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京都・旅を中心に

2012年 京都の旅 ~失敗! こんな旅行はイヤだ!~

作者: 鶴舞麟太郎

◆奈良・京都 0泊3日


 8月某日。私は奈良に行く用事が出来ました。奈良での用事は金曜日の午前中。だいたい10時~12時ぐらいまでで終わる計算です。しかし、木曜日までは普通に仕事があります。とりあえず、2つの方法が思いつきました。


①当日の始発に乗り、奈良に向かう。

②前日の終業後に新幹線に乗り、深夜に着いて宿泊。奈良に向かう。


 ①は、私が良くやるパターンです。慣れてはいますが、今回は時間が決まった用事です。間に合うは間に合うのですが、新幹線が京都に着くのは8時45分頃。奈良までは約1時間かかりますので、時間的余裕はあまりありません。何かの不具合が生じて、列車が遅延したり、朝寝過ごしたりしてしまった日には目も当てられません。


 ②なら安心なのですが、深夜に着くとすると、ホテルでは寝るだけです。しかも宿泊先として選択できそうなのはビジネスホテルしかなさそうですから、宿泊環境はほとんど期待できません。

 せっかく京都・奈良まで行くのに、泊まるためだけに金を使うのは勿体なさすぎます。



 何か良い方法がないか? そんなことを考えていたとき、1つのアイディアが脳裏に浮かびました。その方法ならば、朝から夜まで時間を最大限使えて、宿泊代を気にする必要が無く、しかも安い。調べてみれば目的地への到着時間も十分すぎるほど余裕があります。



 その方法とは、『夜行高速バスによる京都往復』でした。


 実は夜行高速バスは、大学時代に数回使ったことがありました。しっかり寝られましたし、座り心地も悪くありませんでした。


 しかも、調べてみれば、大学時代に乗ったバスとは違い、3列の独立シートで、隣の席の人を気にする必要も無い。さらには、東京まで行かなければいけない新幹線と違い、夜行高速バスは隣街から出ているのも嬉しいところです。


 調べてみれば、どうやら人気も高いようで、満席になっている日も多い様子。私は、「ナイスアイディア!」と自分自身を讃えながら、早速、座席予約をかけたのでした。






 さて、8月某日22時。私は、隣街にある私鉄の駅前にきていました。京都行きの夜行高速バスに乗るためです。


 バスはトイレ付き、ゆったりとした3列シートで、脇の客を気にせず座ることが出来ます。また、座席回りのカーテンを閉めてやれば、自席が個室状になるため、プライバシーも守られます。さらに、大学時代に乗ったバスと比べて席間も広く、リクライニングも大きく倒せます。これで片道8000円なのですから、なんとリーズナブルなことでしょう。しかも、寝ているうちに目的地まで運んでくれるという、合理厨の私に打って付けの交通手段です。


「もう新幹線なんか乗れねーや!」本気でこの時はそう思っておりました。



 そして、翌朝5時過ぎ、バスは予定よりも少々早く、京都駅に着きました。道中ですか? 特に何もありませんでした。途中海老名SAに寄ったような気はしますが、あんまり良く覚えていません。だって寝てましたから! 客のいびきで起きるとかも一切無く、快適に過ごすことが出来ました。


 唯一気になったのは、尾骶骨びていこつが痛むことぐらいです。私、リクライニングを倒して座ると、尾骶骨が圧迫されるんです。今回は座席を大きく倒していましたし、座っていた時間も長かったため、いつもよりダメージの蓄積は大きそうでした。ただし、この尾骶骨の痛み、これまでもしょっちゅうあることでしたので、この時は全く気にも留めませんでした。










 午後1時すぎ、用事は無事に終わり、私は京都駅に戻っていました。相変わらず尾骶骨に違和感はありますが、いつものことと割り切って動いていました。


 帰りのバスは夜10時。まだ時間はたっぷりとあります。せっかく奈良まで行ったので引き続き観光をしてきても良かったのですが、出先は奈良公園や西ノ京方向とは少し離れていました。周辺にあんまりピンとくる観光地はありませんでしたし、奈良で食べたくなるような名物も思い浮かばなかったので、昼食を兼ねて京都まで戻ることにしたのです。





 京都駅で昼食(※たしか漬物丼)を摂った後、東山界隈に出かけました。


 地下鉄を乗り継いで蹴上けあげへ。そこから、南禅寺に向かい、三門と琵琶湖疎水の水路閣を見ます。


 有名な水路閣は無料タダ、石川五右衛門の「絶景かな絶景かな」で有名な、京都で一番大きい三門も、下から見るだけなら無料タダ。南禅寺は無料タダで見られるエリアが広く、お財布に嬉しい観光地です(笑)



 その後は、南側に歩を進め、……る予定でしたが、ダメでした。


 暑い! 暑すぎます!


 京都の夏をめてました。こんな猛暑の中を歩きまわるなんて自殺行為です!


 私は適当な喫茶店に入ってしばらく涼んだ後、バスで清水寺方面に向かいました。




 その後は、清水寺界隈や、三年坂、二年坂、ねねの道、石塀小路辺りをうろつき、高台寺へ。結構遅い時間になっていたのですが、ちょうど夏の特別拝観期間でしたので、良い感じで時間を潰せました。


 高台寺を出たのは6時半過ぎです。本来ならこれからライトアップ本番なのですが、7時に夕食を予約してあったのです。


 向かったのは八坂の塔のすぐ下にある京料理のお店です。このお店は、何年か前に職場の旅行で同僚に連れて行ってもらって以来、何度か通っています。ただ、私が1人で京都に行くときは基本的に日帰りです。夕食をいただいていてはその日のうちに帰り着けませんので、一人旅で利用するのはこれが初めてです。職場の人間や家族と行ったときは、気を遣って真ん中のコースを頼むのですが、一人なので、なんの気兼ねもなく、一番高いコースを予約してあります。


「なんて贅沢な!」とお考えの方、宿に泊まれば1泊数千円はかかりますよね? 宿代を食費に回して、普段は口に出来ないような手の込んだ物をいただく。これが宿泊しない旅行の利点です。さらに、今回は交通費まで普段の半値程度。いろいろと浮いているのですから、食事ぐらい贅沢をしない手はありません。




 さて、お店では、いつもにも増して美味しい料理をいただけました。先付の野菜の盛り合わせは毎度のごとく絶品でしたし、その後に続く料理も、素材はもちろんのこと、ご主人の仕事が素晴らしい。メインで琵琶湖産天然ウナギが出てきたのには驚きました。




 確かに今までで一番の料理でした。


 でも、今までで一番楽しくありませんでした。


 なぜか?


 すごい物を食べているのは分かるんです。その感動をみんなで分かち合いたい。なのに、それを伝えられるのは、カウンターの前にいる店のご主人だけ。


 確かに料理を誉めれば「ありがとうございます」と言って、いろいろと解説もしてくださいます。が、それまでです。週一で通っているような常連さんならともかく、年に1度行くかどうかの私では、その後の会話が続きません。コース料理の店に孤食は向かない。そう痛切に思いました。

※このお店、現在は予約最少人数が2名~になっています。コロナ禍を経てこれですから、やっぱりコース料理の店に孤食は向かなかったのでしょう。




 食事を終えると、もう夜も更けていました。京都駅のコインロッカーで荷物を回収した私は、高速バスに乗り、心地よい疲れを得て、すぐさま眠りについたのでした。









 翌朝、私は激痛で目を覚ましました。


 痛んでいるのは尻、そう、尾骶骨びていこつの部分です。こんな痛みは今まで感じたことがありません。とりあえず、座席のリクライニングを元に戻します。体重をかけなくても鈍痛は走るのですが、前屈みになっていると痛みはまだマシになります。


 それからは地獄でした。ちょっと深く腰掛けると、跳び上がりそうな痛みに襲われるのです。とにかく尾骶骨がシートに接触しないように。残りの乗車時間はそれだけを考えていました。




 一晩経ったら治るかとも思いましたが、翌日以降も、出勤時に車のシートに座るのもつらいし、仰向けに寝ても痛むほどです。「これは絶対骨折してる!」そう考えざるを得ませんでした。



 めちゃくちゃつらいので、医者に行こうかとも思いました。が、結局行きませんでした。


 骨折を早く治すためには患部を固定する必要があります。しかし、皆さん、考えてみてください。尾骶骨って、一体どうやって固定するんでしょう? 私は手術もせずに固定する方法なんか思いつきませんでした。


 その考察の結果、悟ったのです。「医者に行っても痛み止めを処方されるだけなんじゃね?」と。


 幸い、尾骶骨に体重がかからなければ、痛みは我慢できないほどではありません。多分折れていたとしても亀裂骨折(ひびが入った)程度でしょう。しっかりカルシウム分を摂って、極力体重をかけなければ、きっといつかは良くなるはず。これ以上酷くならないなら放置しよう。そう考えたのです





 この痛みは2週間ほどで軽くなり始め、1か月経ったころには完全に消えました。でも、10年以上経った今でも私は思うのです。


 2度と夜行高速バスで京都往復なんてしない!

 どうしても使わなきゃいけないなら『痔』用のクッションを買う! と。



★教訓1:京都の夏は信じられないくらい暑い

★教訓2:一人でコース料理を食べるのはオススメしない

★教訓3:夜行高速バスを多用するのは危険









◆ハイシーズンの自由席


 尻の痛みも癒えた、2012年11月23日(※勤労感謝の日)。祝日のこの日、私は知人の要請で中学生の野球大会の審判をすることになっていました。ところが、前日22日は土砂降りの雨。この後晴れたとしても、一晩ではグランドの状況は回復しない見込みとのこと。そんなわけで、22日夕刻には大会の延期が決定されました。そうなると、祝日の予定が一日丸空きになります。



 私はひらめきました「そうだ、京都、○こう。」と!(笑)



 11月23日は、祝日であると同時に、京都の紅葉が最高潮になる日です。これより1週間早いとまだ青い葉も多いですし、これより1週間遅いと、半ば散っていることも多いです。京都市街周辺で最高の紅葉を見たかったら、11月23日を中心とした1週間で予定を組んでおけばよい。そんな特別な日です。



 こんな最高の日が休みになるなんて! 私は喜び勇んで新幹線のぞみを予約しようとネットを開くと……! 12時過ぎまで指定席は完売でした。しかも10時台以前はグリーン車すら完売です。流石はハイシーズン。


 しかしながら、こんなことでは諦めていられません。そう、東海道新幹線のぞみには『自由席』という庶民の味方が付いています。全車指定の東北新幹線はやて(※2012年、はやぶさは導入前)とは違うのです!


 幸いにも東京駅は東海道新幹線の始発駅。前もって自由席に並べば良いのです。そうと決まれば始発を乗り過ごすわけにはいきません。明日の4時起きに備えて、私はすぐに就寝の準備を整えたのでした。




 ……このとき気づければ良かったのです。12時過ぎまで(●●●●●●●)指定席が完売(●●●●●●)していることの意味に。








 11月23日。昨日までの雨も朝には上がり、絶好の旅日和です。京都の天気も晴れの予報。紅葉が楽しめそうです。最寄り駅の始発電車に乗った私は、6時20分ごろ東京駅の新幹線ホームに着きました。



 しかし、そこにあったのは目を疑う光景でした。乗る予定の『のぞみ5号博多行き』は、発車時刻の約15分前でしたが、自由席の乗車口には、つづら折りの長蛇の列が出来ているではありませんか!


 軽く数えても1つの乗車口に50人以上は並んでいます。1両の座席数から計算すれば、既に私の分の座席が残されていないことは、どう考えても明白です。



 それでも私は慌てませんでした。昨日指定席がとれないことがわかったときに、折りたたみの椅子を準備していたのです。


「(ふ、勝った!)」


 客車内に突撃していく他の乗客を尻目に、私はデッキに椅子を立て、悠然と読書を始めたのでした。



 しかし、周囲の羨ましそうな視線を浴びていられたのは、ごく短い時間でしかありませんでした。




 品川で大量の乗客が雪崩れ込んできたのです。おかげで、デッキで椅子を出していては、他に迷惑がかかる状況になってしまいました。


 私は椅子を畳むと、足下に荷物を置き、立ち上がりました。しかし、人がたくさんいるとは言っても身動きが出来ないほどではありません。しかも、私がいるのはトイレに近いデッキ。非常時の動線も確保されています。何かあったとき座席にいるよりよっぽど動きやすいじゃないか! そう自分を慰めながら、少しでも消耗を抑えるため、かべに寄りかかるのでした。



 ただ、この時、私は無性に嫌な予感がしていました。東京-京都間には品川の他に、新横浜、名古屋という停車駅があります。この先の2駅で品川と同じぐらい人が乗り込んできたら……。


 私たちは一体どうなるのでしょうか?





 さほど時間もかからずのぞみ号は新横浜駅に滑り込んでいきました。


 ホームを眺めると、私の予想は外れていました。






 ……悪い方向に。


 新横浜駅で並ぶ乗客は、明らかに品川駅よりも多かったのです。私が頭を回転させる暇もないうちに、ドアは開き、無情にも乗客が押し入ってきました。私の体はどんどん奥へと押しやられていきます。


 ふっと隣に目をやると、若い女性の姿が!


 不意に、私の頭の中に『FUNKY(ファンキー) MONKEY(モンキー) BΛBY'S(ベイビーズ)』の『ヒーロー』の歌詞が頭に浮かび、とっさに私は両手を挙げました。




 京都までの残りの約2時間は、ある意味修行でした。すし詰め車内の暑さと圧迫感と揺れ、そして、時折響く、子どもの泣きわめく声や、「トイレに行かせてくださ~い!」という叫び。指定席のデッキを開けたこともあってか、名古屋の乗降がほぼ±0だったのが唯一の救いかもしれません。


 そんな中、私は何もすることが出来ないまま、無心で揺られていました。万歳おてあげスタイルのまま(笑)







 ……この日京都はめっちゃ混んでました。この旅は混んでた記憶しかありません(笑)


 特に、祇王寺に入るための行列が、ずいぶん離れた二尊院の近くまで続いていたのは、もう笑うしかありませんでした。





★教訓4:ハイシーズンの指定席予約は早めに

★教訓5:自由席。座れる見込みがないなら、次の列車を待った方が無難


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― 新着の感想 ―
[良い点] おお…見たことも聞いたこともないほどの大変な旅…。 尾てい骨って、痛くなったことないです。 何するにも痛みそうで怖いです。 再発するお話かと思ってヒヤヒヤしながら読みました。 電車って…
[良い点] これは大変でしたね……。お疲れ様です。 私も超満員、すし詰めの東海道新幹線に乗ったことが数回ありますが、あれは地獄ですよね……窓も開けられないし、一駅一駅の区間が長いし……。 あと尾てい…
[良い点] イタイほど状況が分かる文章。(笑) うわぁ~、辛そう。 新幹線始発駅で「何故1本遅らせて座らないんだろう」と思ったら折りたたみイス! なるほどぉ、と思ったのも束の間、そんな事になろうとは…
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