意が交差する中、わたしはトリガーを連続して引いた。

 けたたましい発砲音と同時に、剣を振ろうとした近衛が倒れる。


 もう二度と、動くことは無い。

 生じた隙を縫って、馬は近衛の防衛ラインを飛び越えた。


「クッ……、ハッハッ! ハッハッハッハッハ!!! 本当に、本当に君には驚かされてばかりだ!!」


 大笑いするラインハルトさんの背後で、わたしは弾倉(マガジン)をリロードする。


「そんなにおかしかったですか?」


「いやなに、僕は聖女という存在を少し甘く見ていたようだ。でも君の抱える闇と決意に触れて、その甘さは一瞬で消え去ったよ。君はただの聖女ではなく……最高の戦士だ」


 彼は満足そうに言った後、わたしに再び問いかける。


「後輩くんを救うために、自由を取り戻すために……どこまでも進む覚悟はあるかい?」


 ラインハルトさんの言葉が耳に響く。

 彼が言う通り、城内は重武装の近衛に守られているだろう。


 わたしたちの力だけでは到達できないかもしれない。


 だが、攫われたフウカのために。

 そして推しからの期待に応えるため! わたしはわたしの全てを捧げる覚悟を持っていた。


「自分は聖女としての使命も大切にしますが、貴方のためならどんな犠牲も厭わない。ラインハルトさんが行く場所には、わたしはどこへだって付いて行って見せますよ」


 決意を込めた言葉が口からこぼれると同時に、わたしは再びハンドガンを構える。


「さあ、ラインハルトさん。進みましょう! 全てを取り戻すために、王城へッ!」


 ラインハルトさんは笑顔で頷き、馬を駆り始める。

 風に舞う蒼髪をなびかせながら、わたしたちは決死の覚悟で城へと突入していく。


 王城の壁が迫るにつれて、敵の数も増えていく。

 しかし、わたしたちの前に立ち塞がる者は、わずかな間に打ち倒されていった。


 ハンドガンから放たれる一発一発が、敵の命を簡単に奪い去る。

 血の匂いが充満する中、戦場は一層激化していく。


 ラインハルトさんの背中に寄り添いながら、わたしも力強く引き金を引き続けた。

 自分の魂に宿る悪魔と向き合いながら、闘いを続けていく。


 やがて、王城の大門が目の前に迫ってきた。

 その門をくぐれば、フウカとの再会が待っている。


「待ってて、必ず助け出すから!」


 心に誓いながら、王城の大門へと向かって駆け抜ける。

 前方に広がる未知の戦場へと、わたしたちは飛び込んでいくのだった。


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