1話 力一択だよね
「この武器は銃だったか。失敗したな」
よくある魔物を狩るゲームをプレイ中。武器を買い替えようと店に寄り、持っていた剣より強い数値の武器をよく見ずに買ったら銃だった。
このゲームはレベルが上がったときに貰えるポイントをステータスに振るシステム。最近始めて今まで力の極振りだったから銃では力が関係なく攻撃力が上がらないかと残念がる。とりあえず、現状の威力を見るために街の外へ出て試し撃ちをすることにした。適当な魔物を見つけ銃を撃つ。
「なんでだよ……」
銃の攻撃で弾け飛ぶ魔物。先程の剣より多くのダメージを与えていた。どうやら力が銃の威力に作用しているようだ。現実で考えると頭をひねることになる。玉を詰める力が強いとか、それとも引き金を引く力が強いのかな? 見ると一般的な銃だ。火薬なら関係ないよな。どちらも威力があがるわけない。
思わず突っ込んでしまったが理解はしているつもりだ。力を上げ強い武器を装備すると攻撃力が上がる、煩わしくなく、シンプルでいいと思う。器用、DEXを上げると銃の威力が上がる等、こだわりがあるゲームももちろん好きだ。
切りのいいところでゲームをやめて、あくびをしながら伸びをして布団に入る。今日は疲れていたせいか、すぐに眠りについた。
「ふぁ~、ゲーム画面? 夢かな」
目が覚めて朝かなと思ったがそうではなかった。見たことがないゲーム画面が映し出されていて、そこには「ステータスを割り振ってください」とステ振りを催促する言葉が添えられていた。
ふむ、ステ振りか。一番良いやり方はネットで情報を漁る、コレだろう。ゲームによって違うしね。だが今回はなんのゲームかわからない。ステータス画面しか表示されておらず、ネットに繋げそうにない。ネット検索は諦めるしかない。
となると自力でステを振るしかないな。画面を見る、どうやら力、体、魔力、速さ、器用、運、この6つを上げられるようだ。その下にHP、SP、攻撃力等のステータスが表示されている。力を上げてみる。攻撃力が上がった。下のステータスに影響を与えるわけだな。ポイントを元に戻すことができた。数値も元に戻る。
「振り分けてみよう」
6つの能力を見ながら考える。情報が全くないない状態で、ステ振りをする場合、やってはいけないのは均等に上げるやり方だろう。序盤は良いが徐々に能力が中途半端で器用貧乏になり、弱いキャラが出来上がる。そんな経験を何度もしてきた。半分ずつなんてのも同じ理由でやりたくない。上げるなら1つに全て振り込む、通称極振りだろう。
あとは消去法で。まずは運。運極振りで強いゲームは数少ない。しかも決まったキャラ限定などの極めて狭い範囲の話であることが多い。運はないな。
次は器用。特殊な武器の扱いや命中、ゲームによっては生産系の職業に作用する。死にステになるゲームが結構ある。器用が高いと威力が上がる特殊な技などがあるが現状では知りようがない。器用は上げなくてもいいだろう。
体は防御力かな? ステを1目盛り増やすと防御力とHPが少量あがる。予想通りだ。防御よりもやられる前にやれがいいだろう。それに敵を倒すのに時間がかかるのはね、サクサク進行のほうが誰でもいいだ。ナシ。目盛りを0に戻す。速さも体と同じような理由でナシだな。回避力が上がったり敵から逃げやすかったりするのは良いが、基本殲滅力は上がらない。
魔力か。魔法使いが強いゲームは数多い。こちらか力の二択かな。……なんのひねりもないけど結局力が安定かな。物理職は複数ある、そこから考えても力。定番すぎるけど力極振りにしよう。
ポイントの全てを力に振り込む。よろしいですかの問いかけに「はい」を選ぶ。画面が消えホワイトアウトしていく。ゲームスタートかな、どんなゲームだろう。
基本的にステ振りやりなおしが出来たり、適当に振ってもクリアできる程度の難度など、ゆるかったりしっかり考えられていたりするからそこまで心配することもないはず。面白ければまたやり直せばいいし。
意識が徐々に戻ってくる。夢から覚めたかな、ゲームは始まらなかったようだ。それにしても騒がしい。人々の声、馬車が走る音。まるで外で寝ているようだった。
「って馬車!?」
一気に目が覚める。馬車なんてテレビやゲームでしか見たことない。そんな物がすぐ近くを走っているなんて異常事態だ。目を開け辺りを見回す。中世ヨーロッパのような場所。布団で寝たはずなのにいつの間にか公園の長椅子で寝ていたようだった。服も街行く彼らと同じような服装に変わっている。
「どうなってるんだ」
調べると、どうやらゲームのようなファンタジーな世界に来ていることがわかった。街の名はアテベル。大きな街だ。
寝て起きたら異世界へ来ていた、わけがわからない。ため息をつきながら疲れたので公園に戻り休むことにする。長椅子に腰掛けこの後どうしようかと悩んでいると、剣を背に持ち鎧を着た人に声をかけられた。
「見ない顔だね、冒険者になりに村から来たのかな?」
「はい、そんなところです」
どうやら街の衛兵のようだ。怪しまれないよう平静を装いながら話を合わせる。他の世界から来ましたとはいえないし。