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1、サク・ブルーノアは推しだけに宝具を作る

 

 エッフェルト王国は、他のどんな国にもいない究極の人材が生まれる事で有名なの。

 名を、


 ––––“錬金術師“、王国での名称は『聖女』。


 聖女は素材さえ揃えば、現代技術だと作成不可能な道具を錬成することのできる能力者を指す。

 聖女の誕生により、エッフェルト王国は国力を増大––––大陸内で一気に勢力を拡大していったわ。


 手始めに注ぎ込んだのは軍事分野だった。

 聖女は王国防衛省の極秘局に無理矢理入れられ、通常ではあり得ない武器を次々作らされたの。


 そう、いわゆる徴兵ってやつ……。

 聖女たちは、強制的に国のため働かされた。


 その時に作った物はどれも本当にぶっ飛んでたわ。


 炎の剣、絶対溶けない氷の矢、果てには靴擦れしない魔法の軍靴までもう色々。

 10年に渡る大陸内大戦で、エッフェルト王国は聖女から生み出される不思議な道具を使って大国を次々撃破。


 つい1年前、王国は遂に軍事力で圧倒的と言われたミハイル条約機構を相手に戦争で勝った。


 強大な社会主義同盟への勝利は、王国の地位を今までの比じゃないくらいに上げたわ。

 広大な領土の割譲、資源の独占、莫大な賠償金。


 その全てを独り占めして、エッフェルト王国の経済は急上昇。

 戦争が終わって、聖女の存在も世に公表されることとなった。


 人々は熱狂し、聖女という存在は伯爵などを超えんばかりにステータスを上げる。

 さらに国を支えた功績が認められ、聖女には王政府から特別な待遇が与えられることとなった。


 わたしの同期だと、貴族に嫁いだり国の重要役職に就いたり、果ては不労所得で優雅に暮らす子もいたかしら。

 しかしどれにも共通して言えるのは、みんな魔法の道具––––通称”宝具“を作り飽きてしまったこと。


 インスピレーションが無ければ、創造物は生まれない。

 当然のことよね、お金が手に入ればみんな悠々自適に暮らしたがるのは自明の理。


 わざわざ労働者として汗水流すなんて、下民のすることだとみんな去っていった。

 おかげで聖女の地位も急落して––––


「ふぅ、今日はこんなものかしら」


 肩まで伸びた蒼髪を払いながら、わたし––––サク・ブルーノアは本日の業務を終えた。

 薄暗い作業部屋の椅子で、小さな身体をウンと伸ばす。


 蒼色の瞳で見上げた天井は、照明が切れ掛かっていた……。


「定時から3時間も過ぎちゃった……、残業代は……」


 タイムカードを見て、ふと自嘲する。

 紙上では、午後5時に退勤したことになっていた。


 ここ最近、こういったサービス残業ばかり。

 ご飯は自家製の安物詰め合わせ料理に、国から支給されたボロアパート住まい。


 それがわたし、王国試験技術局 技術士官––––サク・ブルーノアの日常だった。


「心が沈む……、こういう時は––––」


 カバンから、1枚のカラー写真を取り出す。

 そこには漆黒の黒髪が美しい、碧眼の軍人が写っていた。


 これはカメラという宝具で撮ったものだが、そんなのはどうでもよく大事なのは映ってるこの方。


「伝説の軍人、共産主義者の師団をたった1人で殲滅したという最強のお方。あぁ……カッコいい。推せる……ッ」


 わたしが聖女特権で手に入れたのは、他でもないこの写真1枚のみ。

 豪華なお屋敷や、崇高なお仕事より……自分はこの方を半ば一方的に好いていた。


 理由は単純。

 見た目が本当に好みだから、さらに言えばそんな推しがわたしの作った宝具を使ってくれてると思うと、いつだって有頂天になれる。


 特権で結婚を迫ることをできたかもしれないけど、それで嫌われたら本末転倒。

 死ぬ、死ねる。きっとショックで自決してしまうだろう。


 そんなのは嫌だ、嫌すぎる。

 推しに嫌われる=自身の死なのだ。


 だからわたしは、写真で眺めて……この方のために宝具を今日も作り続ける。


 この方の––––お役に立つために。


「さっ、仕事も終わったし帰りましょうかね」


 颯爽退勤。

 今日も何気ない一日を過ごしたわたしに、翌朝報告は突然現れた。


 この国の第一王子にあたるグラウス・エッフェルト様が、この技術試験局を訪問することとなったのだ。


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