表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/21

12、推しからのオーダーメイド

 

「みんな!! 大丈夫!?」


 錬金部屋へ駆け込んだわたしは、すぐさま周囲を見渡した。


「ブルーノアさん!? どうして貴女がここに……」


 部屋の隅っこにいたのは、なんと縄で手足を縛られた試験局長と同僚の聖女達だった。

 すぐに駆け寄って、机に置いてあったナイフで縄をブチ切る。


 そして、早口で事の経緯を話した。


「なんていうか、拉致されて助けられて、悪者にされて今に至ります。みんな怪我はない?」


 10人ほどの局員たちは、不安そうにしながらも首を縦に振る。

 でもおかしい……、誰か足りない。


 まさか––––


「サクさん。“フウカちゃん”は……別の部屋とかにいました?」


 あーーーーーーーーーッ!!!

 そうだ! あの元気いっぱいの後輩ちゃんことフウカがいないんだ!


 慌てて別室を開けるが、中は道具や素材しかない。

 つまり、


「どうやら、敵も易々と進めさせてはくれないらしいね」


 背後から聞こえた声に振り向くと、そこには全く無傷––––それどころか汗すらかいていないラインハルトさんが立っていた。


 あれっ? さっき入り口で分かれてまだ10分くらいしか経ってないような……。


「でっ、伝説の軍人……!」


「シュツットガルト様だわ、でも確か王族に反逆したって……」


 口々に呟く局員達に、わたしはとりあえずの説明を簡潔に行う。


「みんなが拘束されてたのと同じで、わたし達も王政府に襲われたのよ。ラインハルトさんは確かにあの気持ち悪い王子を吹っ飛ばしたけど、あくまでわたしを助けるためだったわ」


「じゃあテロって言うのは?」


「王政府の被害者面よ、グラウス王子に拉致されて足を斬り飛ばされそうになったのはこっちだもの」


 事前の連絡無しでわたしが仕事に来なかった事実と合わせて、なんとか皆んなは納得してくれた。

 近衛が彼女らを乱暴に扱ったことも、なんの皮肉かこっちの正当性を主張するのに役立った様子。


 とりあえず、わたしはラインハルトさんの方を向いた。


「外の近衛兵たちはどうしたんです?」


「全員失神させて来たよ、彼ら––––CQC(近接格闘術)の訓練をだいぶ疎かにしていたからね、これで少しは仕事熱心になるだろう」


 あ、相変わらず恐ろしい強さ……。

 でも、これでこそわたしの最推し。

 カッコ良さが限界突破しているわ。


「ところで、1人足りないんだって?」


「あっ、そうです! わたしの後輩––––名前はフウカって言うんですけど、どこにもいなくて」


 しばし手を顎に当てたラインハルトさんは、フゥと息を吐く。


「サクの後輩なら、さぞ腕の良い聖女だろう。十中八九……連れて行かれたな」


「ッ……!!」


 わたしを含めた全員に、寒気が走る。

 まさか、わたしが手に入らなかったから代わりにあの子を?

 だとしたらヤバい、グラウスは聖女を人間とも見ない凶悪な面を持っている。


 もし、もし大事な後輩に何かあったら……っ!


「安心しろサク、確かに現状は不味いが……猶予はある」


「ゆ、猶予?」


「腕の立つ聖女はこのご時世そう多くない、君が手に入らなくなった以上––––後輩ちゃんがすぐ傷つけられる可能性は低い」


 ラインハルトさんの言葉で、ようやくわたしは深く息を吸えた。

 言われてみればそうだ、もう補填は効かない聖女を失えば、グラウスの欲求は達成されない。


 でも、一体どうしたら……。


「どうしたら良いか考えてるな? サク」


「まぁ……、それなりには」


「焦燥感は全てにおいて害だ、ゆっくり息を吸って……頭に良い血を巡らせろ。戦場ではそういった焦りが命を奪う」


「ッ……」


 言われた通り、2〜3回深呼吸する。

 確かに頭はスッキリしていく。


「落ち着いたかい? じゃあ早速だが聞いてみよう。なぜ君をここに連れて来たと思う?」


 その問いは、よく考えればとても不自然なもの。

 戒厳令が敷かれたのに、逃亡どころか敵の防衛網を破ってまでここへ来た。


 普通に考えて––––


「……聖女が、最大限その力を振るえる場所、だからですか?」


「ふむ、さすがサク––––正解だ」


 指がパチンと鳴らされる。


 言った矢先、ラインハルトさんは空間魔法で何も無い場所から紙を数枚取り出した。

 広げられたそれを、みんなしてジッと見つめる。


「なに、これ……」


「宝具……?」


 それは、歴戦の聖女たちをもってしても初見で判断できない物。

 圧倒的に多い部品点数、複雑な機構、加えて試験局にしか無いような素材で構成された道具。


 けれどわたしは、直感でこれを理解した。


「見た事ないですけど、これ……たぶん“武器”ですよね?」


 わたしの問いに、ラインハルトさんは陽気に答えた。


「そうだ、炎の剣や氷の矢、見栄えの大変よろしいこれらとは遥かにかけ離れた––––“最低の武器”だよ」


 推しのために宝具を作り続けて来たわたしには、この武器の理論がスッと頭に入ってくる。

 確かに、今まで作ってきたものとは違いすぎた。


「ここには素材が完璧に揃っている。スチール、真鍮、木材––––そして火薬。これらがあれば……後はわかるだろう?」


 なるほど、これはつまり––––


「サクなら作れる、この国家すら覆す最強の武器を……必ずな」


 推しからのッ、オーダーメイドッ!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ