表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/21

11、推しの強さが圧倒的過ぎて

 

 数百メートル離れた場所から見えたのは、武装した兵士に囲まれる“技術試験局”だった。

 周囲は鉄条網で封鎖されていて、まさしく完全な包囲網。


「まだ教導団は到着していないですよね……、なんで封鎖が。まさかアレって」


 屋根の上から単眼鏡を使っていたわたしは、隣に立つラインハルトさんの方を向いた。

 どうやら、わたしの疑問は正しかったようで––––


「正解だサク、あいつらは近衛だな。装備体系が王国軍と違う」


 ラインハルトさん、この距離でそんな細かいところまでわかっちゃうの?

 いや、確かに軍人として歴戦の彼なら、ぱっと見だけでわかっちゃうんだろうけど。


「じゃあ近衛の部隊が、わたしの職場を封鎖しているってことですか?」


「そうなるな、更に言えば君の同僚も中で軟禁状態だろう」


 思わず衝撃を受ける。

 わたしばかりか、後輩や他のみんなまで巻き込むなんて。

 グラウス・エッフェルト……! どこまでやるつもりなの。


「まぁそんなわけだから、教導団が到着する前に彼らを追い出すのが先決だ」


「追い出すと言っても……、50人くらいいますよ?」


「サク、“そこが良い”んじゃないか」


 見れば、敵を見つめるラインハルトさんの顔は、恍惚な笑みに染まっていた。

 とても美しくて、こっちまで見惚れてしまいそうになる。


「僕が戦争の時、1人でどれだけの数の敵兵を地獄へ送って来たと思っている?」


 不安は信頼へ変わる。

 そうだ、この方は––––たった1人で1個師団を壊滅させた経験を持つ戦闘のプロ。


 いわば、軍神の領域にいる人なのだ。


「そんなわけだから、安心したまえ。さぁ––––出勤しよう」


 抱えられたわたしは、大きく屋根から跳んだラインハルトさんと一緒に、鉄条網を超えた先に降り立った。

 周囲の近衛兵たちが、信じられないと言いたげに目を見開く。


「やぁ、近衛兵諸君」


 優しく降ろされる。


 さらに挨拶するやいなや、ラインハルトさんは足元の石畳を思い切り踏みつけた。

 重い一撃で宙に舞った瓦礫を、回し蹴りで弾き飛ばす。


「ぐおぁ!?」


 生じた隙を見逃すことなく、彼は怯んだ敵兵へ一瞬で肉薄。

 滑らかな体術で1人、2人と意識を奪っていった。


「サク! これを使え!」


 倒れた敵兵から、ラインハルトさんがペンダントのような物を取って、こちらへ投げてくる。


「反逆者、サク・ブルーノアとシュツットガルト少佐を確認。直ちに制圧せよ!!」


「ッ!!」


 ペンダントを受け取ったと同時、近くにいた近衛兵がわたしへ向かって鋭利な剣を振った。

 道具の使い方を知っていたわたしは、すぐさま魔力を注入。


 現れたドーム状の光の膜が、近衛の振った剣を弾いた。


「さすが、宝具のスペシャリストだな」


 兵士5人を同時に相手しながら、ラインハルトさんが呟く。

 光に隔たれた向こうでは、数人の近衛が攻撃してきていた。


 でも、わたしには届かない。


「––––『魔導防壁具』、この宝具も昔嫌というほど作りましたから」


 これは、術者が魔力を注げば自動的に防壁が出現する宝具。

 錬成が難しくて量産ができない分、小隊長クラス以上しか支給されていない。


 だからこそ、ラインハルトさんが真っ先に狙ったのは部隊長階級の人間。


「ラインハルトさんは!?」


「僕には必要ない、それより今は時間との勝負だ。急いで試験局へ入って聖女のみんなを解放してくれ」


「わ、わかりました!」


 バリアを壁代わりにして、兵士たちの防御陣を強行突破する。

 けれど小説みたいにはいかず、それだけでは力不足。


 入り口に辿り着いたわたしを、背後からの衝撃が襲った。


「わっふ!?」


 変な声と共に転倒。

 起き上がりながら振り返れば、杖を持った兵士がこちらを向いていた。


「魔導士!」


 次いで放たれた第2射は、前方に防壁を集中することでなんとか防ぐ。

 けど、今の攻撃で宝具にヒビが走ってしまった。


 もう使えない……!


「トドメだ、蒼色の聖女よ」


 目を瞑り、痛みに備える。

 けれど第3射は––––放たれなかった。


「ッ……!!」


「市街地戦で隙の大きい魔法は厳禁だよ、近衛くん」


 見れば、さっき飛び散った瓦礫をラインハルトさんが投擲、杖を弾いていた。

 彼はわたしの傍まで来ると、背中を押す。


「ここは僕に任せたまえ、君は中に」


「……はい!」


 言葉通り、わたしはいつも出勤していた技術試験局内へ駆け込む。

 見慣れたはずの景色が、今はとても不思議なものに見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ