表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/21

14、精鋭、ロンドニア教導団

 

 タイムリミットがやって来た。

 技術試験局の周囲を、倒れた近衛に代わって明らかに動きの違う人達が囲い始めた。


 ラインハルトさんが失神させた近衛を丁寧に回収し、こちらからは見えない角度で展開し始める。


「アレが……ロンドニア教導団ですか?」


 窓からひっそりと覗くわたしの後ろで、ラインハルトさんが答える。


「その通りだ、彼らこそ首都有事の際の最精鋭––––国で最も手強い連中の一角と言って良い」


 精鋭部隊……。

 っとなれば、当然だろうけど全員わたしが作った宝具の熟練使い……。


 本当なら降伏か戦闘かの2択なんだろうけど、ラインハルトさんからは余裕しか感じられない。


「教導団は……、ここ以外にも展開している感じです?」


「王都の主要施設には全て展開しているだろう。王国各省庁、要人の豪邸や––––“通信施設”とかね」


「彼らと正面切って戦って、王城まで行けますかね?」


「私の部隊を総動員すれば可能かもしれないが、素直に言えばフィフティー・フィフティーだ。それに––––」


 ラインハルトさんは、ついさっき作りたての宝具を手に持ちながら呟く。


「言ったろうサク、彼ら国軍の––––同胞の血は一滴も出さないとね」


 銃剣付きショットガンを持ったラインハルトさんが、唐突に窓を開けた。

 周りの怯え切った聖女たちも、ギョッと驚く。


「ちょっ! ラインハルトさん!?」


「心配ない、少し待っていてくれたまえ」


 言い終わった直後、彼は窓から飛び降りてしまった。

 それまで影も見えなかった教導団が、どこからともなく集まって、あっという間にラインハルトさんを包囲する。


 心臓が嫌な感じで早くなる。

 今から行われるのは、もしかしたら仲間同士の殺し合いかもしれない。


 奥から1人の教導団兵士が出てくると、わたしは目を思わず瞑る。

 他のみんなは、部屋の最奥まで逃げていった。


 戦闘の火蓋が切って落とされた……かと思ったが、一向に戦いの音は聞こえて来ない。


 さすがにおかしいと思って、窓の外から見下ろすと––––


「展開ご苦労様、教導団長。さすがのスピードだった」


「いえ、事前の計画通り行っただけです。これでもし失敗すれば––––みな打ち首ですからね」


 えっ……!?

 敵だと思っていた教導団の人と、ラインハルトさんがガッチリ握手していた。


 その瞬間、私の心臓が停止したように感じた。

 教導団の人々とラインハルトさんが手を握り合っている姿に、混乱が広がった。


 私が見逃した何かがあるのだろうか? 

 彼らは一体何を企んでいるのだろう?


 戸惑いながらも、私は窓から見続ける。

 他の兵士たちはまだ警戒心を解いていなかった。


 状況を整理すると、これって––––


「サク! 降りて来て大丈夫だよ」


 ラインハルトさんの声に、わたしは困惑交じりで答えた。


「だ、大丈夫って……その人たち敵なんじゃ!?」


「彼らは同志だ、もう何ヶ月も前から……僕と共同関係にある」


 同志……、つまり敵じゃないってこと?

 言われた通り玄関まで降りると、長らしき人が近づいてきた。


「サク・ブルーノア技術士官ですね? お会いするのは初めてだ」


「は、はい……あの。貴方たちは?」


「自分たちは、ロンドニア教導団所属の第1歩兵連隊であります。いつも宝具を作ってくれている士官殿が、まさかこんな美人さんだとは」


 ラインハルトさんが、気さくに後ろから団長を叩いた。


「ナンパは後にしたまえ、首尾はどうだ?」


「順調ですよシュツットガルト少佐、そこの近衛たちは拘束。主要施設も制圧しました」


「よろしい、“信頼のおける部隊”に裏切られた王政府は、さぞ面食らっただろうな」


 わたしの中で驚きが満ちた。

 この伝説の軍人は、ただ闇雲に反逆を起こしたんじゃない。

 わたしの救出から武器の調達、果ては王政府の切り札までこちらに引き込んでいた。


 あまりに凄過ぎる手腕に、さっきまで嫌だった心臓の鼓動が高鳴る。


「サク」


「え? あっ、はい!」


「例の宝具を彼に渡してやってくれ、昨日サクの家で作ってもらったやつだよ」


 言われて気がつき、わたしは手のひらサイズのそれを団長に慌てて渡した。


「団長、君はこのまま“ラジオ局”まで行って、それの中身を全土に流してくれ」


「了解であります、お2人は?」


「我々は––––」


 銃を担いだラインハルトさんは、遠くに見える王城を一瞥した。


「サクに手を出した身の程知らずを、この世から追放するつもりだ」


 あまりに頼もしすぎる言葉に、わたしもベルトに掛けたハンドガンを撫でながら前を向く。


「ラインハルトさん、わたしもお手伝いします。貴方だけに行かせはしません、現場で宝具が壊れても困るでしょう?」


 彼は頷き、共に王城を目指す決意を示した。

 団長が前に出る。


「なら、騎馬連隊から馬を1頭借りてこよう。腐り切った王族共に––––痛いのを食らわして来てくれ」


 戦いの幕が開かれる中、わたしは小説の主人公ではなく、現実の世界で生きる女として、運命に立ち向かう覚悟を決めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ