10、戒厳令
魔導ラジオはその全てが、緊急放送に切り替わった。
内容はもちろん、わたしとラインハルトさんの反乱についてだ。
「えー、先ほど王政府より臨時の緊急会見が行われました。ラジオを聞いた方は、できるだけ多くの方にお声がけしてください」
淡々とした男性ナレーターの声が響き渡る。
飲食店で、小売店で、大通りで、あらゆる人々が注目した。
「本日未明、陸軍所属のラインハルト・フォン・シュツットガルトおよび、技術試験局所属のサク・ブルーノアが王城にてテロを決行。被害が確認されました」
今朝のできごとは、完全にわたし達が悪だということになったらしい。
ソファーで隣に座るラインハルトさんを見ると、薄っすら笑みを浮かべていた。
どうやら、動揺など全くしていないご様子。
それどころか、……楽しんでる?
「この英雄による事件を受け、王政府は現在の警察力のみでは予測できる最悪の事態に対処できないと判断。先ほど国防軍に対し出動を要請しました」
ナレーターの声が続く。
「第一王子グラウス・エッフェルト様は、王国軍内の“信頼のおける部隊”を、治安維持のため都内に配置することを決定したということです」
えっ、つまり……軍隊が出てくるの?
それって、ラインハルトさんの同僚に……ラインハルトさんを殺させようとしてるわけ?
でもそうか、相手は伝説と謳われる軍人。
宝具を駆使し、数多の戦場を制した大英雄なのだから。
警戒度はトップクラスのはず。
けれど、それにしたって酷過ぎる……。
「出動部隊は以下の通りです。陸軍ロンドニア教導団所属、第1歩兵連隊、同––––第1騎馬連隊、同––––第1魔導連隊、同、第1魔法機動大隊……」
ラジオの音声が流れる中、ラインハルトさんが立ち上がる。
「教導団か、確かに彼らは精鋭だな」
「教導団って……アレですよね? 軍の精鋭部隊で、洗練された教官の集まりっていう」
「よく知ってるね、その通りだ」
振り向いた推しは、嬉しそうに続けた。
「彼らは普段こそ精鋭として教鞭を振るっているが、今回のような首都での有事になると軍服を着て直接出て来る。端的に言えば––––“最も手強い部隊”だよ」
なるほど、だから王都の隣州に配備されてるんだ……。
グラウス王子が言ってた“信頼のおける部隊”と言うのも、それを聞けば納得。
けど、
「ラインハルトさんは……、良いんですか? 彼らは大陸大戦を一緒に生き抜いた仲間なんですよね? そこまでして、わたしなんかを守る価値が––––」
言いかけたわたしの口は、優しく指で押さえられる。
見上げれば、ラインハルトさんが見下ろしながら微笑んでいた。
「ご心配は結構だが、言っただろう? 僕は君を失うことの方が何より痛手だ。まぁ……心配することはないさ」
軍服を整え、手袋をつける。
「王国軍の友邦達の血は、1滴も流させないよ。さぁ行こうか」
「えっ、行くって……この状況でどこにですか? どこか山奥にでも逃げた方が……」
手を引かれて立ち上がった先、伝説の軍人は端正な顔をわたしへ向けた。
「あいにくと背中は見せない主義なんでね、まず君を––––無事職場へ出勤させる」
人生初、推しとの共同出社が確定しました。