入学デビュー、失敗!(3)
「ほら、落ち着いたか?」
「うん、ありがとうだべ」
体育館に移動中、俺はこの昭和ヤンキーもどきをなだめていた。
「取り乱してすまねえ。オラは鏑木俊太つうんだ、アンタは?」
「俺か?俺は金村彼方だ」
「そっか、これからよろしくな金村!」
「おう、よろしく」
どうも悪いやつでもないようだけど。
まあ、そんなこんなで体育館に到着。うちのクラスが最後だったようで、全校生徒がずらっと椅子に座っているのが後ろから見えた。
私立八部江高校は1クラスにつき30人、それが3クラス。それが3年まであるから……いっぱいいる、うん。俺は数字なんかに惑わされない男。とにかくいっぱいズラッと並んで座っているのを見ると、何とも迫力がある。
「では、コレより私立八部江高校入学式を行います。まずは校歌斉唱。全校生徒、起立!」
俺らが座ってすぐ、式が始まった。司会のおさげのメガネ女子に合わせて、生徒も動く。
「……以上、校歌斉唱でした。続いて、強杉剛校長先生より祝辞のお言葉。気をつけ、礼!」
「えー、みなさん。ご入学おめでとうございます。これから皆さんは勉学に励むわけですがー……」
あれが校長先生か。名前に反して、いかにもヨボヨボなお爺さんだ。めっさプルプルしてる。
「というわけで……」
校長先生の話が長いのは、どこの学校でも同じか。
「だからこそですね……」
長いな……てか、俺ら座らせてもらえないのか?
「こういったことで我が校は……」
足痛くなってきたな……。
「そういう流れで、孫にヘッドロックくらいまして……」
!?やっべ、立つの辛くなってきて聞き流してた!何その面白そうな展開!!!
「で、私もパイルドライバーで応戦しまして、クロスカウンターが交錯した時に意識が一瞬飛んだんですけど、すぐさまタックルに行きまして……」
何戦ってんのこの爺さん!?くそっ最初の方もっかい聞きたい!どうしてそうなったんだ!!あと多分みんな立つの限界だよ!!校長先生と震え方が同じになってきてるもん!!駄目だ、このままだと誰か倒れる──!
「そして結局のところ、最後に立っていたのは……」
(バターン!)
あっ、誰か倒れた!誰だ!?
体育館がざわめきたつ。そりゃそうだ。だってこんなに立たされて、盛大に倒れたのが何を隠そう……。
「つっ、強杉校長ぉぉぉ!!!」
「くっ、孫から受けた膝の古傷が……」
校長先生だったから……。
「えー校長先生の足が限界のため、祝辞はここまでとします。続いて、生徒会長挨拶。気をつけ、礼!」
えっ、まだ座らせてくんないの!?校長先生の話、終盤熱かったから気づかなかったけど2時間くらいあったよ!?俺らも足ガクガクで限界なんだけど!!??
「はい、生徒会長の3年A組、赤土です。みんな足つらいよね?座っていいよ!てか座りな!」
あっ、生徒会長ショートカット銀髪イケメンで優しい……男だけど好きになっちゃいそう……。
「ごめんねー?司会の子、うちの副会長なんだけどとんでもないドSでさ……きっと皆んな座らせなかったのもわざと……」
「会長、変なこと言ってると指折りますよ」
「ヒエッ...…ゴメンナサイ」
「ちょっとここから見る全校生徒の顔に興奮して着席の号令を忘れていただけです」
「やっぱりわざとじゃんか!!!」
ええ……副会長こわ……。
「ま、校長先生の話は長かったし!僕からは一言だけ!新入生の皆んな入学おめでとう!高校生活楽しんでってね!以上!」
生徒会長の話は短く終わった。だけど──万雷の拍手が体育館に巻き起こる。何というか、カリスマ性が高い人だなぁ。
「赤土生徒会長、ありがとうございました。でも打ち合わせと違うアドリブスピーチを勝手にしたので、あとでシバきます」
「ひいい……」
……副会長の尻には敷かれてるっぽいけど。
「それでは続いて、新入生挨拶。新入生代表、桜庭清花さん」
「はい!」
司会に呼ばれ、一つ前の席に座っていた女子が立ち上がった。さっきは気づかなかったけど、同じクラスにこんな子がいたのか。黒髪ロングで、いかにも清楚。……正直言って滅茶苦茶好みだ。
「今日、私たちは八部江高校へ入学し……」
澄み切った声。やばい……かわいい……この子と一緒のクラスになれて、俺はなんて幸せ者なんだ。あわよくば高校生活中に告白とかして、恋人になって、遊園地とか行っちゃって、それで──
「……ぃ……おーい、金村もう新入生退場だべ!」
「はっ!わ、悪い悪い!」
「どうしたんだべ、ボーッとしてぇ」
「何、家庭を築いてただけさ……」
「……よ、よく分かんねえけど気持ち悪い顔になってんべオメェ……」
妄想してたら無事(?)入学式は終わったようで、教室に戻る。
「みんな、お疲れさま!これから1年間よろしくね!」
天谷先生がそんな感じのホームルームをして、配布物を受け取り、初日が終了。なんだか、思ってるより濃い時間だったなぁ……。
「なあ、金村!お前、今日は親と帰るのか?」
「いや、親は来てないから一人で帰るよ。そっちは?」
「オラも今日は一人だ!あっちの方に帰るだけども……」
「お、なら途中まで方向同じだな。一緒に帰ろうぜ」
「いいべぇ〜!金村は高校で初めて友達だしな!」
「……お前、恥ずかしくなく言えるタイプだな?」
「?何がだべ?」
「いんや、何でもねえべ」
「ならいいべ!帰ろ帰ろ!」
そうして、鏑木と二人で帰り道を歩く。……俺は六法全書とカゴを持って。「何でそれ持ってたんだべ?」って聞かれたんで「オシャレ」とは答えてやった。「流行ってるのか?」「流行ってるよ」そんな適当な会話をする。しかし野郎二人で帰っていても、心にはあの子の顔が浮かぶ。桜庭さん、かわいかったなぁ……。
「あれ?あれってさっき新入生代表で喋ってた子じゃねえか?」
「えっ、マジか!?どこだ?」
「ほら、あそこのコンビニ」
指が刺された、コンビニの方を向く。
ホントだ!桜庭さんだ!!何をコンビニで買ってるんだろう。あっ店から出てきた!うんレジ袋を持ってても清楚な姿で……。
と、思ってたら彼女は袋から。
ガムを取り出して口に放り込み。
くちゃくちゃと音をさせて噛みながら。
うんこ座りをしたのだった。