4話 ハズレ
理解が追いついてきた。どうやら彼女達が俺を試すためにしたことだったようだ。流石に驚いたな、緊張の糸が切れ、その場に座り込む。
少しして落ち着いてから場所を移動。屋根付きの部屋へ。3人がテーブルを囲い座る。受付のメジュさんが飲み物を持ってきてくれた。
「私はキャロン」
「ルフラだ」
「私たちは姉妹なんだ」
ナイトキャップの女性がキャロン、騎士風の女性がルフラ、と。どちらも俺より年上かな。
「さて、試すようなことをした理由なんだけど」
最初期は敵が弱いからいいが、敵が強くなるにつれ怪我をするパターンが多かったようだ。単純に弱いからなかなかPTを組めない。情報が揃っていても思いもかけないことが起こることも。1人だと当然助けてもらえず、危機が訪れると下手をすると死ぬ可能性がある。
形は違うがこういった何が起こるかわからない危険が冒険者にはあるよと伝えたかったとのこと。状況に合わせて助言をするようだ。腰を抜かしたら冒険者をやめることをお勧めするとか。性格診断的なものかな。
「昔は銃使いの死者が多かったけど、最近では死者は0に」
ほほー、効果があったんだな。
「銃使いになる人が減っちゃったんだけどね」
舌を出しながらおどけるキャロンさん。この試験的なものが原因だろうな、そりゃやりたいって人は減るだろう。でも死人が出ないなら確かに良いのかも。黒い棒が追いかけてきたことを思い出す。あんな爆音立てながら迫ってきたら腰を抜かしても仕方がない気はする。
そうだ、あの銃は一体何だったのか。二人共普通の短銃、いわゆる拳銃を身に着けている。脅かし用の銃だったなのかな? キャロンさんに聞いてみた。それならと姉の銃に目配せをする。ルフラさんが銃を取り出し、銃口を上に向けると銃身が伸び始めた。特殊な伸びる金属で作られていて、如意銃と呼んでいるようだ。正体はこの銃だったのか。それにしても変わった戦術だったな。驚かしように考えたやり方かな?
「今の動きは通常の戦い方だ」
銃身を伸ばして壁を削りながら戦うのが普通だって? 順を追って説明していくとキャロンさん。とりあえず銃使いの基本からと詳しい説明を彼女がしてくれた。やはり弱いのは間違いないようだ。
魔法薬は他武器同様、お金を積むほど強力な魔法薬を手に入れられる。弾丸と魔法薬はセットで考える。強い魔法薬を使う場合は強力な金属を使う。攻撃力に関しては金属よりも魔法薬が重要。弾丸には薬莢がない。銃は単発式や連射機能がある銃などいくつか種類がある。
ステ上げの説明を。結論から言うと力。速さを上げ釣り役や魔物から逃げやすくするという手もあるがそこまで重要なわけでは無い。遠くから攻撃しPTまで逃げ切ればいいだけ。後に説明するスキルで速さが上がるスキルがある、これだけでいい。
そもそも通常PTでは他に釣り役や斥候に向いているクラスがあり、我々は滅多に、と言うかほぼそれら目的で誘われることはない。どちらかというと銃使いは遠距離アタッカー。だが魔法使いや弓使いにはどうあがいても勝てない。
自分から誘うってのはあるが良い顔されない。ネトゲだと人気のないクラスはリーダーやってなんとか人集めたっけ。あっちはゲームで、今は生きるため。生活と命がかかってるから良い人材と一緒に戦いたいのは当然か。
引退した者の多くは力があると一般の生活で便利だと語っているそうだ。すでに引退前提のステ振りってのはなかなか悲しいものがある。ステ振りのやり直しは可能か聞いてみたが無理なようだ。
それからスキル。銃使いが弱いのはここにも原因がある。常に能力を上げる、速さをアップなどのパッシブスキルが多い。そして唯一の攻撃系スキルが「零距離射撃」。超接近からの射撃で威力が上がるスキル。遠くから削っていきたいのに接近を要求される。当然被弾もありえる。しかしずっと近距離ゼロ距離射撃を使い続けても、他アタッカーにはダメージレースで全くかなわない。
「それでも、もし続けていくのなら零距離射撃は避けては通れないだろうね」
そうか、伸びる銃でわざわざ相手に銃口を突きつけるのはこのスキルの存在があるためか。如意銃を見ながら一人納得する俺。ルフラさんがうなずく。
レアスキルはもし持っているなら自分で研究してくれとのこと。有用なスキルを持っていた場合、さらわれて悪用されることがあるから、出来れば秘密にしおいたほうが良いようだ。
なるほど、圧倒的なハズレなんだな。スキルまで弱いとは。それでも冒険者をやっていく? と質問してくるキャロンさん。レアスキルがあることだし少し頑張ってみようかな。ダメそうならこの世界の一般的な仕事に就けばいいか。
「やります」
「了解。ではお金を渡しておく」
お金の入った袋と、道具を入れられる革袋をもらった。