クラスメイト、濃い!(1)
えっ、嘘だよね?横断歩道挟んで向かいのコンビニに座ってるの、桜庭さんじゃないよね??桜庭さんは清楚で可憐でかわいい女の子だし、あんな下品なうんこ座りでくちゃくちゃガム噛んでるのはきっと別人だな、うん……。
「あー、まじダリィ〜〜!なんでアタシが八部江高校新入生代表なんだよ!他のヤツらにやらせろよクソがぁ……」
本人だった☆新入生代表って言ってるしバッチリ本人だった☆うわぁ……こわいぃ……女の子の表と裏が怖いぃ……。
「何してんだろうなあれ?呼んでみるべ!おーい……」
「ステイ!!鏑木ステイ!!」
「むぐっ」
「アレはそっとしておいた方がいいって!」
「でも、もう気づいたみたいだべ?」
「えっ」
ホントだ。桜庭さん、こっち見て目を見開いてる。
「ペエッッッ」
?……ガムをゴミ箱の中に吐き捨てたぞ。
「……(ズンズンズンズン)」
うおっ、こっちに無言で来る!横断歩道渡るの早っ!?こわっ!!入学式での小股で綺麗な歩き方じゃないぃ!!大股で、肩で風切ってる!!!
「……(ピタッ)」
「ひいっ」
うわっ、めっさ睨まれてる!!しかも両手ポケットに突っ込んでるよ、腰から50°くらいで下からだよ、バリバリ不良のソレだよ!!
不良……そうだ、鏑木!ほら、念願の不良だぞ!お前なら相手してくれるはずだ、頼む!!!
「ふ……」
お、うすら笑い?いいぞ!パネエッス鏑木さん、お願いします鏑木さん!!
「……ふひゅぅ〜♪」
おいコラ鏑木ぃ!!何ビビって目を逸らして口笛吹いてんだ!!!吹けてねえし、冷や汗ダラダラで膝ガクガクじゃねえか!やっぱ不良向いてないよお前!!!
「……」
「……」
「……」
だからって口笛やめるのも違うぞ鏑木!!どうすんだこれ!メンチ切られたままの沈黙すんごい気まずいよ!!!
「あの〜あなた方はもしかして同じクラスの人ですか?」
そん時、突然桜庭さんが口を開いた。50°からすんごい勢いで背筋を立てて、顔も極悪般若顔から、あの優しい女神顔に早変わり。早変わりすぎて別人だと思いたい。何なのこの人。
「ひっ……は、はい、そうです……」
「そっ、そうだべ……」
「そうなんですねー。話すのは初めましてですよね?わたし、桜庭清花って言います。お二人のお名前は?」
「えと、あの……」
「あー、その……」
鏑木、お前から名乗れ、名乗ってくれ……頼むッ!俺には勇気が無い!!
「お名前は?」
「いやー、それは……」
「ははは、えーと……」
「はよ名乗らんかいボケェ!!!」
「かかかっか金村彼方ですすすすす」
「おおおおらおらおらは鏑木俊太だだべべべ」
「そーかぁ、金村に鏑木か……」
あっ、人生終わった。もう俺の人生終わったよこれ。何でこんな人に初恋しちゃったかな〜〜数分前の俺に忠告したい。この人ヤクザだよ〜って、清楚の皮被ってるけど皮の中からキングコブラの刺青入ったゴリゴリマッチョのおっさんギャング出てくるよ〜って言いたい。
「お前らよぉ」
「な、何でしょうか、靴を舐めればいいでしょうか。お金でしょうか。あ、臓器売買ですか?せめて二個ある臓器の部分で!!!あー、でも臓器やだなー!大事だもんなー!!!」
「ど、どうすればいいべ、オラ何にも持ってねえだよ!!そうだっ、髪の毛!髪の毛あげるべ!今からバリカンで刈ってくるから、その髪を何か好きなことに使って貰えれば!!!」
あまりに怖かったので、俺ら二人とも必死に叫んだ。
「いらんわ、んなモン!!じゃなくてだな、お前ら。秘密、守れっか?」
「秘密!?」
「何だべ!?裏取引とかしてたんだべ!?怪しげな粉!?それともさっき食べてたガムが!?」
「ちげえよ、そうじゃなくて!!アタシが元ヤンなことを学校で黙っとけってことだよ!!!」
「ああ!!!なるほど!!!」
「でもそれ多分無理だべ!!!」
「さっきから声でけえな!!!そのせいでこっちも声張り上げなきゃいけなくなっちまってるだろうがよ!!!……え?無理だと?何だ鏑木、お前、口軽いのか?この口が悪いんか?ん???」
「あがががががが!!い、いやそうじゃないべ!!!後ろ、後ろ!!」
「あん?後ろ??」
そう、俺らは恐怖のあまり必死に叫んだんだ。桜庭さんの後ろにいた、下校途中の八部江高校生徒たちに助けを求めるために。そして、おかげで桜庭さんは周りにも響き渡る大声で伝えてしまった。自身が元ヤンであるという、高校生活で隠し通すはずだった事実を──。