隣の席、煽る!(2)
えぇ〜?この子めっちゃ煽ってくるんですけどぉ〜?
だが、俺は紳士だ。こんな低俗な煽りなんぞには動じず、心穏やかに会話を続ける。
「はぁ〜〜〜?何だお前ぇ〜〜〜?」
……訂正。心穏やかに続けようと努力はした。
「私はお前って名前じゃないよ金村彼方くん♡隣にいるクラスメイトの名前くらい覚えろカス♡やっぱり頭スカスカ♡橘美代だよ♡ちゃんと覚えたかザコ♡」
「よーしその顔と名前は二度と忘れねえからな覚えとけよお前」
「言ったそばからまたお前♡いいのかなそんな態度で♡」
「なにぃ?」
そう言うと、このミヨとかいうメスガキは、国語の教科書を机に下げてあったカバンから取り出してきた。
「わたしの教科書♡見せて欲しいんでしょ♡」
「ぐぅっ……!それは……見たい!!!」
「頼み方♡」
「え?」
「頼み方があるでしょもっと♡」
な、なんて奴……!けど背に腹は変えられない!授業開始まで残り3分もないから、他のやつにも頼めない!!
「お、お願いします……」
「何を♡」
「教科書を見せてください……」
「誰の♡」
「み、ミヨさんの教科書を……」
「ん♡合格♡」
うーん、屈辱的!!!もう二度と忘れ物なんかしないぞ!!
「一応言っとくぞ、ありがとな!じゃあ次の授業から机くっつけるから!!」
「わかった♡」
はぁ……何とかなった……。てか俺の両隣、田舎っぺヤンキーもどきとメスガキって胃もたれしそうなんだけど…!
その後ホームルームが行われて、一限目までの5分休憩。今日の教科は国語からのスタートだ。というか、この5分休憩あったじゃん!!さっきあんな下手に出てメスガキに頼まなくてもよかったじゃん!!!!
けど、もう頼んじゃったし仕方ないか。
「それじゃ、よろしく」
気は浮かないけど、ガタガタと机を横にスライドさせてくっつける。
「う、うん……」
んん?何だ?いきなりメスガキが大人しくなって、メスガキじゃなくなったぞ?
「どうした?大丈夫か?」
「だ、大丈夫!気にしないで!」
なんか語尾も変わったように感じる。ま、本人が気にするなって言ってるしいっか。……で。
「何で立ってるの?座らんの?」
「すっ、座るよ!座るすわる……」
どうして急に立ち上がったのこの子……?よく分からんやつだなぁ。それよりも授業の用意っと。先生に貸し出されたペンと消しゴム、それからメモ帳。これでメモを取って、後でノートに写せってことらしい。……いや、それよりも。
「……あの、」
「な、何?(フスーッ、フスーッ)」
「えっとその言いづらいんですが」
「な、何なの?(フスーッ、フスーッ!)」
「その……鼻息が……荒いっす……しかもそれでいて、なぜに顔を首元へ、至近距離に近づけておられるのでしょうか……」
「!!!」
そういうと彼女はバッと顔を背けた。しかし、顔を隠されても耳がめっさ赤くなってるのは分かる。
え、何だったんだろう今の……狙ってたのは俺の首元だよな……?まさか……頸動脈……!?俺の血を吸おうとしてた!?つまりコイツは……メスガキヴァンパイアクイーン!?!?
や、ヤバかった……!今のは生命の危機だったんだ!!助かった……一歩遅かったら血を吸い尽くされていたんだ……!
「金村!と隣の女子!……顔色が真っ赤と真っ青で、色合いが綺麗だべな!」
おまえは呑気でいいなぁ鏑木……。
あれ?でも今は太陽出てるか。じゃあ、このメスガキはいったい何をしようとしてたんだろう……?