13、サク・ブルーノア渾身の宝具です!
ラインハルトさんのオーダーメイドを受けたわたしは、早速他の聖女たちの手伝いを貰いながら作成に取り掛かった。
素材を集められるだけ集め、進めていた全てのプロジェクトを中断。
文字通り、時間が相手の総力戦へと移った––––
「ブルーノアさん、ありったけの火薬を袋に詰めましたけど……こんな粉を何に使うんです?」
「技術士官、今ある中で最も上質なスチールを持って来ました。昨日作り終わったばかりの物です」
みんなはあの設計図を見ても、どうやら何か理解できなかったらしい。
っというわけで、必然的に錬金するのはわたしの役となった。
「ありがとう皆んな、それを全部“錬金台”に乗せてくれる?」
錬金部屋の中央にあるのは、巨大なエメラルドの塊。
テーブルと呼んではいるけど、明らかにサイズが大きいのはご愛嬌。
わたしの指示で、聖女たちが素材を並べていく。
ここからが本番だ……!
失敗は許されない、推しへ貢ぐ最高の宝具を––––必ず作って見せる。
「––––魔力同調開始っ」
エメラルド・テーブルが、淡く輝いた。
この同調作業は、100%適性がものを言う。
ただの魔導士がやっても、この高価なテーブルが砕けるだけだ。
わたしは手を振り、設計図に書いてあった部品を頭の中で3次元的に組み立てる。
「まずは手で握るところ、グリップ!」
木材がエメラルドに沈み、中で少量の鉄と混ざり合う。
「次にスライド!」
スチール塊が沈んでいく。
……! とんでもなく難しい作業だ、少しでも精度が狂えば一瞬で全部パーになる。
イメージしただけで出来上がる魔法の剣と違って、この武器はあまりに複雑過ぎる。
でも!
「スライドストップ! ハンマースプリング! リコイルスプリング! ハンマー! シア! 弾薬! そして––––」
わたしは完成させる!
サク・ブルーノアは、推しへの宝具で失敗などしない!
「トリガー!!」
エメラルドが眩く輝いた。
汗だくになったわたしの前に、1つの異形とも言える武器が現れた。
その武器は、まるで遥か未来からやってきたようなデザインで、シンプルながらも迫力があり、一目で注ぎ込んだ情熱と真摯さを表していた。
銃身には聖なる紋章が刻まれ、銃口からは微かな光が漏れているように見える。
わたしは完成した銃を手に取り、重みを感じながら確かめる。
そして、静かに口を開いた。
「これが、ラインハルトさんへの新たなる贈り物です。わたしの想いを込めて、心を一つにした結晶です」
聖女たちが驚きの表情でわたしを見つめる中、いったん銃を丁寧に棚へ置いた。
次に自身のポーチに手を伸ばし、もう一つの鉄塊を取り出す。
わたしはこの鉄を慎重にテーブルへ置き、魔力同調の作業を再び始めた。
時間が経つにつれ、周囲の空気が荒れ始める。
エメラルド・テーブルはさらなる輝きを放ち、魔力の渦が広がっていく。
「まだまだ! 推しのために、最強の武器を作り上げます!」
わたしの声は、昂る意志の力と共に響き渡る。
周りの聖女たちも、わたしの熱過ぎる思いに共鳴して、一体となって魔力を注ぎ込んでくれた。
「刃を作り出し、銃身に組み込みます!」
自分でも信じられないほど手が滑らかに動き、まるで芸術家が自在に筆を操るようにして、武器の形状が次第に明確になっていく。
「先端に銃剣を追加し、最後に刻印を追加!」
最後の仕上げを行う瞬間、エメラルド・テーブルが一瞬だけ輝きを増し、そのまま消えていった。
思わず息を呑み、目の前に現れた武器をじっと見つめる。
「これこそが……今の私の全てです。推しのために創り上げた、最高の宝具!」
わたしは歓喜の中で武器を手に取り、心の中で誓いを立てる。
ずっと傍で見守っていた推しが、感嘆交じりの笑みを浮かべた。
「君は……、本当に凄い人だ。一体どれだけ僕を驚かせば気が済むんだい?」
「これからも、何度だって驚かせて見せますよ」
出来上がった長い筒状の武器––––名を“ショットガン”を、彼の前へ差し出す。
「ラインハルトさん、私はあなたのために……世界を切り開く勇気を持ちます。この武器と共に、先へ進みましょう!」
銃へ刻まれた刻印には、技術試験局のロゴに0001と書かれた製造番号。
そして、“薔薇”の模様が小さく仕込まれていた。
推しは銃を眺めながら、ポツリと呟く。
「しかし本当に僕の体格にピッタリだ、サイズを教えた覚えは無いんだが……」
ウグッ!
言えない、日々写真を見ながら肩幅や身長を想像していたなんて絶対言えない。
とりあえず––––!
「さ、さぁ行きましょう! わたし達の自由の果てへ!」
目指す先は王城、取り返すは大事な後輩と自由。
わたし、サク・ブルーノアは––––推しとならどこまでだって突き進める。




