14、精鋭、ロンドニア教導団
タイムリミットがやって来た。
技術試験局の周囲を、倒れた近衛に代わって明らかに動きの違う人達が囲い始めた。
ラインハルトさんが失神させた近衛を丁寧に回収し、こちらからは見えない角度で展開し始める。
「アレが……ロンドニア教導団ですか?」
窓からひっそりと覗くわたしの後ろで、ラインハルトさんが答える。
「その通りだ、彼らこそ首都有事の際の最精鋭––––国で最も手強い連中の一角と言って良い」
精鋭部隊……。
っとなれば、当然だろうけど全員わたしが作った宝具の熟練使い……。
本当なら降伏か戦闘かの2択なんだろうけど、ラインハルトさんからは余裕しか感じられない。
「教導団は……、ここ以外にも展開している感じです?」
「王都の主要施設には全て展開しているだろう。王国各省庁、要人の豪邸や––––“通信施設”とかね」
「彼らと正面切って戦って、王城まで行けますかね?」
「私の部隊を総動員すれば可能かもしれないが、素直に言えばフィフティー・フィフティーだ。それに––––」
ラインハルトさんは、ついさっき作りたての宝具を手に持ちながら呟く。
「言ったろうサク、彼ら国軍の––––同胞の血は一滴も出さないとね」
銃剣付きショットガンを持ったラインハルトさんが、唐突に窓を開けた。
周りの怯え切った聖女たちも、ギョッと驚く。
「ちょっ! ラインハルトさん!?」
「心配ない、少し待っていてくれたまえ」
言い終わった直後、彼は窓から飛び降りてしまった。
それまで影も見えなかった教導団が、どこからともなく集まって、あっという間にラインハルトさんを包囲する。
心臓が嫌な感じで早くなる。
今から行われるのは、もしかしたら仲間同士の殺し合いかもしれない。
奥から1人の教導団兵士が出てくると、わたしは目を思わず瞑る。
他のみんなは、部屋の最奥まで逃げていった。
戦闘の火蓋が切って落とされた……かと思ったが、一向に戦いの音は聞こえて来ない。
さすがにおかしいと思って、窓の外から見下ろすと––––
「展開ご苦労様、教導団長。さすがのスピードだった」
「いえ、事前の計画通り行っただけです。これでもし失敗すれば––––みな打ち首ですからね」
えっ……!?
敵だと思っていた教導団の人と、ラインハルトさんがガッチリ握手していた。
その瞬間、私の心臓が停止したように感じた。
教導団の人々とラインハルトさんが手を握り合っている姿に、混乱が広がった。
私が見逃した何かがあるのだろうか?
彼らは一体何を企んでいるのだろう?
戸惑いながらも、私は窓から見続ける。
他の兵士たちはまだ警戒心を解いていなかった。
状況を整理すると、これって––––
「サク! 降りて来て大丈夫だよ」
ラインハルトさんの声に、わたしは困惑交じりで答えた。
「だ、大丈夫って……その人たち敵なんじゃ!?」
「彼らは同志だ、もう何ヶ月も前から……僕と共同関係にある」
同志……、つまり敵じゃないってこと?
言われた通り玄関まで降りると、長らしき人が近づいてきた。
「サク・ブルーノア技術士官ですね? お会いするのは初めてだ」
「は、はい……あの。貴方たちは?」
「自分たちは、ロンドニア教導団所属の第1歩兵連隊であります。いつも宝具を作ってくれている士官殿が、まさかこんな美人さんだとは」
ラインハルトさんが、気さくに後ろから団長を叩いた。
「ナンパは後にしたまえ、首尾はどうだ?」
「順調ですよシュツットガルト少佐、そこの近衛たちは拘束。主要施設も制圧しました」
「よろしい、“信頼のおける部隊”に裏切られた王政府は、さぞ面食らっただろうな」
わたしの中で驚きが満ちた。
この伝説の軍人は、ただ闇雲に反逆を起こしたんじゃない。
わたしの救出から武器の調達、果ては王政府の切り札までこちらに引き込んでいた。
あまりに凄過ぎる手腕に、さっきまで嫌だった心臓の鼓動が高鳴る。
「サク」
「え? あっ、はい!」
「例の宝具を彼に渡してやってくれ、昨日サクの家で作ってもらったやつだよ」
言われて気がつき、わたしは手のひらサイズのそれを団長に慌てて渡した。
「団長、君はこのまま“ラジオ局”まで行って、それの中身を全土に流してくれ」
「了解であります、お2人は?」
「我々は––––」
銃を担いだラインハルトさんは、遠くに見える王城を一瞥した。
「サクに手を出した身の程知らずを、この世から追放するつもりだ」
あまりに頼もしすぎる言葉に、わたしもベルトに掛けたハンドガンを撫でながら前を向く。
「ラインハルトさん、わたしもお手伝いします。貴方だけに行かせはしません、現場で宝具が壊れても困るでしょう?」
彼は頷き、共に王城を目指す決意を示した。
団長が前に出る。
「なら、騎馬連隊から馬を1頭借りてこよう。腐り切った王族共に––––痛いのを食らわして来てくれ」
戦いの幕が開かれる中、わたしは小説の主人公ではなく、現実の世界で生きる女として、運命に立ち向かう覚悟を決めたのだった。